ニートじゃなくてただの無職がVRMMOで釣りをするお話はどうですか?

華翔誠

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第一部 失業したおっさんがVRMMOで釣りをしていたら伯爵と呼ばれるようになった理由(わけ)

リアル過去編「部下と友と」

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「時野主任、新しい子をお願いできるかな?」
新人が入社して半年が経とうとしていた頃、時野は、業務課長から
お願いされた。
「課長、自分に新人は任さないという事でしたが・・・。」
「ああ、大丈夫だよ。男性だから。」
「はあ。」
時野は、とある事情で、主任に降格しており、業務課に所属していた。
「始めまして、常磐といいます。宜しくお願いします。」
【どんな、問題児かと思ったが、感じよさそうじゃないか】
常磐は、小柄で中性的な顔立ちをしていた。
「まあ、仕事の依頼があるまで、好きな事でもしといてくれ。」
「ネット使ってもいいんですか?」
「ああ、エロ以外ならな。」
時野自身、業務課預かりと言う事で、業務課の仕事は無かった。
そんな、時野の元へ回されるって事は、何かしらの問題があるはずと
時野は思っていた。

「すみません。時野さん、常盤君を借りたいんですが。」
「えっ・・・。」
かつての部下であった男が声を掛けてきた。

設計課の方で、手書きの図面をCADに落とす雑用の仕事だった。
山のように積まれた図面は、時野がざっとみても3、4日かかるような量だった。
「これを2日で、お願いできるかな?」
「は~い。」
設計課課長補佐の無理難題に、常磐は軽く返事をした。
「ちょ、ちょっと課長補佐、よろしいでしょうか?」
時野は人目を気にして、課長補佐を人が居ない場所へ連れて行った。
「おい、あれを2日って無理だろ?」
「時野さん知らないんですか?あの新人、めちゃくちゃ仕事早いんですよ。」
「出来る子なのか?」
「ええ、もの凄く。」
「何で、俺の所に回ってきたんだ?」
「仕事は、出来るんですが、まったく協調性がないんですよ。」
「例えば?」
「殆ど定時で帰りますね。」
「仕事をほったらかしで?」
「いえ、仕事はキチンとこなしてます。」
「じゃあ、いいじゃねえか?」
「何ていうのか、周りに気を使わない子なんですよ。周りが忙しく
 仕事してても気にせず帰っちゃうんで。」
「それで、あちこちたらい回しされて俺のとこへ?」
「ですね。」

「おい、常磐。帰宅する前に業務課に顔出すように。」
「了解です。」
【素直な奴にしか見えないんだが・・・】
時野は、一人業務課へと戻った。
午後の業務が始まって、間もなく時野の元へ内線が掛かってきた。
「受付ですが、時野さんに面会を希望されてる方が。」
「女性?」
「残念ながら男性ですよ。」
「了解。」
時野は、受付ロビーへと向かった。

そこで、待っていたのは、作業着を着た若い男性だった。
「おー、権蔵じゃないか。」
「ちょっ、時野さん下の名前やめてくださいよ。」
「久しぶりだな。」
合田権造は、波田運輸サービスの従業員で、波田進のずーっと下の後輩だった。
暴走族の。
時野は、波田と同じ3流高校を卒業しているが、そういうのとは縁遠く、
単に波田と友人というだけだった。
合田権造との関係も、権造が波田運輸サービスに入ってからの付き合いとなる。

「実は、いまうちの会社が大変な事になってまして。」
権造が、波田運輸サービスの現状を説明した。
波田運輸サービスは、波田が一人で立ち上げた会社で、今は波田と権造、会計の
3人の従業員とパートの春子さん、バイトと計5人でやり繰りしている。
なんとかカツカツ黒字で回していたのだが、運用資金の300万を持って会計が
逃げてしまったのだ。
警察にも通報は済ませたが、会計の足取りは掴めていない。
月末も迫っており、銀行への借入金の返済や取引先への支払い等で、
社長の波田は、金策であちこちを回ってはいるのだが、
今の所、銀行の新たな借入は、望めないらしい。
「俺が車とか買わずに貯金してれば・・・。」
権造は酷く悔やんでいた。
「話は、わかった。権造、お前は先に帰ってろ。
 後から俺も顔出すから。」
「すみません。俺、時野さんしか頼れる人居なくて。」
権造は何度も、頭を下げながら帰って行った。
【さて、300くらいなら、俺が用立ててもいいんだが、進の奴は絶対受けとらないだろうなあ。】
暫く思案して、時野は会社を後にした。

「久しぶり」
時野が波田運輸サービスに顔を出すと、まるでお通夜をやってるかのように、
所内全体が暗い雰囲気だった。
「時野さん、いらっしゃいませ。コーヒー入れましょうか?」
「相変わらず春子さんは、お美しい。直ぐ出ますんでいいですよ。
 おい、進、ちょっと付き合え。」
「あ、ああ。」
二人は、波田運輸サービスを後にした。
「権造の奴が何か言ったのか?」
「従業員に心配されるようじゃあ、社長としてまだまだだな、進。」
二人は都銀の前についた。
「ここは、うちのメインバンクじゃないか。」
「話は通してある。」

