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私、監禁されています。

突然何を宣言してるかと思われるかもだが、実際、監禁されている。

屋敷内から出てはいけない。

さて、その屋敷内はというと。
広大な庭?も屋敷内に入る。
ちなみに私が踏み入れたことなかった裏庭だが、めっさ広い。
前世の田舎の町くらいだ。

行動範囲から言えば、町に監禁されたと言っても過言ではない。
そんなの監禁ではないと言われるかもだが、前世では立派な監禁罪だ。
そもそも、刑罰的には、軟禁なんて用語は無いしね。

いやあ、裏庭を散策するだけで、どんだけ時間が掛かるんだろうか?
なんか、ワクワクしてない?私。
監禁されてるのに。

ふふふ。

「よからぬことを考えていませんか?」

突然、リリアーヌに言われた。

「考えてないよ?」

「本当ですか?」

「本当よ。」

「裏庭を探検しようとか思ってませんか?」

「思ってるわよ?」

「・・・。」

「え?何?駄目なの?」

「お嬢様にとって、屋敷内とは、庭も全て含めた事を言うのですね。」

「普通、そうじゃないの?」

「・・・。」

「お母様には言わないでね。」

「決して一人で、探検しないと約束して頂けるなら。」

「わかったわ。」

ピザート家は、領地なし貴族だが、王都内の屋敷(庭を含む)の広さは、王宮に次ぐ広さだ。
私が住む本館だけでなく、屋敷の数も多い。そりゃあ前世の町クラスの広さなんだから、建物が多くあって不思議はない。
アーマード伯爵が滞在する為の屋敷もある。
アーマード伯爵以外の屋敷も多数存在する。
ピザート家派閥の方たちの王家滞在用の屋敷だ。
領地持ち貴族たちも、年に何回かは王都に滞在しないといけない為、皆、滞在用の屋敷ないし、常宿を確保している。
うん、貴族は大変だ。

「お嬢様、王宮の展示室の件は、どうなりました?」

あっ、忘れてた。
というか、監禁中だぞ、私は・・・。

「私、監禁中なんだけど?」

「王宮であれば、問題はないかと。」

「そういうもの?」

「聞いてみるくらいは、いいのでは?」

「なるほど。」

アーマード伯爵は、自分の屋敷で寝起きはしているが、食事は、私たちと一緒にとっている。
叔父様なら、私の味方になってくれそうとは思うが、食事の場で言う程、私も愚かではない。

こういう時は、お父様と二人きりでに限る。

出勤前に少しだけ、時間を頂いた。

「王宮の展示室に?」

「はい、デザインの勉強の為、スケッチしようかと。」

「あそこに展示してあるのは、イミテーションだけど?」

「デザインの参考にするんで、偽物でも関係ありません。」

「もしかしてだけど、そのデザインした物は、アレを使うのかい?」

「多分、ディグレットさんが、そう言ってましたし。」

「・・・。」

いや、解るよ。
アレを使うのか?って思うよね、そりゃあ・・・。

「まあ、考えておこう。」

監禁中だという事は、関係ないみたいだ。
うん、リリアーヌの言うとおりだ。
言ってみるもんだな。

リリアーヌが仕事で席を外してる為、私は一人だ。
本館から出ないように口が酸っぱくなるまで、言われたので、出ないでおこう。
となれば、向かうは、厨房だ。

令嬢が厨房に入るのは問題行動だと、お母様には言われたが、行くなとは言われていない。
これ大事。

どうせダリアが居るのだろうと思っていたが、居なかった。

ありゃあ・・・。

厨房を見渡すと料理長と目が合った。
私は料理長を手招きした。

「何でしょうか、お嬢様。」

「包丁を練習したい。」

「えっ?」

「包丁を練習したい。」

大事な事だから2度・・・、いや、えって聞き返すから2度言った。

「し、しかし、お嬢様。包丁は非常に危険で。」

「うん、知ってる。」

「お嬢様には、まだ早いかと・・・。」

私は、辺りを見渡した。
サントンを見つけた。

「サントンは、何歳から包丁を握ったの?」

「お、俺ですか?8歳くらいだったかなあ。」

物凄い顔で、料理長がサントンを睨んだ。

「私は、10歳よ。」

「・・・。」

料理長は何も言えなくなった。




「猫の手ですよ。お嬢様、猫の手。」

猫の手、猫の手、うっさいわっ!

