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【ヤンデレメーカー#35】寂しいひと

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※サミー視点です。


その日ライブが終わった後、ベッドに入ったのは深夜2時だった。

ライブやった日は気が昂ってしまってなかなか寝られない。いつもこうだった。

こんな時は…。枕元のスマホを取り出す。何度も何度も見返したメッセージを読み返す。

藍がかつて送ってくれたおせっかいLINE。

その後新規で届くことはない。最初にもらった時に随分ワクワクしたのにな。

最初に藍に会った時に、柔らかく笑う笑顔にピンと来た。これからもっと仲良くなれればと思っていた矢先に藍は消えてしまった。


メッセージを送っても突然返信は冷たくなり、その後音信普通のまま。

それでも藍なら、また連絡をくれるのではないかとつい携帯を確認してしまうんだが…。


まあ、今日も来ていない。


俺はため息を吐いてスマホを置いた。

…ってかさ。弁当作ってくれるって言ったじゃん。嫌いなおかずとかわざわざ詰めてくれるって、そういう約束もしたのに。なあ…。


良いよなあ弁当とか。俺、誰かに作ってもらったこととかないから。



暗闇の中で目を閉じる。

眠れない夜は思い出したくもないことを思い出してしまう…。


■■■


歯軋りをする自分の音でハッとして起きた。また変な夢見てた。ってかヤバい、遅刻だ!


慌てて走っていった事務所。

今日は雑誌の写真を撮らなきゃいけない。それにインタビューも!メンバー4人揃ってなきゃいけないってのに!

「…皆ごめん遅れて!…あれ?」

機嫌の悪い亜蓮がソファから俺を一瞥した。

「撮影は今日は中止。携帯見てない?」

俺が慌てて取り出すと、確かにマネージャーからそんなメッセージが携帯に入っていた。

「テディと雷が来てない。ってか連絡つかないんだってよ。今マネージャーが確認しに行ってる。

んで3人いないんじゃ話にならないんで、とにかく今日の撮影はバラシ」

「ま、マジで?」
「ふざけんなよ本当もう…」

亜蓮はイライラと煙草をふかした。






その日の予定がなくなってしまい、時間を持て余した俺たちは風に当たりにビルの屋上へと場所を移した。

フェンスに気怠げに寄りかかる亜蓮。

「わりいな亜蓮」
「…別に。良いけど」

「…ってかまた煙草吸ってんのか。最近増えたんじゃない」
「俺の勝手だろ」

相変わらず愛想のない男だ。まあ亜蓮がかわいく振る舞ってもキモいだけだが。

空を見上げながら、嘲笑じみて亜蓮が言った。

「…ってかウチのグループさあ。疫病神ついてるよな」
「はあ?」

「テディも雷も行方不明。…藍も消えたろ」
「行方不明って決まった訳じゃないだろ不穏なこと言うなよ」

「ああ?今まで1秒も遅刻なんかしたことない雷が連絡つかないんだぞ?寝坊か?アイツが?」

「まあそうだけど…。飲みすぎて2人ともまだ寝てるとか、そんなんじゃない」

「さあ…まあ。俺はテディがどうなっても別に良いけど」
「亜蓮!」


テディと亜蓮はずっとこうだ。亜蓮はテディを嫌い、それに応える様にテディも亜蓮を嫌っている。


「テディは1番歳下なんだぞ。可愛がってやれよ」
「無理に決まってんだろ。1番歳下だろうがデカい男なんか可愛くもない。

…コーヒー買ってくる」


そう言って亜蓮は立ち去って言った。

その背中を見送る。



殺伐とした空気感は、俺が荒れていた頃を思い起こさせる。

もしも今も藍がいたら…。

ほんの短い期間だったけど、藍がいた時はメンバー間のこんな雰囲気が和らいでいたんだ。

藍がいれば…。


■■■


テディと雷とは依然連絡がつかないままだったが、俺は明日の仕事のために事務所を抜けさせてもらった。

明日は朝イチの飛行機で移動しなきゃならない。過酷な仕事だよ。選んだのは自分だけど。

…選ばなきゃやってられない境遇じゃなかったら、アイドルなんてやっていなかったさ。



まだ22時だがさっさと寝なくてはならない。
眠れぬ暗闇の中で目をむりやり閉じる。

…ああ、テディ。雷。大丈夫だろうな…?

イライラと寝返りを打つ。眠れない…。


こんな夜は、ついでの様に思い出したくもないことをやっぱり思い出してしまう。

…俺の母さんは俺に興味のない人だった。

自分で言うのも何だが、小さい頃から美形だねと褒められて背もうんと高かった。本当に自分で言うのも何だが、連れ歩いて損はない子供だったと思う。

でも母さんは俺に興味を持つことはなかった。

物心ついた時点で既にそうで、でも多分生まれた時から興味は持たれてなかったんじゃないだろうか。

それが何故なのかは分からない。

ただ興味が持てない、それだけ…。
美人な母さんは冷たいひとだった。


授業参観は当然の様に来ないし、俺が風邪で熱出しても別に心配しないし、それどころか俺が肺炎で入院した時でさえ見舞いには来なくてて…。



悪いことをすれば心配してもらえるかもしれないとバイクを盗んだことがある。無免許で、でも適当に色々弄ったら動きだしてしまい、元はバランス感覚は悪くなかった自分だからしばらくの間それなりに走れてしまったんだけど。

…思い出すあの日。

バイクの停め方を知らない俺は、ぐんぐんスピードを上げてしまった。
それで大きな橋の上を乗りあげ、ジャンプして…


ギュッと目をつむった。過去のことなのに古傷が痛んだ。それからのことは何も思い出したくない…。


とにかくあの大きな事故を起こした時でさえも、母さんは俺を心配したりはしなかった。怒ったりもしなかった。

『あ、俺って要らないんだ』そう腑に落ちてしまった時から、俺の人生は狂い始めた。



家に帰らなくなり、繁華街をさまよい歩いた。繁華街を同じ様にウロつく奴らと喧嘩しては、数えきれない人数を殴ってきた。


どんなにアザだらけで家に帰っても、唇の端が切れてようが返り血が服に飛んでいようが、やっぱり母親は俺に関心を持たなかった。

俺が久しぶりに帰っても、無表情ですい、と俺の横を通り過ぎるだけ。


言いようもない寂しさがいつも俺を襲った。寂しさは膨れ上がり爆発して、俺はいよいよ手がつけられない程荒れたんだった。



その頃に繁華街で知り合ったのが社長。物怖じせず俺に近づきスカウトをした勇気ある人。アイドルに転身して、大勢の人間に求められる様になって俺はようやく自分をほんの少し認められる様にはなったけど…。


でも違うんだ。本当に欲しいのはそういう名声なんじゃない。


…藍は、あいつは名前を呼べば柔らかく笑うやつで、俺は藍と話していると自分がそこに存在してて良いって言われる様な気持ちになれた。藍は俺を否定しない。それがすごく心地良かった。

藍はずっと俺が欲しかったものをくれる気がしたのだ。




大勢の人間に必要としてもらえて、やっと自分の存在意義を感じられるアイドルの俺じゃなくて、

ただの1人の人間でいられる俺を…。







続く
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