「こちらにサインして頂ければ、300万ご融資いたします。」
銀行の融資課の人間が波田進に言った。
「えっ、しかし・・・。」
困惑する波田。
メインバンクには既に借入を断られていたからだ。
「波田さんの会社が、問題無い事は私も重々承知してるんですが、
 このご時世なんで、決済が取れないんですよ。」
そう言って、担当者は、保証人の欄を示した。
そこには時野の名前と判が押されていた。
「時野っ、お前っ」
「気にするな、お前がちゃんと返済すれば、俺には何の迷惑も掛からん。」
「しかしっ。」
「なんだ、300万如きを返済する自信がないのか?」
「ば、馬鹿にするな。300万くらい直ぐに返済出来るっ。」
「じゃあ問題ないだろ。」
「・・・。」
波田進は、サインをして300万円を借りる事が出来た。
「まっさきに、この借入金から返済する。お前には絶対迷惑はかけない。」
「そんな事はどうでもいいから、権造や春子さんに心配かけるな。」
「面目ない。」
「困った時は、俺の所にいいに来ればいいのに。」
「・・・。」
「まあいい、俺は会社があるから帰る。またなっ。」
「あ、ああ。」
時野が背を向け歩き出すと、波田進は深々と頭を下げた。

帰社して、業務課へ戻ると既に常磐が席に座っていた。
「今日の分は終わったのか?」
「全部終わっちゃいました。」
「えっ・・・。」
常磐はネットしながら、サラッと答えた。
「ちょっと、設計課行ってくるから、常磐は待ってろ。」
「は~い。」
設計課に行くとかつての部下、課長補佐が、図面チェックをしていた。
「課長補佐、常磐が業務課に戻ってきてますが。」
「え、ええ。さすがに2日は掛かると思ってたんですが、終わったようです。」
「・・・。」
「また、仕事頼むかもしれませんので、その時はお願いします。」
「え、ええ。」

業務課で、常磐は自分のノートパソコンでずっとネットを見ていた。
「常磐、今日の夜付き合えるか?」
「僕、お酒飲めませんよ?」
「ウーロン茶やコーラで構わんよ。」
「それなら、お付き合いします。」
【まったく協調性が無い訳じゃあないような・・・】

定時で会社を出て、二人は時野の行きつけの居酒屋へ向かった。
「常磐はウーロン茶か?」
「コーラでお願いします。」
「大将、ビールとコーラ、あと屑串2人前ね。
 常磐、食べたい物あれば、どんどん頼んでいいぞ。」
「主任、屑串ってなんです?」
「ビールとコーラ、屑串お待ちっ!」
注文の品が運ばれてきた。
「これが屑肉の串で、こっちがキャベツの芯、でこれが不揃いのプチトマトだ。」
「僕、トマト駄目なんです。」
「そうか、じゃあ俺が貰おう。」
「キャベツの芯・・・。」
訝し目にパクっと口に入れた。
「甘い・・・。」
パクッパクッと3つ刺してあるカットされた芯を全て食べ尽くした。
「ちなみにこのプチトマトも甘かったりする。」
そう言いながら、旨そうに食う時野。
「一つだけ食べてみるか?」
常磐はコクリと頷いた。
こちらも3コが串刺しにされていて、1コだけ外して貰った。
常磐は、目をつぶって、一つを口に入れた。
「甘い・・・。」
「トマトじゃないみたいだろ?秘伝の何かに漬けて焼いてるそうだ。」
「主任・・・返して貰っていいですか?」
「いいよ。」
そうして、全てのプチトマトを食べ尽くした。
「美味しいです。屑串もっと食べたいです。」
「残念ながら、お一人様一人前ずつだ。」
「うぬぬぬ・・・。」
「他にも美味しいものあるから、どんどん頼んでいいぞ。」
「はいっ。」
常磐は、メニューとにらめっこして、注文していった。

「そういやあ、常磐は、こういう飲みにケーションは、どうしてるんだ?」
「全部断ってます。」
「・・・」
「最初の歓迎会で、無理にお酒を奨める人が多かったんで。」
いつの時代になっても、新人に酒を強要する馬鹿は居なくならない。
「俺が奨めるとは思わなかったのか?」
「うーん、主任に興味がありましたんで一度くらいはいいかなと。」
「俺に?」
「新人研修で、講師が口をすっぱくして女性は近づくなと。
 8割の新人女性が主任のせいで辞めて行くと言ってました。」
「ほう。講師の名前教えといてくれる?」
常磐に聞いて時野は、3人の名前を記憶に深く深く刻みつけるように覚えた。
「全部デマだから、気にするな。」
「でも、降格されて、まだ主任なんですよね?」
「ぐっ・・・。それはだな・・・、まあ色々とあって。」
「色々ですかあ。」
とたわいもない会話で食事は進み、飲みにケーションは無事(?)終了した。
「凄く美味しかったです。また誘ってくださいね。」
と、常磐もこの居酒屋を気に入ったようだった。

