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Spring Season
第20投
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久留美たちは創世大と東京国際学院大の試合を偵察に来ていた。
県営大宮球場にて行われる第一試合。バックネット裏の観客席にはたくさんの人が観戦に来ていて中にはスピードガンを持ったスカウトの人もいて驚いた。
電光掲示板には両大学のスターティングメンバーが一番から順番にアナウンスされていた。
創世大の先発ピッチャーは柊。
東京国際学院大の先発ピッチャーは芝浦だ。
「創世大学シートノックあと二分です」
アナウンスが流れて創世大のノックの流れが速くなる。精密機械のようなミスのない守備に圧倒されながら食い入るように見ていた。
「くるみちゃん。ブルペン見てあれが柊かな?」
久留美はゆっくりうなづいた。
ブルペンで投げているのは、紛れもなく柊正義だった。
モデルのような長い脚、上半身は無駄な脂肪がなくアンダーシャツの上からでもわかる張りのある筋肉。
ーーせいぎさん。
創世学園入学した時、彼女は3年生の時すでに肘を壊しており外野手をしていたのだ。
「ラストー!」
気合いの入った声と共に柊が最後の一球を投げ、破裂音に近い乾いたミットの音が球場にこだまする。その勇ましい姿に久留美は感動していた。と同時に後ろめたい気持ちになる。
努力家で完璧主義の柊はその性格が仇となり将来を有望されながら、志半ばで肘を壊した。ピッチャーとしてキャリアを重ねることが難しいと言われても彼女は最後まで諦めず、手術とリハビリに耐え抜いてきたことを久留美は知っていた。
柊を全国大会のマウンドに上げる。
忘れもしない。
チーム一丸になって掲げた夢を当時一年生だった自分が壊した。
「二人とももうすぐ試合が始まるよ」
真咲は二人にそういうとすぐに試合が始まった。創世大は後攻で柊はさっそくマウンドに立った。
柊正義。三年生、右投げ右打ちで背番号は11である。強豪高校出身ぞろいの創世大学のベンチ入りメンバーは二十五人、
その多くは上級生で構成されている中彼女は一年生の頃から先発ローテーションを務めてきた。そして去年全日本大学選手権大会(全国大会)で創世大を準優勝に導きその功績を高く評価され女子日本代表入りを果たした彼女は今やマドンナジャパンのエース的存在になっている。
「プレーボール」
柊が投球モーションに入る。上半身を左腕側に傾け、ほぼ真上から右腕を振り下ろす迫力のあるフォームだ。
ストライク。
アウトコースいっぱいに決まってバックネット裏のスカウトが唸りを上げる。
野球の指導法は人それぞれで、選手の個性を重視するタイプもいれば、自分の得意のパターンにはめようとするタイプもいる。
創世大学の監督は後者のタイプで、特にピッチングの面では上半身を投げる腕の反対側に傾けかせ、真上から腕を振り下ろすスタイルを得意としている。そのため創世大のピッチャーはオーバースローのお手本のようなピッチャーばかりだった。
この指導法で何人もの選手を女子プロ野球に送り込んでいる。ただし久留美はピッチャーだから思う特定のフォームで投げるように強要されるのはいい気がしない。フォームは人それぞれ違うしそれが個性にもなる。りかこによると鳴り物入りで入学した怪物ピッチャーも何人か潰れているらしい。
ストライクアウト!
一番バッターを簡単に三振に取るとキャッチャーがサードにボールを送るショート、セカンド、ファーストにボールが回り最後に神崎にボールが返る。
「ストレート三つで簡単に抑えた。さすがだな」
詩音がそういうと続く二番バッターはサードゴロに抑えた。左バッターをスライダーで詰まらせた。変化球もかなり切れている。
「余裕あるなぁまだ半分くらいの力しかだしてないだろうな」
翔子はなにかをメモして横でビデオを撮っている希に指示をした。三番バッターをセカンドフライに仕留めて駆け足でベンチに戻る。
創世大のチーム打率は三割八分とリーグトップだった。一番に昨年の首位打者四年の中島杏樹、クリーンアップにはキャプテンの指宿聡子、二期連続のリーグ打点女王のタイトルを狙う二年の笠居奏。チャンスに滅法強い三年の鴻巣萌絵里いずれも昨年のベストナインだ。
更に春のリーグ新人王有力候補、ただいま打率四割台、一年生にしてエース柊をリードするキャッチャー香坂遥夏。
破壊力抜群の打撃陣に剛腕ピッチャー柊有する創世大に隙はない。
「咲坂、創世大のバッティングに腰抜かさないようにね」
りかこがそういった瞬間快音が響いて白球が右中間を割った、バッターランナーはあっという間に二塁を陥れる。
続くバッターが初球を難なく送りバントを成功させワンアウト三塁。ここからクリーンアップの登場だ。
三番に構えるのはキャプテンの指宿。
重心を低く落としバットを頭より高い位置で構えたフォームは体のブレを感じさせない、下半身が安定しているからこそできることだ。
「あの人足を上げずに打つんですね」
久留美がりかこに尋ねるとりかこはうなずいた。
「あのバッターはノーステップ打法の使い手なのよ。すべての球種、スピードに対応できる技を持っている」
カウントワンストライクツーボールからの四球目は低めの変化球だった。縦に落ちるスライダーで指宿の体が前につんのめる。
普通の打者なら空振りするか手首をこねてひっかけるところだが指宿は違った。
咄嗟に軸足を浮かせ体全体を前に移動させると左手首が返ってしまうのを防いだまま振り切った。
「うまい」
