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両親へ報告<侯爵令嬢視点>
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帰省した先で夕食を共にしながら学園での生活の様子を聞かれる。
いつもだったら当たりさわりなかったり、微笑ましい話だけを伝えるようにしていたのだが、今日はそういうわけにもいかなかった。
「なァ~~~~~にィ~~~~~!!!!??」
「アナタ、うるさくてよ」
「父様、耳が痛いです……」
「しかしだなぁ!!」
もちろん、出来るなら言いたくなかったのだ。
この両親は、一つ一つのリアクションが大げさだったりするので。
父様、手に持ったフォークがぐんにゃりと歪んでます。すかさず給仕が新しいフォークと交換してたけど、まだ話し始めたばっかりだから後にした方がいいんじゃないかな。銀製のフォークが飴細工みたいに柔らかくなってたよ。
「……それで、ワタクシの可愛いミィ。今のお話もう一度くわしく聞かせてくださる?」
「……はい、母様」
母様から子供の時みたいな愛称で呼ばれて、私の唇はひくっと引きつった。母様の後ろからドス黒いオーラが駄々もれているんですが……
「ですから……婚約破棄を言い渡されました、婚約者であるリード様から」
「なるほど、よし!戦争だな!」
「落ち着いてくださいませ!」
勢いよく立ち上がって、食事用の大きなテーブルをバァン!と叩いた父様が咆哮を上げる。質の高い一枚岩から切り抜いて何重にも補助魔法をかけられているテーブルは、ミシッ!とちょっとした鳴き声を上げただけで耐えたらしい。何発か加えたらまずい気がする。
ついでに押し潰されたフォークも即行で交換されていましたとも。
「そうよアナタ、落ち着いてちょうだい」
父様の動揺に比べれば、母様はまだ落ち着いているように見えた。扇子を開いて口元を隠し、そっと長いまつげを伏せる。
「一思いにやってしまってはコケにされた当家の気が済まないわ。ゆっくりジワジワとなぶるには些細なところから……ちょうど趣味の園芸ハウスにて新種の毒草が取れましたの」
「母様。母様も落ち着いてくださいませ」
「毒ダメ?」
「ノー。毒ダメです。」
お可愛らしく訴えてもダメですよ。首を横に振ると、母様は残念そうに扇子を下ろした。
「そうだ!そのようなまどろっこしいやり方では埒があかん!兵を招集せよ、一晩の後にあの城焼け野原に仕上げてくれるわ!」
「父様も落ち着いてください!一度冷静に!」
ほらー、またフォークがぐんにゃりしちゃってるでしょ。例によってささっと給仕が新しいピカピカのフォークと入れ替えている。
私に懇願されて渋々と席に座りなおした父様のもとに、デザートのコンポートがやってくる。この調子なら犠牲になるフォークは今までの本数で済んだかな……
「それで、ミレイ。話を聞こうか……冷静。そう、冷静にな……」
父様、握りしめたデザートスプーンがくちゃくちゃに丸められてまるでしわくちゃの紙みたいです。手をグーにして離さないから、給仕係がとうとう交換できなくなって困ってるではありませんか。
「アナタちょっと、毒草の育成具合を見てきてくださる?そうね、毒性が足りないようだったら補強もしたいし後からワタクシもそちらへ行くわ。棚から青緑の瓶を探してそれから仕入れてほしい種が」
母様は母様で控えていた専属使用人を呼びつけて調合のための長々した言いつけを始めてしまった。扇子を使って耳打ちしていますけど、細部までばっちり聞こえています。母様。
私はデザートのコンポートも口にできず、大きくため息をついた。あの講堂で糾弾が始まった時から、嫌な予感はしていたんだ。そして今日、帰省によってその予感は的中した。
本当に困ったことには、この騒動として夕食の嘆きは序章に過ぎないだろうということ……
だから言いたくなかったのです………。
いつもだったら当たりさわりなかったり、微笑ましい話だけを伝えるようにしていたのだが、今日はそういうわけにもいかなかった。
「なァ~~~~~にィ~~~~~!!!!??」
「アナタ、うるさくてよ」
「父様、耳が痛いです……」
「しかしだなぁ!!」
もちろん、出来るなら言いたくなかったのだ。
この両親は、一つ一つのリアクションが大げさだったりするので。
父様、手に持ったフォークがぐんにゃりと歪んでます。すかさず給仕が新しいフォークと交換してたけど、まだ話し始めたばっかりだから後にした方がいいんじゃないかな。銀製のフォークが飴細工みたいに柔らかくなってたよ。
「……それで、ワタクシの可愛いミィ。今のお話もう一度くわしく聞かせてくださる?」
「……はい、母様」
母様から子供の時みたいな愛称で呼ばれて、私の唇はひくっと引きつった。母様の後ろからドス黒いオーラが駄々もれているんですが……
「ですから……婚約破棄を言い渡されました、婚約者であるリード様から」
「なるほど、よし!戦争だな!」
「落ち着いてくださいませ!」
勢いよく立ち上がって、食事用の大きなテーブルをバァン!と叩いた父様が咆哮を上げる。質の高い一枚岩から切り抜いて何重にも補助魔法をかけられているテーブルは、ミシッ!とちょっとした鳴き声を上げただけで耐えたらしい。何発か加えたらまずい気がする。
ついでに押し潰されたフォークも即行で交換されていましたとも。
「そうよアナタ、落ち着いてちょうだい」
父様の動揺に比べれば、母様はまだ落ち着いているように見えた。扇子を開いて口元を隠し、そっと長いまつげを伏せる。
「一思いにやってしまってはコケにされた当家の気が済まないわ。ゆっくりジワジワとなぶるには些細なところから……ちょうど趣味の園芸ハウスにて新種の毒草が取れましたの」
「母様。母様も落ち着いてくださいませ」
「毒ダメ?」
「ノー。毒ダメです。」
お可愛らしく訴えてもダメですよ。首を横に振ると、母様は残念そうに扇子を下ろした。
「そうだ!そのようなまどろっこしいやり方では埒があかん!兵を招集せよ、一晩の後にあの城焼け野原に仕上げてくれるわ!」
「父様も落ち着いてください!一度冷静に!」
ほらー、またフォークがぐんにゃりしちゃってるでしょ。例によってささっと給仕が新しいピカピカのフォークと入れ替えている。
私に懇願されて渋々と席に座りなおした父様のもとに、デザートのコンポートがやってくる。この調子なら犠牲になるフォークは今までの本数で済んだかな……
「それで、ミレイ。話を聞こうか……冷静。そう、冷静にな……」
父様、握りしめたデザートスプーンがくちゃくちゃに丸められてまるでしわくちゃの紙みたいです。手をグーにして離さないから、給仕係がとうとう交換できなくなって困ってるではありませんか。
「アナタちょっと、毒草の育成具合を見てきてくださる?そうね、毒性が足りないようだったら補強もしたいし後からワタクシもそちらへ行くわ。棚から青緑の瓶を探してそれから仕入れてほしい種が」
母様は母様で控えていた専属使用人を呼びつけて調合のための長々した言いつけを始めてしまった。扇子を使って耳打ちしていますけど、細部までばっちり聞こえています。母様。
私はデザートのコンポートも口にできず、大きくため息をついた。あの講堂で糾弾が始まった時から、嫌な予感はしていたんだ。そして今日、帰省によってその予感は的中した。
本当に困ったことには、この騒動として夕食の嘆きは序章に過ぎないだろうということ……
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