ある日、時野に仕事の依頼が舞い込んできた。
資材部と設計が揉めてるので、その仲裁をして欲しいという事だった。
常磐も暇そうにしてたので、行ってみるか?と聞いたら行くと答えた。

「だから言ってんだろ、この鋼材じゃなきゃあ強度がないと。」
60は、過ぎてる老人が、30代の資材部の人間に怒鳴っていた。
「ないものは、ないんです。他の鋼材で工事にはお願いしました。」
「工事に、強度計算がわかるわけないだろっ!」
「どうかしましたか?おやっさん。」
「おお、時野か、聞いてくれ。今更になって鋼材を変更しろって、
 言いに来やがってよ。」
「変更するしかないのか?」
時野が資材部の人間に聞いた。
「どこの問屋も品切れ状態でして、納期に間に合わすには、こっちでやって貰わないと。」
「代替えの資材って3倍は用意出来ます?」
常磐が図面を見ながら尋ねた。
「くっ、小僧。なんでここにいやがるっ!」
「そっちは在庫ありますんで、大丈夫です。」
「おやっさん、常磐の事知ってるんですか?」
「こいつはなあ、新人の癖に俺の設計に駄目だししやがった奴だ。」
「凄いな。常磐・・・。」
「いいか小僧。確かに強度的には3倍使えば問題無いが、工期は迫ってるんだぞ。」
「半日で、設計し直せば問題ないはずです。」
「くっ・・・。」
おやっさんこと安西は、ふざけるなと怒鳴りたい所ではあったが、
常磐の実力を知ってたため何も言えなくなった。
「常磐が出来るのか?」
「はい。僕なら直接CADで設計出来ますんで。」
「じゃあ、それでお願いします。安西さんもいいですよね。」
資材部に言われて、安西ものむしかなかった。
「小僧、俺が明日チェックする。いいな。」
「4時には出来ますんで、設計の方に来て下さい。」
「くっ・・・。」
安西は既に定年した身であり、今は役付という待遇だった。
昔ながらの手書きで設計してるためCADは使えない。
CAD全盛期の現代においても、手書きの設計者は未だに存在する。
中には自分で手書きで設計し、CADで再入力する人も少なくない。

「こっちはH鋼を使え。」
「強度的には問題ないと思いますが?」
「材料費が安くすむだろっ。」
「はーい。」
言われたとおり、ちゃっちゃと変更し、設計は終了した。
「てめえは、見た目と違って可愛げがまったくねえなあ。
 時野、なんでお前の下にコイツがいる。」
「いやあ・・、面倒見てくれと頼まれまして。」
「まあいい。定時で終わったし、時野、いつもの所へ行くぞ。」
「はい。」
「もしかして、あの居酒屋ですか?」
「ああ、常磐も行くか?」
「コイツが行くわ・・・」
「行きますっ!」

「大将、ビール2つとコーラね。」
「主任、アレはっ!」
「心配しなくても、来るから待ってろ。」
ビール2つにコーラ、そして、常磐お待ちかねの屑串が3人前運ばれてきた。
「随分と懐かれてるじゃねえか。コイツは飲まないって有名だろ?」
「ええ、だからコーラですよ。」
常磐は、会話に加わらずコーラを飲みながら、屑串を頬張っていた。
「たくっ。酒も飲まないのに、いっちょ前に屑串かっ。」
「あれ?安西さんてトマト駄目な人ですか?よかったら僕が?」
「あほかっ!大好物だよっ!」
「あのな常磐、ここの居酒屋を教えてくれたのは、おやっさんなんだよ。」
「へえ。でもここうちの会社の人とか見ませんよね?」
「若い奴は、もっとおしゃれな所へ行くし、そもそも俺が誘ってもついてこねえ。」
「そうなんですか?」
「まあな。役付相手にしてる暇あったら、役職の相手した方が出世に関係するからな。今じゃあ時野くらいよ。」
「なるほど。主任は出世コース外れてますもんね。」
「くっ・・・。」
「ちげえねえ。」
「人を魚にするのは辞めて貰えますか?」
「お前はな、まずは女癖を治せ。」
「あの、おやっさん。俺は女性を口説いた事なんてないんですが?」
「へえ、そうなんですか?意外だなあ。」
「来るもの拒まずってのを治せっつってんだ。」
「おやっさんだったら、拒むんですか?」
「そんな女性に失礼な事出来るわけねえだろっ!」
「でしょ?」
「・・・」
「わかりました。どっちもどっちって奴ですね。」
「「くっ・・・」」
常磐の結論に二人は何も言えなかった。

常磐は、時野には懐いたようで、社内では、
「時野さんついに男まで・・・」
「あの人なら、いつかそうなるんじゃないかと。」
「時野×常磐は、ありよね?」
「どっちが攻めかな?」
「常磐君の強気攻め見てみたい。」
と一部腐った意見まであり、噂になった事は、言うまでもない。
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