永遠のカゲロウ

海月

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プロローグ

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色づいた世界が突如として色あせる。
モノクロの世界が辺り一面を覆う。
幸せが崩れるときだっていつもそうだ。


今年の春に高校に通いはじめる木露草彩(もくろかやさ)は、いつになく胸を高鳴らせて入学式の日を待っていた。それと言うのも、中学の頃はほとんど人目に触れず、教室の隅に忍んでいるような存在だったからだ。学校に来るのもつらい。草彩はそう思うようになっていた。「本当はみんなと話したい」「本当はクラスの一員として過ごしたいのに…」草彩は休み時間に一人で図書室に行くのが当たり前になっていた。草彩が唯一自分を癒すことができる場所だからだ。誰にも迷惑をかけずただひたすらに自分の好きな本を読む。それが草彩にとって学校で生活するために残された、最適解であったのだ。

"最適解と言っても消去法的なのだが" 

どんよりとした雲が澄んだ空を包み込む。草彩は中学校の頃のことを振り返って酷く後悔の念に押しやられた。心にできた腫れ物を無慈悲に潰されたような気がして苦しくなった。

「高校に行ったらどんな生活になるのだろう。」「友達はできるのかな」「高校ってどんな場所なんだろう…」不安が込み上げる。毎日心の中が波打ちぎわのように乱れていた。

草彩は家で過ごす時間が多く、勉強だけはそれなりにできていた。先生からも草彩の努力は認められていた。その面、高校では自分の興味のある生物を学ぶ事は楽しみだった。中学の時に読んだ「カゲロウの夢」という小説が、草彩に生物の面白さを教えてくれていた。中学の先生や親からも生物部に入ることを勧められるようにもなっていたのだ。

そして迎えた入学式の日

草彩はやけに静かな入学式である事に驚いた。知らない顔がお人形さんのように並ぶ。入学式の内容はほとんど覚えていないが、すぐに終わった事は確かだ。式が終わった後、各教室でアンケートが取られた。『ブカツドウキボウチョウサ』そう書かれていた。草彩は生物部の欄に恐る恐る丸をした。

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