稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

文字の大きさ
33 / 77
稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった

33.悪いことしなければ許してもいいじゃない?

しおりを挟む
「やっと見つけたっ!」

 やってきたのは、リセとその仲間達。皆賭け事が好きなようで、今回の戦いのチケットを握りしめている。どうやってそんなチケットを作ったのか、不思議でならないんだけどな。まあいいや。

「諸刃、大丈夫?」

「主様、怪我してるっ。急いで治療を」

 リセは、大丈夫か訊いてくるだけで、首を傾げてじっと見つめてくる。よく見ると足が生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えている。きっと色々と限界なんだろう。
 それに比べてイリーナは元気が有り余っているようだ。俺の怪我の治療をしてくれるし、俺たちが戦ってボロボロになった場所を他のゴブリンたちが整理してくれている。
 よく見ると魔王軍のゴブリンがいるな……。あとアッシュも世話されてる。

「ちょ、ちょっと待て、俺の世話はいい。と言うか殺せよ。俺負けたんだけどっ!」

 なんか、こう、狩る気が失せてしまった。あいつ、戦い以外のことは意外とダメダメなのかもしれない。

 俺はイリーナの治療と少し休憩したおかげで何とか立ち上がるところまで回復した。
 とりあえずアッシュの近くに行くことにする。

『女に世話された後すぐにほかの男のところに向かうとか、諸刃は頭がどうかしてるのじゃっ!』

「うるせぇのじゃロリ。変なこというな」

 のじゃロリの刀身はいつもの状態に戻っていた。真名である桜花と叫んだ時に開放された始解の状態は、俺の体力的に常に保つことが難しい。ぶっちゃけアレ、強くなるけどすぐにつかれてしまう。今回は無事に戦いが終わったことだし、よしとするか。

「ほら、俺は負けたんだ。すぐに殺せ、さあ、今すぐ殺せ。ぶっちゃけ、俺はまだ動けそうにないしな」

「殺せと……と言われてもな……」

 なぜかアッシュを殺す気持ちになれなかった。鬼は狩らなければいけないはずなのに、アッシュは俺の知っている鬼とは違って、なんか良い奴だ。人間を殺そうとしていたけど、どっちかって言うと、本当は強い奴と戦いたくて、そんな敵を探しているだけのような……そんな感じだろうか。

 根は、そこまで悪くないんだろう。そう思うと、無抵抗にただ死を待つだけのアッシュにとどめを刺そうと思えなかった。

 飛鳥のお供の一人が、笑顔でアッシュにとどめを刺そうとする。俺はとっさにそれを止めてしまった。

 俺とアッシュが話している横で、いきなりこんなことされるとは思っていなかったので、反射的に動いてしまった。

「勇者様、見てください。あいつ、魔王軍幹部を守りましたよ、敵ですよ敵っ!」

 そして俺をなぜか悪者にしようとしている。そんなお供は……飛鳥によって締め上げられた!

「あんた何なのっ! あの状況で敵大将のとどめを刺しに行こうとする、普通? 私でも今の二人にちょっかいかけられないのに、どういう神経しているのよっ!」

 ごもっともな意見だった。お供は「俺、手柄が欲しかったんだ」と言って開き直り、そして仲間に粛正された。ちなみに本音は賭けに負けた腹いせに八つ当たりをしてやろうと思ったとかなんとか。飛鳥のお供も碌な人間がいないな。

「おい、どうした、なんで俺を殺さない…………」

「いや、なんというか、お前、悪ぶってるところもあるけど、実はそんなに悪い奴じゃないだろう? だからな……」

 鬼は狩るべきと思っていたけど、イリーナを仲間にしたことである程度考えが変わったのかもしれない。俺の知ってる現世の鬼なら、悪の限りを尽くす極悪非道なのでそこまで悩むこともないのだが。アッシュみたいにただ単に戦いが好き……ってだけだと、こう、そこまで悪い奴じゃないのではと思ってしまう。
 そんな本音をつい口に出したら、アッシュが声を上げて笑った。

「あはははははは、敵である俺にそんなこと言うか、普通。なんかさ、もうすべてにおいて負けた気分だよ。あーーもう、悔しいなぁ……」

 そう言いながら、アッシュは懐から何かを取り出した。

「それは?」

「魔王軍の幹部である証みたいなもんだよ。こいつを通じて魔王と繋がってるとか気持ち悪いこと言ってたな。まあ、もういらないけど」

 そう言って、アッシュは持っていた魔王軍幹部の証を粉々に砕いた。そしてすがすがしい笑みを浮かべる。まるで何かから解放されたようだった。

「おい、そこのゴブリン」

「え、私ですか?」

 アッシュは、なんか頑張って魔王軍側のゴブリンをまとめている。この中で一番働き者のイリーナに、ちょっとだけ感動した。

「このゴブリン、魔王様……いや、もう俺部下じゃないし、くそ魔王でいいや。くそ魔王の命令で仕方なく増やしたゴブリンだけど、お前が世話してくれないか」

「……え? あの数を……私が?」

 俺や飛鳥が討伐したので、ある程度数は減っているものの、アッシュ自信が率いていたであろうゴブリンたちが大量に残っている。その数は、ゴブリンだけで村が一つ蹂躙できそうなレベルだ。そこそこの数になる。
 まあ、ゴブリン帝国の規模を知っている俺からすれば、いけるんじゃないかなと思ってる。

