【完結】●●のために、婚約破棄を阻止したかった侯爵令嬢

カド

文字の大きさ
3 / 8

望まぬ来訪者<侯爵令嬢視点>

しおりを挟む
「お嬢様、お客人がいらっしゃっております」

翌日。その報を聞いたとき、一瞬で嫌な予感がよぎった。

「……客間でお待ちいただくように伝えてくれる?いえ、待ってちょうだい、ちょっと具合が悪いってことに……もしくは出掛けていると伝えて……!」

「お嬢様、お客人はすでに……」


居留守をしてしまおうかと考える内に、乱暴な足音が既にドアの前まで聞こえていた。焦った門番の声が聞こえる。

「お客様、お待ちくださいませ~~~!」

バターーーン!

「ミレイ!」


っていうかドアも開いていた。

「ミレイ、聞いたぞ!とうとう王家と戦を始めるらしいな!」

「どういった経緯でそういうお話が伝わったのか説明していただけます???」

勢い込んで私の部屋の扉を開けたのは父方従兄弟のサルマン。国内きっての武闘派であり、若くして王国最強の騎士団長をお勤めになっています。

その腰には我が家の門番がくっついて止めようとしているのが見える。私の合図があるまでは通すまいと頑張ってくれたんだろうな……後でお礼とお詫び言おう……


「どういったって、お前がバカ王子からこっぴどく振られて婚約破棄されたって話だけど」

「正しく伝わった上でその反応なんですね!……とにかく帯びている剣を置いてくださいませ……」

読んでいた本をパタンと閉じて彼を迎える。くっついてきた門番には手を振って、元通り門で控えているように伝えた。
この従兄弟、重々しい鎧まで一式着込んで、完全武装じゃないのよ。

とりあえず落ち着いてと言い聞かせ、メイドにお茶の用意を頼んでから重々しい鎧なんかを一度全部脱いでもらった。


こざっぱりと短髪で揃えた精悍な顔立ちだ。若いながら多大なる武勲を上げたことと、その眩しい程の見た目の良さで男女共に絶大な人気があるとか。
長身の体は並の男性より二回りほど大きい。筋肉で膨らんでいて、日々の鍛錬がうかがえる体つきだ。

なんでその鍛錬の賜物をこんなことに使おうとしてるんだ、この従兄弟は。

「大体あなた王直属の騎士団長様でしょう。上司の息子に逆らうということをわかっていらっしゃるの?」

「心配するな、俺の隊は勇敢ぞろいだ。この話をしたら皆口々に誓ってくれたぞ、俺と共に戦うと」

――国への忠誠心は!!

思わず思いっきり心中でツッコミを入れてしまった。
そしてあることに気づいて、頭痛を感じたこめかみを触る。

「っていうかお待ちください。この話をしたら?つまり騎士団ではすでに……?」

「おう、この話で持ち切りだ」

「何っってことしてくれてるんですか!」

「心配するな、あの軟弱王子の私兵なんて高が知れてる。王国の警備は俺たちでもっているようなものだからな!」

「違う。違います。そういったことを心配しているのではなくて……」

言い募っても戦力差のことしか言わない脳筋騎士団長に、私は頭を抱えた。

「大事にしたくなかったのに~~~……」

「そうは言ってもなあ」

茶菓子のクッキーをひょいひょい口に放りながらサルマンは言う。

「幼い頃から共に育ってきたお前は、俺にとって妹のようなものだ。その大事な女の子がコケにされて黙っていられるわけがないだろ?」

「普通、兄は妹のために隊を指揮して戦争を起こそうなどと考えないと思うのです……」

「はっはっはっはっ」

「何笑ってるんですか???」

サルマンは紅茶に手を付け、一息に飲み干してから話を変えた。

「俺のところの方が近いから先に来たみたいだが、そのうちアイツだって来るだろう。気持ちは同じだろうからな」

「ですよね……」

嵐はまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...