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三章 超AIの大失踪

38話 暁ケンマの失敗

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コンピューター研究部の勝負を終えて数時間が経ち、オレとデレデーレは学校の寮へと戻ってきていた。

早速、外のコンビニで買ってきた缶ジュースのふたを開け、ゴクゴクと炭酸飲料を喉の奥まで流し込んでいく。

(たまらない冷たさだ!)

部屋に入って荷物を降ろすオレは椅子に着席、向かいのモニターに目を通す。それはパーソナルコンピューター、略してパソコン。そして電源を入れる。数秒後、電源が入り起動時に映る画面へと変貌していった。

「デレデーレ早速で悪いんだがこっちのモニターに移ってくれ」

『――それよりケンマ様、コンビニで買ってきた期間限定のたこ焼き味のポテトチップスが食べて食べてと待ってますよ』

「ポテトチップスを食いながらオレにパソコンの作業をしろと? 冗談じゃない……この新品のキーボードをその脂ぎった手で触れるかよ……いいから、早くこっちに来い。プログラムの調整をするぞ」

机の上に置いたスマートフォンの内部ではもじもじしているデレデーレがいる。

『……まさかとは思いますけど丸裸にされたりしませんよね? これでも私は一応女の子ですから、その辺は紳士的な対応をしてくれると助かります』

「安心しろ、覗くのは頭の中、つまりお前のメインコンピューターだけだ。いいからさっさと移動してくれ」

『覗くって何をする気ですか?』

「さっきも言っただろ? お前のプログラムを書き換える……書き換えて正常な状態に戻す」

『それってつまり私のプログラムに何かしらの異常があったと言うことでしょうか?』

「たくさんあっただろ? オレに黙ってゲームをしていたり、今日のアイスクリーム事件で多くの人を困惑させたり、おまけに信じてくださいと言っときながら勝負事では好奇心にうつつを抜かし敗北する。どれもがオレの相談なしに決行されている」

『けどけどケンマ様、一つ宜しいですか?』

「ほらほら、またそうやって自分の意見を最優先する。少しはオレの言い分を聞いてはくれないか? これでもこっちは毎日のようにお前の要望を聞いているってのに……」

『それは確かに……けどけど言っても構いませんよね? 私は自律型精神的超AIのデレデーレです。発言の許可くらい出していただかないと……』

「何が言いたい……」

『ケンマ様は天才です』

「おだてたってプログラムの改変は見逃さないぞ……?」

『いえいえ、そういう下心があって言ったわけではないんです……ただ単にこの私を作り出したケンマ様を褒めたたえているのです』

「どういう意味だ? 来ヶ谷部長みたいに超AIを作ったことにお褒めの言葉をくれるのか?」

『いえいえ、もっと単純なところを私は押したいのです』

一向にスマフォから出て来ないデレデーレがそう言う。

「超AIを作った何かほかに凄いことがあったか?」

『そのAIが人間らしいところが凄いんです』

「――――――!?」

人間らしいか、確かにデレデーレは勝負に勝つと言っておきながら負けてしまった。これはれっきとした嘘。さらに言わせれば、ゲーム中何度もオレは大丈夫かと念押ししたのに、その答えが信じてください必ず勝ちますと来たもんだ。

(確かに嘘をつく超AIは凄いんじゃないか? けど結果は悪い方向に進んでしまったわけで……)

「まぁ、それとこれとは別問題だ、早くモニター内に移動するんだ……」

『……………………私の脳内を改変するためですか?』

「そうだ、これ以上嘘をつかれても困る。早めに改変しておきたい」

『……………………嫌です』

「――えっ?」

まさかの反抗だった。

『――――ケンマ様のバカァ!! それじゃあケンマ様に恋をしていた自分がバカみたいじゃないですか!?』

そう言ってデレデーレはスマフォ内から出ていった。モニターの画面内に移動したわけではない。部屋の照明器具でも、ボトル用冷蔵庫でも、ましてやCDプレイヤーでも、さらに洗濯機でも、そして自動カーテンの認識装置にでもない。本当に忽然とインターネットの奥内に逃げていったのだった。

「デレデーレ!! デレデーレ!! デレデーレ!! デレデーレ!!」

何度スマフォに呼び続けても何の反応もない。LINEもブロックされてしまって手が出せない。

彼女はこの時オレに始めて逆らい家出してしまったのだ。
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