「イリーナ、俺からも頼むよ」

「はいっ! 主様の御心のままに! そ、その、ちゃんと受け入れした後でいいんで、頭なでなでしてくださいっ!」

 アッシュのお願いに嫌な顔をしたイリーナは、俺がお願いするのその表情が一変した。
 その変わりように、アッシュは複雑そうな笑みを浮かべる。

「おい、諸刃。俺はもうただの鬼人だ。だけど強さを追い求めるのをやめるつもりはない。今度は絶対にお前を倒してやる」

「だったらまた返り討ちにしてやるだけさ。それよりも、もう悪いことはするなよ。本当に討伐しなきゃならなくなるからな」

「っけ、俺は別に悪いことなんてしてるつもりはないさ。俺はただ、強い奴と戦いたいだけだ。だけどお前に負けてしまった。おれもまだまだだな」

 そう言ってアッシュは体を起こし、立ち上がる。どうやら体力がある程度回復したみたいだ。

「俺はもっと鍛えてくる。また戦おうぜ、諸刃っ」

 そう言い残し、アッシュはその場から立ち去った。
 もうあいつを討伐するだけの体力もないし、もう悪いことしないって言ってるから、もういいかなって思ってきた。
 鬼狩りとして、俺もまだまだ未熟だな。まあやめて料理人になるつもりだったからどうでもいいんだけどな。
 俺はイリーナやリセたちに向き直る。飛鳥はお供と楽しそうに斬り合っていた。
 いや、あのお供が一方的にぼこぼこにされているだけであり、飛鳥は、こう、なんていうか、八つ当たりしてストレスを発散するキチガイさんになっている。
 あいつのことは放っておこう。敵もいなくなって危険もなくなったしな。これで大切な幼馴染が傷つくこともないだろう。
 これで安心して、自分の店を構えるために働くことが出来る。
 そう、俺は、料理人になりたいのだっ!

「リセ、イリーナ。そろそろ戻ろうぜ。一通り仕事も終わったし、お金貰ってちょっとゆっくりしよう」

 イリーナは俺の言葉に賛同して、近くに寄って来て手を握った。
 こう、はぐれないように子供の手を繋ぐパパの気持ちが沸き上がる。
 まだ俺、若いのに…………。

 イリーナは一緒に帰ろうと言うが、リセがなかなか動く気配がない。

「ここにきてすべてがなくなった……もう私は一歩も動けない」

「は? 何言ってんだよお前」

「ううううう、動けないのよ。諸刃を助けるためにすべてを使い果たして、でも戦う諸刃がどっか行っちゃうから、空っぽの状態で無理して追いかけたのっ! もう魔力も体力も空っぽよ。一歩も動けない。このまま諸刃に捨てられたら……私は獣の餌になって死んじゃうんだぁぁぁぁぁぁ」

 まるで捨てられた経験があるかのようにリセは語り、そして寂しそうに泣く。
 リセにはすごく助けてもらったし、置いていくって選択肢がそもそもないんだけど…………。
 俺はしょうがなくリセを背負った。

「も、諸刃!?」

「助けてもらったからな。これぐらいはしてやるよ」

「うん、ありがとうっ!!」

 背中にしがみつくリセ。首が閉まるからやめてほしいんだけどな。
 俺はリセを背負い、イリーナを連れて村に帰ろうとした。

「ちょちょちょっ! なんで美味しいところをあなたが持ってくのよ。私だって戦ったんだらね。諸刃! 私もおんぶおんぶっ!」

 飛鳥が訳の分からないことを言い始めたので無視することにした。
 俺が無視することにさらに喚き、飛鳥は俺たちの後をついてくる。
 なんだか締まらない最後になったが、魔王軍幹部だったアッシュとの戦いは、これで終わったのだった。

『のじゃ、儂が空気になり過ぎているのじゃがっ! 諸刃、儂も構うのじゃぁぁぁぁっぁぁ』

 寂しそうなのじゃロリの声だけが響き、それ以外は楽しそうに話しながら村に戻るのだった。

『なぜじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...