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「そちらがクロヒメね。」

あわあわ・・・、お母様がクロヒメをじっと睨んでる。

「いけません、奥様。」

エルミナがクロヒメに近づこうとするお母様を止めた。

「大丈夫よ、ねえ、アウエリア。」

「は、はい。」

私はクロヒメの傍に立ち、頬にポンポンと手を当てた。

「クロヒメ、もう少しアウエリアを労わる心を持ちなさい。」

お母様が鋭い目つきのまま、クロヒメにそう言った。
うーん、そんな事を言っても伝わらないと思うんだけど・・・。

「お母様、それを言いに態々?」

「いえ、レントン商会へ赴く日が決定したわ。私はその日、別件で一緒に行けないのだけど。」

残念そうに語るお母様。

「護衛の手筈は整えてるから安心して頂戴。」

「お母様がご一緒なさらないなら、護衛は不要かと。」

「駄目よ。レントン商会へは、ちゃんと貴族令嬢として出向くのよ。」

うへえ・・・面倒だなあ。

正直、一人で行くのなら、なんちゃって平民服で行きたいところだ。




孤児院へ行った時に、頼んでいた女性を紹介された。

「こちらがブレンダだ。パン屋に住込みで2年ほど働いていたんだが、パン屋が閉まる事になってなあ。」

神父さんが言った。

「年齢はいくつなんですか?」

「17歳じゃ。ほれブレンダ、ご挨拶しなさい。」

「ブレンダと言います。宜しくお願いします。」

そう言って、顔も上げず、伏せたままの状態を保ってる。

「宜しくね。ブレンダ。」

私は、気軽に声を掛けたが、そこから反応はない。
顔を伏せたままだ。

「えっと・・・。」

「ふむ、ブレンダは貴族と関わった事が無くてな。というか普通、孤児に生まれ、平民として育てば、会う事はないからのう。」

神父さんが、そう言った。

「おい、ブレンダ姉ちゃん。どうしたんだ?」

孤児院の子供たちが畏まってるブレンダに話しかける。

「もしかして、アウエリアが怖いのか?」

「全然、怖くねえよ。」

「そうそう、俺たちと変わんねえよ。」

そう、私は、孤児院の子供たちに舐められていた。
年もそう変わらず、格好も見た目だけなら変わらない。
ふっ、子供にこの裏地の凄さは判るまい。
うん、私も子供だけど・・・。

「あ、あなたたち、何言ってるのっ!貴族様を呼び捨てにしちゃあ駄目よ。」

ブレンダが子供たちを叱った。

「だって、アウエリアがいいって言うし。」

「うん、リリアーヌは怖いけど。」

「そうだな、リリアーヌは怖い。」

ここでもリリアーヌは一目置かれていた。

「申し訳ありません。アウエリア様。」

ブレンダは、謝ってより一層、畏まってしまった。

「素晴らしいです。ブレンダ。その気持ちを忘れずピザート家で働くとよいでしょう。」

そう言ったのは、リリアーヌだった。
いや、それ、あんたのセリフ?
えっ!?

こうして恐縮したままのブレンダを連れて我が家へと帰宅した。

ブレンダを最初に案内したのは、多くの馬がいる本厩舎の方だ。

「こっちの厩舎に居る馬は大人しい馬ばかりなんで、厩番の人から仕事を教えて貰って頂戴。」

「は、はい。」

「では、離れの厩舎へ行きましょう。」

そうして、私たちがクロヒメの厩舎へ歩いていると。


厩舎の馬の部屋は木の柵で区切られている。
一番上の丸太をスライドさせれば、閂が外れて、押せば簡単に開くようになる。

私が歩いているのを見かけたクロヒメは、一番上部の丸太をカパっと銜えると、それをスライドさせて、さも当然かのように、こちらへと歩いてやってきた。

てか、あんたそうやって抜け出してたのかっ!
何て奴だ・・・。

私の傍まで来ると顔を私の頬に寄せてきた。

「えーと、これが、ブレンダに面倒を見て欲しいクロヒメよ。」

私はブレンダにクロヒメを紹介した。
相変わらず初対面の人間は、ジッと見つめるクロヒメ。

「ぶ、ブレンダです。」

そう言ってクロヒメに頭を下げた。
馬に自己紹介するのもアレだが、頭まで下げる人は初めて見た。

「ふふん。」

くるしうないとでも、言いたそうな雰囲気だ。
何様だ、あんた・・・。

とりあえず、全員で離れの厩舎へと向かった。

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