戦力外スラッガー

うさみかずと

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これが野球

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「みんなごめん、最後の最後で」
 和彦は声を押し殺した。
「なんてことねぇ」
 総司が背中を叩く。
「終わったことは仕方ないよ、それより足は大丈夫?」
「……なんとかする」
「しょぼい顔すんなよ、まだ一点だ。みんなで桜高校の校歌歌おうぜ」
 和彦の帽子を取り上げた雄大が茶化したが誰も反応できなかった。
「てめぇ、なにちゃっかり自分の意見押し通してんだコラ」
 総司が言い返すと、ようやく意味が伝わり笑いが起こる。
「で、どうします?」
 銀二が表情を引き締める。
「次は四番ですが、敬遠して満塁にしますか」
「いや、勝負する」
 雄大は誰よりも早く宣言する。
「ここで逃げちゃだめだ。三番、四番を抑えて逆転する、このシナリオで決めた」
 大きく息を吸う。マウンドの熱気は肺を焼くようだった。
「キャプテンが言うんじゃしゃーない」
「だな。奇跡起こすか!」
 翔と朔の二遊間コンビが笑いながら周囲に同意を求めると、全員が頷き最後に総司が決然とした口調で、
「まぁなんだ、考えてみればここまでいい試合をしてるのがすでに奇跡かもな。別に打たれても今さら失うものねぇし、最後くらい楽しくやるかなぁ円陣組もうぜ」
 いわれるがまま九人はマウンドの上で肩を組んだ。
「絶対に勝つ!」
「よっしゃー!」
 一つの輪が解けて選手はそれぞれの守備位置に戻っていく。
 審判はかなり険しい顔をしていた。当然だ、マウンドに外野手も集まってその上円陣組んで時間を大幅に遅延させたのだ。もしかしたらこちらにとって不利な判定をされるかもしれない。
 だけど、そんなことどうだっていいか。俺は太一のミットを目掛けて投げ込むだけだ。技術はないけど、強い気持ちはある。状況は最悪でも、最高の仲間が出来た。俺の夢は半分叶ったじゃないか。でも夢っていうのは不思議だ。手の届くところまでくるとその先の新しい夢が見えるようになる。この一試合だけじゃなくて、勝ってその次も甲子園までこのチームで戦いたいそう思った。だからこそ俺は逃げない。こんなことで逃げてたんじゃ甲子園なんて絶対に行けやしない。だから今出せる最高の力でバッターと勝負する。
 ランナーは関係ない、足を高く上げ、勢いをつける。中指と人差し指の外側に力を入れ空手チョップの要領でボールを滑らせる。バッターのバットがインコースに食い込むボールを捉えた。
 鋭い金属音が響く。反射的に左手を伸ばしたが、打ち返された打球は雄大の頭上を通過した。やられた。すぐに振り返り行方を追う。バットの芯と真正面からジャストミートしたため少しドライブ回転がかかり打球はそれ以上上がることはなくセンターの総司の前に向かってきた。
 ランナーがタッチアップの体勢に入る。総司が突っ込んで顔の位置でボールを捕球すると前に一回転しそうな勢いでバックホームする。中継に入っていたショートの翔はさっと身をかがめ、そのずぐ上をボールが通り過ぎていく。火がでるような返球は、地面にバウンドすることなくキャッチャーミットに収まった。走路に被ることなく最もタッチしやすいランナーの足元周辺。太一はホームベースをブロックすることなくランナーの足首を払うようにタッチする。ついさっきぶっ飛ばされたばかりなのに、争いを嫌う彼の優しい性格が顕著に表れたプレーだ。
 アウト!
 球場全体から大きなため息が漏れる。息をのんでいた観客が一斉に呼吸を始めた。
 雄大はスコアボードを眺める。8対7。勝ち越され裏の攻撃で点をとれなかったら夏が終わる。
「よっしゃー!」
 総司が叫びながらほかの選手を引き連れてベンチに走っていく。
 確証はもちろんないでも、勝てそうな気がする。根拠のない自信が沸き上がり遠慮ない笑みを零す。

 これが野球なんだ。
 康太はグラウンドから戻ってくる選手たちを見つめて大きく息を吸う。興奮して自分でも驚くほど脳が酸素を欲していることが分かった。谷村学院のバント攻撃に心底頭に来ていたが、選手たちは誰の力も借りることなくこのピンチを最小で抑えて帰ってきた。本当にいい顔をしている。特にチームのピンチを救い悪い流れを断ち切った総司はとびっきりの笑顔だった。外野の守備はお世辞にも上手いとは言えなかったが雄大に触発されアメリカンノックを受け続けた成果がこんなところで発揮されるなんて。太一と言い、銀二と言いこれだから野球は不思議なスポーツだ。
「この野郎、お前のところにボール飛んだ時はヒヤッとしたぞ」
「ふざけんな、俺はてめぇが間違ってカットに入るんじゃねーかと心配したぜ」
 翔がからかうと総司が照れたように鼻を擦り憎まれ口を叩く。
 康太から見ても翔の判断は冷静だった。
「監督!」
 雄大の声が聞こえる。選手全員の眼差しがこちらを向いていた。
「円陣を組もう、集まってくれ」
 選手たちはベンチ前に集まり康太の言葉を待っている。言いたいことは山ほどあるが最後まで諦めるなとか、ここが踏ん張りどころだとかそんなありきたりな言葉しか浮かんでこない。さて何を言おうか。時間はあまりない早くしなければ金井が余計なことを口走ってしまいそうだ。
「やっぱり野球って楽しいな」
 こんな下手くそな切り出し方があるかと自分にツッコミを入れながら話を進める。
「強豪相手にこんな楽しい状況を作ったのは紛れもないみんなだ、この試合はみんなのものだ」
「オウ!」
 声が揃った。合同チームで初めての公式戦。しかも相手は県内ベスト16常連校。試合慣れしていない選手たちにはプレッシャーも倍に感じていたに違いない。その証拠に全員が泥だらけで疲労が顔に色濃く出ている。
 体力、精神の限界はとうに超えているが目だけは誰も死んでない、鋭く虎視眈々と獲物を狙う狩人の目つきだ。
「負けるな、どんな手を使っても勝つ。ただし正々堂々と最後まで悔いが残らないように楽しくやろう。以上俺の話しおしまい!」
「オス!」
 円陣が解け選手たちはでたらめに叫び気合を入れなおした。ここまで来てどん欲に勝ちにいくなんて名ばかり監督の俺が思い上がったものだ。自嘲する。しかし負けたけどよくやったナイスゲームで終わるつもりはない。勝負事は勝たなきゃ意味がないことをよく知っている。だからこそどう思われようが俺は正々堂々とどんな手を使っても最後まで勝ちにいく。
 ネクストバッターの道弘に声をかけてベンチに呼び戻す。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
「ならフルスイングしてこいよ」
「もちろんです、でも銀二が塁に出たら送りバントのサインを出してください」
 康太は思いがけない言葉に唇を歪めた。
「高校最後の打席になるかもしれないんだぞ」
「はい、でも勝てば次がありますから」
「そうだったな」
 そう言って道弘のヘルメットを軽く叩く。
 康太は思った。もし野球の神様がいるのならどうかこのチームを勝たしてあげて欲しい。
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