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「まあ、それは置いといて。」

「えっ、大ごとですよ?置いておくんですか?」

「どうしようもならないし。」

「・・・。」

「販売用のエリアは、こんな感じでいい?」

ショーケースの前に、ざっとスペースを取った。前世の遠い記憶から引っ張り出したものだ。

「はい。いいと思います。」

「1階の店内は、4人用席をまばらで配置する感じでいいかな?」

「4人用席ですか?」

「そうだけど?」

「カップルとかは、ターゲットには?」

「こういう甘い物は、どうかしら?女性客が多くなれば、カップルも入りにくいと思うけど?」

「なるほど。」

「それに、わざわざ二人用席を設けるよりも、4人用席に座らせた方がいいでしょ。」

「わかりました。」

朧げな記憶を頼りにカフェの店内デザインをデッサンしていく。

「こういうの、そんなに簡単に描けるもの?」

叔母様が聞いてきた。

「アクセサリーとかデッサンはしてますので。」

適当に答えておいた。

「いいんじゃないかしら?これなら私も行ってみたいわ。」

私が描いた3枚のデッサンを見ながら、お母様がそう言った。

「奥様、これは1階の平民用ですので・・・。」

シェリルが突っ込む。

「値段設定は、どうするの?」

叔母様が心配そうに、シェリルに聞いた。

「そうですね、紅茶とセット価格で1500ゴールドを考えております。」

100万ゴールドあれば、1年が普通に過ごせる、この世界。1500ゴールドは高いだろう。
でもまあ材料費考えたら、こんなもんだ。

「持ち帰る物は?」

「一つ1000ゴールドです。」

持ち帰り用の箱代もあるしね。

「庶民にどうかしら・・・。」

「厳しいなら派閥に言えば、問題ないわ。」

さすが、お母様、いざとなったらゴリ押しで進める気だ。まあ本当に厳しいなら、私も派閥を使う所存だ。
今度こそ使えるといいなあ・・・。


そうこう打合せしていると、一仕事終えたアリスが、とことこと、こちらのテーブルにやってきた。
アリスが、私が描いたデッサンを見る。

「すごい、すごい。おしゃれです。」

ふふふ。
私の鼻が伸びる伸びる。

「アリスも、こういう場所で、お茶をしてみたいでしょう?」

「はい。」

お母様に言われて、素直に返事をするアリス。
うーん、眼福っ!




翌日。
朝、普段通りに朝食が終わり、お母様と叔母様も出かけて行った。

よしっ!

私とアリスはお着替えだ。
アリスの着替えは私が手伝い、私のは、リリアーヌが担当する。

リリアーヌは、いい顔はしていない。

今日は、エヴァーノのお手伝いをする。
私は学んだのだ。
朝から作業着で、朝食をとれば、何かを言われることは、間違いない。
なので、皆が居なくなってから、着替える事にした。

で、作業着を着た私とアリスは、エヴァーノの元へ向かう。
今日は、じゃがいもの収穫だ。

エヴァーノに手伝うか?と聞かれていたので、アリスに言った所、アリスもやってみたいという事なので、参加する事にした。

リリアーヌも、汚れてもいい服装に着替えている。
私があげたブローチは付けていない。
まあ、そりゃそうか。

「さあ、お嬢さんがた、今日は頑張っておくれ。」

「はいっ、がんばります。」

うん、アリスは今日も可愛い。

少し離れた所では、クロヒメがウロウロしている。
収穫には、男性陣も多い為、直ぐ傍には寄ってこない。
参加者の中には、お針子隊の姿もあった。

私とアリスは軍手をはめている。

「茎の根元をしっかり握って、引っ張るのよ。」

私がアリスに教える。

「うーん、うーん。」

アリスが頑張っているので、私が手伝う。

「一緒に引っ張るわよ。せーのっ。」

二人で引き抜くと、じゃがいもの姿が現れた。
全部ではなく、一部のじゃがいもが。

「後は、こうやって泥を除けて。」

そう言って、私は残りのジャガイモを掘っていった。

「はい、持ち上げてみて。」

アリスが茎の根元を両手で持って、持ち上げる。
10個以上のじゃがいもが姿を露わにした。

「お姉さま、お姉さま。大量ですっ。」

アリスは大喜びだった。
周りを見渡せば、手慣れた手つきで、ブレンダが収穫しており、アンとレミに教えていた。

いや、万能だな、ブレンダは。
神父さんの紹介って事は、孤児院でも優秀だったんだろう。
うん、いい人を紹介してもらった。お父様に引き抜かれない様にしっかりと釘をさしておこう。

