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「元気そうで、何よりだ。アウエリア。」

貴族っぽいおっさんに挨拶された。
多分、叔父様だと思う。
思うが、間違えたらアレだし・・・。

「アーマード伯爵様です。」

キタっ、天の声ならぬ、リリアーヌの声。

「始めまして叔父様。」

「うむ。」

「叔父様は、どうしてこちらに?」

「ちょうど王都に滞在する季節なんでな。兄上からアウエリアの護衛を頼まれ、ここで待っていた。」

「はっ?私の護衛なら、既に居りますが・・・。」

おいおい、これ以上増えるの?えっ?

「まあ、ついでだ。気にするな。」

何だろう、後ろの方で気配がする。
振り向くと、クロヒメがジーっとこちらを見ていた。

はいはい、疲れてるんでしょ?

「すみません、叔父様。馬を労ってきます。」

「ああ。」

「お嬢様、角砂糖を。」

「ありがとう。」

リリアーヌから手渡された角砂糖を、クロヒメの前に差し出す。

「まったく、勝手に付いてくるから疲れるでしょ?」

「ふふふふん。」
大したことないと言っている。

はいはい。

私はいつものように優しく頬を撫でた。

「それは、うちに居た暴れ馬ではないか?」

叔父様は、警戒して少し離れた場所で、聞いてきた。

「はい、アーマード家から預かっている馬です。名前はクロヒメです。」

「随分と慣れているようだが、人嫌いではなかったのか?」

「男嫌いっぽいです。」

「ふむ、そうか。なら私は近づかない方がいいな。」

「はい、すみません。」

「アウエリアは、クロヒメに乗れるのか?」

「ええ、まだまだですけど。」

「10歳から馬に騎乗できるとは、さすがピザート家の娘だな。」

ふははははっ

叔父様は、豪快に笑った。

いやあ、本当のピザート家の娘だったら乗らないと思いますよ・・・。




合流ポイントで休憩を終えると、再び走り出す。
次は、屋敷まで、ノンストップだ。

50名以上の兵士に守られながら、馬車は行く。

って、これ何の集団?

そこで、ふと思った。

「王都の街に入るのかしら?」

「いえ、入りません。」

リリアーヌが答えてくれた。

「どうやって帰るのよ?」

「裏門から入ります。」

「うら?」

「はい。」

「そんなものが?」

「屋敷の裏側には、広大な土地が広がっていますので、そちら側に、裏門があります。」

「初耳なんだけど。」

「お嬢様は前科がおありですから。」

「うっ。」

「前科って何ですか?」

エンリが聞いてきた。

「勝手に屋敷を抜け出して、一人で街中へ出て行かれました。」

「えっ?街中って平民街ですか?」

「はい。」

「え?だって貴族門がありますよね?お嬢様一人で、抜け出せないと思うんですが?」

「お嬢様は、平民っぽい服装で、下働きを装って貴族門を抜けたようです。当時、屋敷の門番も、お嬢様の顔は知りませんでしたので、同様に。」

「悪質ですね・・・。」

「はい、大変、悪質です。」

なんだ、なんだ?私が悪者みたいに。

「ちょっと街中へ行きたくなっただけなのに、何故、悪者扱い?」

「お嬢様、何者かに変装するのは、冒険者にとっては日常茶飯事。向いてますよ、冒険者に。」

うん、ヘスティナは黙ってて。

私は、ヘスティナを目で制した後、スルーした。

暫くして、馬車が停車。
到着したのかな?
その後、ちょっとだけ馬車が動く。

「アウエリア、降りて皆に挨拶しなさい。」

馬車の外から叔父様に声を掛けられた。

挨拶?
誰に?

馬車から降りると、100名以上はいる兵士たちが、整列していた。

なんじゃこりゃ・・・。

「無事、アウエリアが帰還した。」

叔父様が宣言する。

帰還って大げさな。
別に遠くへ行ってたり、戦地に行っていた訳ではない。
ただ、ちょっと王都内に宝石(いし)拾いに行っていただけだ。
ちょっとした小旅行と、そう変わらんだろう。

「さあ、アウエリア、皆に挨拶を。」

ぬおっ・・・、叔父様・・・何て無茶振りを。
仕方ない。

「皆、心配を掛けました。私は無事です。」

これ位なら言えるのだよ。中身大人だし(多分ね)。

「「「おおおーっ!!」」」

うわっ、ビックリした。

兵士たちが一斉に、雄たけびを上げた。

大げさ、大げさすぎる。
めっちゃ、恥ずかしいわ。

兵士たちの先には、豪奢な馬車が一台。
うん、言わずもがな、お母様の馬車だ。

馬車から降りたお母様が、小走りに寄って来る。
優雅な小走りなのに、速くね?
めっちゃ速いよ、お母様・・・。

ガシっ!

