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望まぬ来訪者、二人目<侯爵令嬢視点>
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「お嬢様、お客人がいらっしゃ……」
スッ
「邪魔するぞ」
サルマンが嵐のように来て、帰っていった次の日。
メイドが案内を言い終える前に、しゅんっと静かな音を立ててすらりとした男が直接部屋の中に入ってきた。
魔法で移動してきたその姿に、私はつい抗議の声を上げる。
「せめて最後まで言わせてあげてください!」
「何を言う、ちゃんと最後まで待ったじゃないか」
「いーーえ、言えてませんでした。っていうか人の屋敷でそんな気軽に空間転移魔法使わないでください??」
フン、と顔を背けて椅子へ座ったのは母方従兄弟のソルトだ。
上品だがラフな普段着に黒いローブを着ている。国内きっての天才魔術師は顔面偏差値も国宝級に高く、眼鏡の奥の涼やかな目がたまらないとか何とか言われてるみたい。
宰相補佐を務めているソルトは、能力はトップクラスだけど上司にも部下にも冷ややかな対応を貫く人。女性たちからは、そこもいいとか何とか言われてるっぽいから世間っていうのは分からない。私には昔から何となく甘くて、そこも全くよく分からない。
宰相はソルトの父であるお方。私から見て伯父にあたる方ですね。
「屋敷の前からここへ飛んだだけだ。何も問題なかろう」
「その言い方だとあなた、もっと長距離を飛ぼうとしてました……?」
「……叔母様特製の回復ポーションがあと1本あれば、昨日誰よりも先に俺が早くこの部屋に着いていたんだ」
「どこ張り合ってんですか!」
多分、ポーションがあったら領地から一気にここ目指してたんだろうな……そんなの平民どころか、並の貴族だって一生かかってもたどり着けない境地なのに。
ちなみに叔母様っていうのは私の母様のことを指している。叔母様特製ポーションは、母の調合した秘蔵ポーションのこと。常人ではその回復力に耐え切れず副作用がすごいらしくて、市場には出回っていない。
ソルトは、私に何かあったときの為に……とたびたび母様から受け取っているんだとか。二人して魔力を無駄使いするんじゃない。
「それで、例の王子を人知れず再起不能にする話だが……」
「結論が物騒!そんな話になってるんですか!?」
「安心しろ、大臣たちにも話は通してある。いかなる罪にも問われることはない」
「どんな話の通し方をすればこんなことになるんです……?」
「どんなと言われても、愛らしい我が従姉妹をコケにされたから相応の処罰を下さなければならないと皆に伝え……」
「皆に!」
その単語は昨日聞いたばっかりで、嫌な予感がまた一個増えてしまう。
「……口止めはしたが、今日には既に末端まで知られていたな。お陰で王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているぞ」
「それ誰にも言わないでくださいね~~~って言っておきながらあっという間に全員へ広がっちゃうやつの典型じゃないですか……!」
既にもう王宮中にまで広がってるだと……?
何で頭いいはずなのに脳筋より馬鹿なことしでかしてるんですか……
「そ、そんな時にここへ来てていいんですか……?」
「これを察して昨日の夜、長期休暇をもぎ取ってきたからな。宰相である父も同じくだ」
「それで私服だったんですね……」
国の文官トップが二人共長期的に休みを……
頭を抱えて考え込む私を尻目に、メイドの用意した紅茶をしれっと飲んでいるソルト。
「……ミレイだって分かっていたはずだろ?こうなることぐらい」
「……」
私は何も言い返せずに、深いため息をつく。
……そうです、わかってました。だから止めたかったんです……
こうなってしまうともう、国が終わってしまうって、私は分かっていたから。
スッ
「邪魔するぞ」
サルマンが嵐のように来て、帰っていった次の日。
メイドが案内を言い終える前に、しゅんっと静かな音を立ててすらりとした男が直接部屋の中に入ってきた。
魔法で移動してきたその姿に、私はつい抗議の声を上げる。
「せめて最後まで言わせてあげてください!」
「何を言う、ちゃんと最後まで待ったじゃないか」
「いーーえ、言えてませんでした。っていうか人の屋敷でそんな気軽に空間転移魔法使わないでください??」
フン、と顔を背けて椅子へ座ったのは母方従兄弟のソルトだ。
上品だがラフな普段着に黒いローブを着ている。国内きっての天才魔術師は顔面偏差値も国宝級に高く、眼鏡の奥の涼やかな目がたまらないとか何とか言われてるみたい。
宰相補佐を務めているソルトは、能力はトップクラスだけど上司にも部下にも冷ややかな対応を貫く人。女性たちからは、そこもいいとか何とか言われてるっぽいから世間っていうのは分からない。私には昔から何となく甘くて、そこも全くよく分からない。
宰相はソルトの父であるお方。私から見て伯父にあたる方ですね。
「屋敷の前からここへ飛んだだけだ。何も問題なかろう」
「その言い方だとあなた、もっと長距離を飛ぼうとしてました……?」
「……叔母様特製の回復ポーションがあと1本あれば、昨日誰よりも先に俺が早くこの部屋に着いていたんだ」
「どこ張り合ってんですか!」
多分、ポーションがあったら領地から一気にここ目指してたんだろうな……そんなの平民どころか、並の貴族だって一生かかってもたどり着けない境地なのに。
ちなみに叔母様っていうのは私の母様のことを指している。叔母様特製ポーションは、母の調合した秘蔵ポーションのこと。常人ではその回復力に耐え切れず副作用がすごいらしくて、市場には出回っていない。
ソルトは、私に何かあったときの為に……とたびたび母様から受け取っているんだとか。二人して魔力を無駄使いするんじゃない。
「それで、例の王子を人知れず再起不能にする話だが……」
「結論が物騒!そんな話になってるんですか!?」
「安心しろ、大臣たちにも話は通してある。いかなる罪にも問われることはない」
「どんな話の通し方をすればこんなことになるんです……?」
「どんなと言われても、愛らしい我が従姉妹をコケにされたから相応の処罰を下さなければならないと皆に伝え……」
「皆に!」
その単語は昨日聞いたばっかりで、嫌な予感がまた一個増えてしまう。
「……口止めはしたが、今日には既に末端まで知られていたな。お陰で王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているぞ」
「それ誰にも言わないでくださいね~~~って言っておきながらあっという間に全員へ広がっちゃうやつの典型じゃないですか……!」
既にもう王宮中にまで広がってるだと……?
何で頭いいはずなのに脳筋より馬鹿なことしでかしてるんですか……
「そ、そんな時にここへ来てていいんですか……?」
「これを察して昨日の夜、長期休暇をもぎ取ってきたからな。宰相である父も同じくだ」
「それで私服だったんですね……」
国の文官トップが二人共長期的に休みを……
頭を抱えて考え込む私を尻目に、メイドの用意した紅茶をしれっと飲んでいるソルト。
「……ミレイだって分かっていたはずだろ?こうなることぐらい」
「……」
私は何も言い返せずに、深いため息をつく。
……そうです、わかってました。だから止めたかったんです……
こうなってしまうともう、国が終わってしまうって、私は分かっていたから。
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