誰もが思わず声を上げるワンバウンドになるギリギリで低めのボールをセンターの前に運んだ。
わずか10球足らずで1点を先制した。
県営大宮球場にて行われる第一試合。バックネット裏の観客席にはたくさんの人が観戦に来ていて中にはスピードガンを持ったスカウトの人もいて驚いた。
電光掲示板には両大学のスターティングメンバーが一番から順番にアナウンスされていた。
創世大の先発ピッチャーは柊。
東京国際学院大の先発ピッチャーは芝浦だ。
「創世大学シートノックあと二分です」
アナウンスが流れて創世大のノックの流れが速くなる。精密機械のようなミスのない守備に圧倒されながら食い入るように見ていた。
「くるみちゃん。ブルペン見てあれが柊かな?」
久留美はゆっくりうなづいた。
ブルペンで投げているのは、紛れもなく柊正義だった。
モデルのような長い脚、上半身は無駄な脂肪がなくアンダーシャツの上からでもわかる張りのある筋肉。
ーーせいぎさん。
創世学園入学した時、彼女は3年生の時すでに肘を壊しており外野手をしていたのだ。
「ラストー!」
気合いの入った声と共に柊が最後の一球を投げ、破裂音に近い乾いたミットの音が球場にこだまする。その勇ましい姿に久留美は感動していた。と同時に後ろめたい気持ちになる。
努力家で完璧主義の柊はその性格が仇となり将来を有望されながら、志半ばで肘を壊した。ピッチャーとしてキャリアを重ねることが難しいと言われても彼女は最後まで諦めず、手術とリハビリに耐え抜いてきたことを久留美は知っていた。
柊を全国大会のマウンドに上げる。
忘れもしない。
チーム一丸になって掲げた夢を当時一年生だった自分が壊した。
「二人とももうすぐ試合が始まるよ」
真咲は二人にそういうとすぐに試合が始まった。創世大は後攻で柊はさっそくマウンドに立った。
柊正義。三年生、右投げ右打ちで背番号は11である。強豪高校出身ぞろいの創世大学のベンチ入りメンバーは二十五人、
その多くは上級生で構成されている中彼女は一年生の頃から先発ローテーションを務めてきた。そして去年全日本大学選手権大会(全国大会)で創世大を準優勝に導きその功績を高く評価され女子日本代表入りを果たした彼女は今やマドンナジャパンのエース的存在になっている。
「プレーボール」
柊が投球モーションに入る。上半身を左腕側に傾け、ほぼ真上から右腕を振り下ろす迫力のあるフォームだ。
ストライク。
アウトコースいっぱいに決まってバックネット裏のスカウトが唸りを上げる。
野球の指導法は人それぞれで、選手の個性を重視するタイプもいれば、自分の得意のパターンにはめようとするタイプもいる。
創世大学の監督は後者のタイプで、特にピッチングの面では上半身を投げる腕の反対側に傾けかせ、真上から腕を振り下ろすスタイルを得意としている。そのため創世大のピッチャーはオーバースローのお手本のようなピッチャーばかりだった。
この指導法で何人もの選手を女子プロ野球に送り込んでいる。ただし久留美はピッチャーだから思う特定のフォームで投げるように強要されるのはいい気がしない。フォームは人それぞれ違うしそれが個性にもなる。りかこによると鳴り物入りで入学した怪物ピッチャーも何人か潰れているらしい。
ストライクアウト!
一番バッターを簡単に三振に取るとキャッチャーがサードにボールを送るショート、セカンド、ファーストにボールが回り最後に神崎にボールが返る。
「ストレート三つで簡単に抑えた。さすがだな」
詩音がそういうと続く二番バッターはサードゴロに抑えた。左バッターをスライダーで詰まらせた。変化球もかなり切れている。
「余裕あるなぁまだ半分くらいの力しかだしてないだろうな」
翔子はなにかをメモして横でビデオを撮っている希に指示をした。三番バッターをセカンドフライに仕留めて駆け足でベンチに戻る。
創世大のチーム打率は三割八分とリーグトップだった。一番に昨年の首位打者四年の中島杏樹、クリーンアップにはキャプテンの指宿聡子、二期連続のリーグ打点女王のタイトルを狙う二年の笠居奏。チャンスに滅法強い三年の鴻巣萌絵里いずれも昨年のベストナインだ。
更に春のリーグ新人王有力候補、ただいま打率四割台、一年生にしてエース柊をリードするキャッチャー香坂遥夏。
破壊力抜群の打撃陣に剛腕ピッチャー柊有する創世大に隙はない。
「咲坂、創世大のバッティングに腰抜かさないようにね」
りかこがそういった瞬間快音が響いて白球が右中間を割った、バッターランナーはあっという間に二塁を陥れる。
続くバッターが初球を難なく送りバントを成功させワンアウト三塁。ここからクリーンアップの登場だ。
三番に構えるのはキャプテンの指宿。
重心を低く落としバットを頭より高い位置で構えたフォームは体のブレを感じさせない、下半身が安定しているからこそできることだ。
「あの人足を上げずに打つんですね」
久留美がりかこに尋ねるとりかこはうなずいた。
「あのバッターはノーステップ打法の使い手なのよ。すべての球種、スピードに対応できる技を持っている」
カウントワンストライクツーボールからの四球目は低めの変化球だった。縦に落ちるスライダーで指宿の体が前につんのめる。
普通の打者なら空振りするか手首をこねてひっかけるところだが指宿は違った。
咄嗟に軸足を浮かせ体全体を前に移動させると左手首が返ってしまうのを防いだまま振り切った。
「うまい」
誰もが思わず声を上げるワンバウンドになるギリギリで低めのボールをセンターの前に運んだ。
わずか10球足らずで1点を先制した。
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