その後、アリスと共にじゃがいもを収穫していく。
リリアーヌは、収穫する訳でもなく、私とアリスのサポートに徹していた。


じゃがいもの収穫も無事終了し、アリスはお昼寝中。
私は、一人厨房へと向かった。
一人と言っても、リリアーヌ+お付きの女中は着いてきますけどねっ。

「料理長、じゃがいもなんだけど、ハッシュドポテトを作ってれる?」

「なんですか・・・それ・・・。」

やはり、知らなかったか。
という事で、作り方を料理長に教える。

「とりあえず、魔導レンジで温めて、皮を剥いてくれる。」

「はい。」

料理長が私の指示通りに調理してくれる。

「半分、潰して、半分を粗みじんにして、軽く混ぜて。」

「はい。」

「味付けは、混ぜる時にね。」

「塩と胡椒で、いいですか?」

「そうね。繋ぎで軽く、でんぷん粉も混ぜといて。」

「はい。」

小判状って言っても、判らないので、冷めたのを確認後、私が形を作っていく。

「こういう形にして、油で揚げて。」

「コロッケの様な物ですが、じゃがいもだけでいいんですか?」

「ええ。」

とりあえず、料理長が一つ作ったので、4等分して試食する。
最初に言わなくても判ると思うが、リリアーヌが食べる。

「ふむふむ、触感がいい感じです。」

もはや、完全な味見だ。
私も、パクリっ。

う、うまぁっ。
これや、これがハッシュドポテトや~。

「う~む・・・。」

料理長と副料理長が唸る。

「何か問題が?」

「果たして貴族の食卓に出していい物か・・・。」

「とりあえず、私が作ってって言った事にしてちょうだい。」

「了解しました。」

ハッシュドポテトが貴族向けかと聞かれたら、私も悩むなそりゃあ・・・。




夕食時。

「こちらは、お嬢様に言われて調理したハッシュドポテトになります。」

執事長のモーゼスが、そう説明した。

「クロケットとは違うのかしら?」

お母様が聞いた。

「はい、じゃがいもだけの料理という事です。」

「あら、じゃがいもだけなのね。まあいいわ、食べてみましょう。」

で、全員が口にする。

「おいしいっ!これ、おいしいです。」

ふっ、勝ったな。
アリスのこれが聞きたくて、無理を言って作って貰った料理だ。
あえて言おう、ハッシュドポテトを嫌いな子供は居ませんからっ!

「姉さん、これ美味しいよ。」

うんうん。

「変わった触感で、美味しいのは美味しいけど。」

叔母様がそんな事を言う。

「お母さま、お母さま。このじゃがいもは、私が収穫しましたっ!」

ちょっ、アリス、それは内緒に・・・。

「はっ?」

叔母様が素っ頓狂な声をあげる。

「ほう、アリスが収穫したのか、そう聞くと美味しさが増してきたよ。」

ナイスだっ叔父様。
叔母様がこちらを睨んでいるが、気にしたら負けだ。

「貴族らしいとは言えないけど、じゃがいもも新鮮なだけあって、美味しいわね。もう一つもらえるかしら。」

おっ、お母様からおかわりが入った。

「私も貰えるからしら。」

叔母様からも。
アリスが収穫したと言われれば、おかわりしない訳にはいかんだろ。

ハッシュドポテト好きの私も、おかわりと言いたいところだが、油の取りすぎはいかんっ。

断腸の思いで、断念した。

お父様や叔父様も、おかわりしている。
まあ、男性陣はいいよね。

それにしてもお母様も叔母様も、何でスタイルがいいんだ?
食事制限している訳でもなく、お茶会も参加しまくっている。
どういう事?
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