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【のろまの矜持#8】地獄の門番
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まさかの双子と同じベッドで寝ることになりそうという状況になり、さすがにナツミは慌てた。
「えっや!さすがにそれは無理かなって!あの僕寝相が悪すぎてあの加賀美さんですらベッドから蹴り落としたことあるんです!すみません!」
非常に申し訳なさそうに肩をすくめて遠慮してくるナツミを前に、双子達はあえて一歩引いた。
「そっか、そっか。ごめんね俺らで勝手に盛り上がっちゃって!寝場所はとりあえず別だね」
あまり押しすぎてせっかくもぎとった一緒に住む話自体が流れては全てがパーである。
「……すみません、でもお気持ちは嬉しかったです」
いかにもナツミに頼りなげに微笑まれて、キュンとしていた。
「えーやったあ」
さりげなくナツミの手を握る双子の手に、妙な圧がかかる。
『ナツミは加賀美をベッドから蹴り落としたことがある』という、『要は加賀美とナツミはベッドを共にしたことがある』という元恋人なら当たり前の文脈に、内心嫉妬でカチキレていたから。
「まあ、でもさっそく今日から家来なよ。なんでも貸すし。それくらい良いでしょ?」
どうしようもなく嫉妬深い男共だった故に、気に入った相手を包囲する術にだけは長けていた。
一方、実際にベッドから蹴り落とされたことのある加賀美はというと……。
会社を辞めるべく猛スピードで引き継ぎ資料を作っていたら、後ろから女子社員に声をかけられた。
「はい、何……」
やや下を俯いて眉根を寄せて少しもじもじしている女の子を見て、加賀美はピンと来た。
これはアレだ。今までの人生で何度も遭遇してきたアレだ。
こういう時は先手必勝。
「あー、永野さん今までいろいろありがとね!仕事の件ならサクッとメールいれといて。今バタバタしちゃってるからさ。
あ、ちょっと内緒話。
……俺実はさ、付き合ってる人と結婚しようと思
ってるんだよね。皆に内緒だよ」
最後の方はヒソヒソと言った。急に近づかれて大層ドキッとした彼女は、しかし最後の加賀美の嘘で一瞬目を見開いた。奈落の底に突き落とされた様な気持ちになった。
「そうなんですね、お幸せに」
ちょっと涙ぐんで去って行った彼女にちょっと申し訳なかったかなと思いつつ、あそこで呼び出されて告白イベントになってしまったらその分仕事が遅れていた。
申し訳ないが、ナツミを最優先にしなければいけない状況なので、誰か他の人間に優しくしてやる余裕などなかった。
だから加賀美は冷たい嘘をついた。
それから仕事を終えて、地方へ向かう終電にスーツのまま飛び込んで。
疲れすぎて目を閉じていたら、すぐに眠りに落ちた。
……夢の中で、ナツミは遠くでただ無言で自分にばいばいと手を振っていた。前の夢では、手を振り払われたとはいえすぐそばには寄れたのに。
夢の中ですら近づくことが出来ないとはね、とどこか明晰夢の様に加賀美はひとり自嘲した。
電車到着のアナウンスでハッとして目を覚ます。体感では数秒で、目的地へと着いていた。
慌てて飛び降りた。
例の店は結構遅くまでやっているものの、終電で行ってギリというところ。
店の近くまで行って、もう店の電気が消えていることに気づく。
「ナツミ……」
不安と焦りでじりじりと追い詰められていく。
どこやねん、ほんま……とそう思った時。
向こうの駐車場で、ちょうどナツミと双子が車に乗りこんでいくところを見かけた。向こうは自分には気づいていない風だった。
ちょうどタイミング良く通り過ぎようとしたタクシーを止め、乗り込んだ。
「あの車追って!」
たどり着いたのは、ログハウスのような一軒家。
遠目に連れ立って家に向かっていく人かげを見て、慌てて追った。
ナツミの奴、連れ込まれとる!