私を強く抱きしめる。

「無事で何よりです。」

「ご、ご心配をお掛けしました。」

「本当に、まったく・・・。」

いや、大げさすぎですよ?本当。

「やはり、屋敷から出すべきではないのかしら?」

耳元でボソっと言われた。

怖い怖いっ!監禁宣言ですよ、それっ!!

「義姉上(あねうえ)、今回もお世話になります。」

「娘の護衛、感謝します。アーマード伯爵。」

そう、丁寧に言いながらも、私を離そうとしない。

「屋敷の方は、いつも通り、準備が整っています。」

「忝い。」

「さて、私たちも、屋敷に戻りましょう。」

そう言うと、お母様は、私を抱えた。

えっ、ええーっ?
体重を計った事なんてないが、これでも10歳。小柄とは言え30キロは、あるはず。

その私を抱っこしたまま、自分の馬車へと向かう、お母様。

「ちょっ、お母様。エンリや、ヘスティナ、それにスザンヌも居ますので。」

「リリアーヌ、後は任せます。」

「承知いたしました。」

かくして、私は、お母様の馬車で、屋敷へと連行されてしまった。




お父様が帰宅して、私、お母様、お父様、叔父様の4人で話し合いが行われた。
事前に詳細は、お母様がリリアーヌから聞いていた。

「さすがに、2日前の事なので、王都では、噂すらあがっていない。」

お父様が言われた。

「しかし、噂にはなるだろう?テセウスの涙だし。」

叔父様が言う。

「ディグレットさんが、自分が発見したと噂を流してくれたのだったね。」

「はい、お父様。」

「いつか礼を言わねばな・・・。」

「やはり、アウエリアは、屋敷から出すべきではないでしょう。」

お母様が、とんでもない事を言い出した。

あの呟き、本気?

「義姉上、それはアウエリアが可哀想でしょう?」

叔父様、もっと言ってやって!

「こうも毎回、問題を起こされては、私たちの身が持ちません。」

「なんと、アウエリアは、そんなに問題児だったのか・・・。」

いやいやいや、えっ?
問題なんか起こしたことは・・・。
いや、最初に屋敷を抜け出した事は、問題だと認めよう。うん、仕方がない。
他に問題なんて起こしてないでしょ。

「屋敷から抜け出したり、馬から落馬したり、野菜の収穫をしたり、孤児院へ行ったり、厨房に入ったり・・・、宝石(いし)拾いに行きたいと言い出したりと。」

「屋敷から抜け出した事は、謝ります。しかし、他は、問題行動では、ありませんよ?」

「貴族令嬢としては、問題行動でしょう?」

うぐっ・・・。
それを言われると、言い返せませんがな・・・。

「あなたが、教会へ行く事を許可したから、こうなったんですよ?」

お父様が責められる。
申し訳ない。

「まあまあ、義姉上。元気があっていいじゃないですか?」

「元気があれば、いいというものではありません。」

「とりあえずだ。噂がどうなるか先が見えない。アウエリア、暫くは屋敷で大人しくしておいてくれるか?」

「はい。」

私は素直に応じた。

一旦、自室に戻り、リリアーヌから、あの後の事を、報告してもらった。

ヘスティナは、エンリを商会まで護衛してもらい、スザンナには、色々と馬具の注文をしたとの事だ。

クロヒメの面倒を見て貰ったので、お金を支払うと言ったが固辞されたそうだ。
じゃあという事で、馬具を色々と注文したそうで。
大喜びで帰っていったという事だから、まあいいでしょう。

「私は、暫くは屋敷から出れそうにないわ。」

「暫くで済めばいいですけど?」

リリアーヌが不吉な事を言った。

暫くって、どれくらい?
ふと、前世の記憶から、暫くの意味を探ったが。
あんまり時間が掛からない時と、時間的にある程度長く続く時と、両方で使われていた便利な言葉。

Oh!no  なんてこった・・・。
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