【完結】●●のために、婚約破棄を阻止したかった侯爵令嬢

カド

文字の大きさ
4 / 8

望まぬ来訪者、二人目<侯爵令嬢視点>

しおりを挟む
「お嬢様、お客人がいらっしゃ……」

スッ
「邪魔するぞ」

サルマンが嵐のように来て、帰っていった次の日。
メイドが案内を言い終える前に、しゅんっと静かな音を立ててすらりとした男が直接部屋の中に入ってきた。
魔法で移動してきたその姿に、私はつい抗議の声を上げる。

「せめて最後まで言わせてあげてください!」

「何を言う、ちゃんと最後まで待ったじゃないか」

「いーーえ、言えてませんでした。っていうか人の屋敷いえでそんな気軽に空間転移魔法使わないでください??」



フン、と顔を背けて椅子へ座ったのは母方従兄弟のソルトだ。
上品だがラフな普段着に黒いローブを着ている。国内きっての天才魔術師は顔面偏差値も国宝級に高く、眼鏡の奥の涼やかな目がたまらないとか何とか言われてるみたい。

宰相補佐を務めているソルトは、能力はトップクラスだけど上司にも部下にも冷ややかな対応を貫く人。女性たちからは、そこもいいとか何とか言われてるっぽいから世間っていうのは分からない。私には昔から何となく甘くて、そこも全くよく分からない。
宰相はソルトの父であるお方。私から見て伯父にあたる方ですね。


「屋敷の前からここへ飛んだだけだ。何も問題なかろう」

「その言い方だとあなた、もっと長距離を飛ぼうとしてました……?」

「……叔母様特製の回復ポーションがあと1本あれば、昨日誰よりも先に俺が早くこの部屋に着いていたんだ」

「どこ張り合ってんですか!」

多分、ポーションがあったら領地から一気にここ目指してたんだろうな……そんなの平民どころか、並の貴族だって一生かかってもたどり着けない境地なのに。

ちなみに叔母様っていうのは私の母様のことを指している。叔母様特製ポーションは、母の調合した秘蔵ポーションのこと。常人ではその回復力に耐え切れず副作用がすごいらしくて、市場には出回っていない。
ソルトは、私に何かあったときの為に……とたびたび母様から受け取っているんだとか。二人して魔力を無駄使いするんじゃない。




「それで、例の王子を人知れず再起不能にする話だが……」

「結論が物騒!そんな話になってるんですか!?」

「安心しろ、大臣たちにも話は通してある。いかなる罪にも問われることはない」

「どんな話の通し方をすればこんなことになるんです……?」

「どんなと言われても、愛らしい我が従姉妹をコケにされたから相応の処罰を下さなければならないと皆に伝え……」

「皆に!」

その単語は昨日聞いたばっかりで、嫌な予感がまた一個増えてしまう。

「……口止めはしたが、今日には既に末端まで知られていたな。お陰で王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているぞ」

「それ誰にも言わないでくださいね~~~って言っておきながらあっという間に全員へ広がっちゃうやつの典型じゃないですか……!」

既にもう王宮中にまで広がってるだと……?
何で頭いいはずなのに脳筋より馬鹿なことしでかしてるんですか……

「そ、そんな時にここへ来てていいんですか……?」

「これを察して昨日の夜、長期休暇をもぎ取ってきたからな。宰相である父も同じくだ」

「それで私服だったんですね……」

国の文官トップが二人共長期的に休みを……
頭を抱えて考え込む私を尻目に、メイドの用意した紅茶をしれっと飲んでいるソルト。




「……ミレイだって分かっていたはずだろ?こうなることぐらい」

「……」

私は何も言い返せずに、深いため息をつく。
……そうです、わかってました。だから止めたかったんです……
こうなってしまうともう、国が終わってしまうって、私は分かっていたから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...