あまりに展開が早い。怒りと焦りでお前ら待て!と吠えようとした時。
駐車場の影からぬっと自分の前に立ちはだかる男がいた。
「ストーキングとは恐れいったね」
「お前……」
あの時の男だった。銀髪混じりのイラつく優男。距離をそっと詰めてお互い睨み合う。
「詩音。お前に覚えられても嬉しくないけど。
あんた加賀美でしょ」
「黙れ」
自分と同じ人種だなと、お互いにその雰囲気で察知していた。喧嘩だと思うと全身の血がふつふつと沸く。
「俺たちの邪魔するなよ。まあもう手遅れだけどね」
「ほざけ」
「生意気な口きくなよ。黙らせてやる」
ゴングが鳴るまでもなく、その喧嘩は始まった。
拳が飛び、蹴りが宙を舞う。遠慮なく腹に一発、先に入れたのは加賀美。
いってえと苦痛に顔を歪めて、お返しに一発腹に入れやったのは詩音。むき出しの闘志がぶつかりあって怒号が飛んだ。
◼️◼️◼️
「……?」
家に入った後、詩音がいないことに気づいたナツミ。それになんだか外が騒がしい気がする、喧嘩かな?と思ってナツミがカーテンを開けて窓の外を覗こうとするのを、莉音がそっとした手つきででも確かに止めた。
「この辺ちょっとうるさい時あるんだよね。通りちょっと挟んだとこにコンビニあるから、夜でもちょこっと人通りあるし。
まあ、あんなの取るに足らないことだよ」
「あ、そうなんですね……」
すぐそばに元恋人がいることをナツミは知らされないまま。
続く
「えっや!さすがにそれは無理かなって!あの僕寝相が悪すぎてあの加賀美さんですらベッドから蹴り落としたことあるんです!すみません!」
非常に申し訳なさそうに肩をすくめて遠慮してくるナツミを前に、双子達はあえて一歩引いた。
「そっか、そっか。ごめんね俺らで勝手に盛り上がっちゃって!寝場所はとりあえず別だね」
あまり押しすぎてせっかくもぎとった一緒に住む話自体が流れては全てがパーである。
「……すみません、でもお気持ちは嬉しかったです」
いかにもナツミに頼りなげに微笑まれて、キュンとしていた。
「えーやったあ」
さりげなくナツミの手を握る双子の手に、妙な圧がかかる。
『ナツミは加賀美をベッドから蹴り落としたことがある』という、『要は加賀美とナツミはベッドを共にしたことがある』という元恋人なら当たり前の文脈に、内心嫉妬でカチキレていたから。
「まあ、でもさっそく今日から家来なよ。なんでも貸すし。それくらい良いでしょ?」
どうしようもなく嫉妬深い男共だった故に、気に入った相手を包囲する術にだけは長けていた。
一方、実際にベッドから蹴り落とされたことのある加賀美はというと……。
会社を辞めるべく猛スピードで引き継ぎ資料を作っていたら、後ろから女子社員に声をかけられた。
「はい、何……」
やや下を俯いて眉根を寄せて少しもじもじしている女の子を見て、加賀美はピンと来た。
これはアレだ。今までの人生で何度も遭遇してきたアレだ。
こういう時は先手必勝。
「あー、永野さん今までいろいろありがとね!仕事の件ならサクッとメールいれといて。今バタバタしちゃってるからさ。
あ、ちょっと内緒話。
……俺実はさ、付き合ってる人と結婚しようと思
ってるんだよね。皆に内緒だよ」
最後の方はヒソヒソと言った。急に近づかれて大層ドキッとした彼女は、しかし最後の加賀美の嘘で一瞬目を見開いた。奈落の底に突き落とされた様な気持ちになった。
「そうなんですね、お幸せに」
ちょっと涙ぐんで去って行った彼女にちょっと申し訳なかったかなと思いつつ、あそこで呼び出されて告白イベントになってしまったらその分仕事が遅れていた。
申し訳ないが、ナツミを最優先にしなければいけない状況なので、誰か他の人間に優しくしてやる余裕などなかった。
だから加賀美は冷たい嘘をついた。
それから仕事を終えて、地方へ向かう終電にスーツのまま飛び込んで。
疲れすぎて目を閉じていたら、すぐに眠りに落ちた。
……夢の中で、ナツミは遠くでただ無言で自分にばいばいと手を振っていた。前の夢では、手を振り払われたとはいえすぐそばには寄れたのに。
夢の中ですら近づくことが出来ないとはね、とどこか明晰夢の様に加賀美はひとり自嘲した。
電車到着のアナウンスでハッとして目を覚ます。体感では数秒で、目的地へと着いていた。
慌てて飛び降りた。
例の店は結構遅くまでやっているものの、終電で行ってギリというところ。
店の近くまで行って、もう店の電気が消えていることに気づく。
「ナツミ……」
不安と焦りでじりじりと追い詰められていく。
どこやねん、ほんま……とそう思った時。
向こうの駐車場で、ちょうどナツミと双子が車に乗りこんでいくところを見かけた。向こうは自分には気づいていない風だった。
ちょうどタイミング良く通り過ぎようとしたタクシーを止め、乗り込んだ。
「あの車追って!」
たどり着いたのは、ログハウスのような一軒家。
遠目に連れ立って家に向かっていく人かげを見て、慌てて追った。
ナツミの奴、連れ込まれとる!
あまりに展開が早い。怒りと焦りでお前ら待て!と吠えようとした時。
駐車場の影からぬっと自分の前に立ちはだかる男がいた。
「ストーキングとは恐れいったね」
「お前……」
あの時の男だった。銀髪混じりのイラつく優男。距離をそっと詰めてお互い睨み合う。
「詩音。お前に覚えられても嬉しくないけど。
あんた加賀美でしょ」
「黙れ」
自分と同じ人種だなと、お互いにその雰囲気で察知していた。喧嘩だと思うと全身の血がふつふつと沸く。
「俺たちの邪魔するなよ。まあもう手遅れだけどね」
「ほざけ」
「生意気な口きくなよ。黙らせてやる」
ゴングが鳴るまでもなく、その喧嘩は始まった。
拳が飛び、蹴りが宙を舞う。遠慮なく腹に一発、先に入れたのは加賀美。
いってえと苦痛に顔を歪めて、お返しに一発腹に入れやったのは詩音。むき出しの闘志がぶつかりあって怒号が飛んだ。
◼️◼️◼️
「……?」
家に入った後、詩音がいないことに気づいたナツミ。それになんだか外が騒がしい気がする、喧嘩かな?と思ってナツミがカーテンを開けて窓の外を覗こうとするのを、莉音がそっとした手つきででも確かに止めた。
「この辺ちょっとうるさい時あるんだよね。通りちょっと挟んだとこにコンビニあるから、夜でもちょこっと人通りあるし。
まあ、あんなの取るに足らないことだよ」
「あ、そうなんですね……」
すぐそばに元恋人がいることをナツミは知らされないまま。
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