「包丁の腹から、中指の第二関節を離さないように。」

普通、第一関節じゃないの?と思ったが、子供だから第二関節だそうだ。

包丁の腹から、中指の第二関節が離れない限り、間違って左手を切ることは無い。

うん理論は知ってる。

やるとなれば、なかなか旨くいかない。
練習という事で、料理長が大根を出した時には、かつら剥きキタっと思ったが、違った。

ベティナイフで、大根を輪切りにしていく。
不揃いだが、怪我することなく終えた。

「お嬢様、包丁を置いてください。」

言われんでも、置くっての。
何か料理長、声が震えてない?

包丁を置くと。

「ふぎゃっ。」

背後から誰かに抱きかかえられた。
いきなりで、変な声が出てしまった。

リリアーヌめっ!

台から抱き下ろされた私は、犯人の顔を見上げた。

リリアーヌじゃなかった。
鬼の形相をしたダリアだった・・・。

ちょ、ダリア、マジ怖いんだけど。

「さて、料理長。説明を。」

「え、あ、いや、その・・・。」

「違うのよ、ダリア。私が無理言って練習させてもらったの。」

ジッと私の瞳を至近距離で見つめる。

こわい、こわいっ!

「今後、包丁を持たないと誓えますか?」

「誓えません。」

「・・・。」

いや、だって、せっかくなら料理してみたいし。前世だと懇切丁寧に教えて貰う為には、金がいるわけで。
その点、今だと、ノーマネーで、教えてくれる人多数っ!
こんな機会を逃す手はない。

「私が見ている時以外は、持たないと誓えますか?」

「えっ、それだとダリアが居ない時に練習できないし。」

「でしたら、奥様に報告します。」

「ま、待って、誓います。」

「本当ですね?」

「はい。」

さすがに料理長には悪いので、もう頼めない。
が、リリアーヌさえ、何とかすれば、ダリアが居ない時も練習できそうだ。

どうせ、リリアーヌとダリアは、仲が悪いし。

「まあ、いいでしょう。」

ほっ。

「せっかくなので、お嬢様に切ってもらいましょうか。」

そう言いながら、ダリアは、焼きたての四角いパンを料理長から受け取っていた。

「パン?」

「そうですね、かぼちゃパンです。」

おおー、美味しそうだ。

今度は、均等になるように切っていく。
猫の手と連呼するのが、料理長からダリアに変わっただけで、煩く言われるのは、変わりない。

切り終わると、使用人の休憩スペースであるテラスで、いつものプチお茶会。

今日の紅茶には、蜂蜜が入っていた。

旨いっ!
もちろん、かぼちゃパンも旨い。

その夜、別の仕事を終えたリリアーヌが戻ってきた。

「お嬢様、包丁を使ったようですね。今後、ダリアの前以外では使わないようお願いします。」

ぬおっ、ぎょ、業務連絡だと?
仲悪いんじゃないのかよっ・・・。




監禁生活2日目。

朝の授業を終えると、午後からエヴァーノの所へ向かう。本館を一歩出ると、即座にクロヒメに捕まった。
いつもより強めに、顔を寄せてくる。

「はいはい、わかったから。」

そう言って頬を擦る。
今日は、離れそうにないな。

仕方ないので、そのまま、エヴァーノの所へ。

畑にエヴァーノは、居なかった。
エヴァーノは、使用人が住む屋敷の1階で暮らしている。
使用人用の屋敷は、畑のすぐ前にあった。

「屋敷の方かしら?」

「おそらく。」

ということで、屋敷の中へと入っていく。
クロヒメまで入ってきそうだったので、何とか押しとめた。

「エヴァーノ、いる?」

1階のエヴァーノの部屋の前で声を掛けてみた。

「お嬢さんかい、入って構わないよ。」

そう言われたので、私とリリアーヌ、二人で、エヴァーノの部屋へ入室した。
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