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脚本はあのっ!
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「父さん、カメラ貸して。」
さやは、父親が帰宅すると直ぐに話しかけた。
「いいけど、何をとるんだい?」
「勇気のお姫様姿を。」
「詳しくっ!」
父親が妙に食いついてきた。
妻から一連の事情を聴いた父親は。
「俺も文化祭に行きたい!」
と駄々をこねだした。
「接待ゴルフの日でしょ?」
「あんなもん俺でなくなって出来る!」
「トレーサーって呼ばれる職人芸でしょうが。」
「くっ・・・。」
「何、トレーサーって?」
さやが聞いた。
「取引先の人のボールの半径5m以内に落とすのよ。」
「は?それってゴルフ上手いんじゃないの?」
「まあ、上手いって言えば上手いんだけどねえ。飛距離は母さんより下だし。」
「母さんが規格外じゃないの?」
「失礼なこと言うわね。まあ何にせよ、諦めなさい。接待ゴルフも立派な仕事でしょ。」
妻に言いくるめられ、泣く泣く諦めた。
望遠付きのカメラを持ってくると父は娘に手渡した。
「フラッシュは?」
「体育館でやるんだろう?フラッシュは駄目だよ。」
「えー暗幕張ってあるから結構暗いよ?」
「大丈夫だISO感度が高いから、暗闇でも撮影可能だ。」
「父さん、暗闇で何を取るの?」
娘からの不審の目に父は慌てた。
「いやいやいや、そういうの普通についてるから。ほら、さやのスマホだって暗いとこでも撮影できるだろ?」
「そんなのついてないわよ。」
不審に思いながら2階の部屋にあがり、暗くして撮影してみた。なんと暗闇でバッチシ撮影が出来た。
慌ててリビングに戻るさや。
「すごっ、スマホなのに!勇気知ってた?」
興奮気味に弟に聞いた。
「うん、知ってたよ。でも使うことないし。」
冷静に答える勇気の言葉に、さやの興奮は一気に冷めた。そりゃあそうだ、いつ使うのよと。
「ということで、さや。勇気の可愛い姿をバッチシ撮影してきてくれ。」
「わかった。」
家族が盛り上がる中、勇気は一人ため息をついた。俺の味方は何処にもいないじゃんって。
劇の大まかなストーリーは、眠れる森の美女と白雪姫をオマージュしたもの。
といっても、使われるのは眠りについたお姫様をキスで目覚めさせるという事だけ。
それ以外は何も決まっていない。
2年生が強制される劇では、全員参加が必須条件だ。
「では、皆、とりあえずやりたい事を。」
委員長が前に出て意見を聞いたが、こう言ったことに積極的に意見する人間はそうそう居ない。
お姫様役と王子様役が決定している現状では、当然と言えるが。
「間壁は何かある?」
「いや、別にない。」
委員長に聞かれて真斗はそっけなく答えた。
「んー、じゃあ緑屋は?」
「殴りたいっ!人を思いっきり殴りたい。」
「わかった。じゃあ男子は全員殴られる役で。」
「「「おいっ、待てっ!」」」
クラス中の男子が突っ込んだ。
「意見があるなら挙手してからな。」
「はいっ。」
浩一が挙手をした。
「はい、港。」
「お姫様に殴られるって、どんな劇やねんっ!」
浩一の関西弁風のツッコミに、クラスの男子が頷いた。
「だったら、代案を出してくれるか?」
「・・・。」
特にやりたいことがあるわけでもなし、浩一は黙るしかなかった。
「まあ、殴られるのも悪くはないよな・・・。」
誰かがボソッと呟き、何人かの男子生徒が頷いた。
委員長は耳には入っていたが、特殊な意見は、聞こえないことにした。
「わかった、どうせ挙手して意見となると、皆、何も言わないので、やりたいことを書いてもらうよ。それを文芸部の橋高さんに、纏めて貰うって事でいいかな?」
特にクラスから反論はでなかった。
「はい。」
文芸部の橋高ナツコが挙手をした。
「脚本は何処までが許容範囲なの?」
「許容範囲とは?」
「骨折までOKとか擦り傷までとか、色々あるでしょ?」
「「「お、おいっ!」」」
男性陣が突っ込みを入れる。
「文化祭の劇だからね。無傷でお願いしたい。」
「わかったわ。」
こうして、各自が要望を紙に書いて、提出する事になったのだが。
「あー、皆。1つだけ。」
今まで聞き役に徹していた担任が教壇に立って発言した。
「要望に関しては一旦、私が預かります。うん、それで精査してから橋高に渡すので、あんまり欲望に忠実な事を書かないようにな。そういうの先生が、焼却しますので。」
「そんな愚かな生徒は、うちのクラスには居ませんよ。」
「なあ。」
「本当だよ。」
クラスの男子たちが口々に言う姿を見て。
お前ら、アホだからなあ・・・。
と担任はしみじみと噛みしめた。
さやは、父親が帰宅すると直ぐに話しかけた。
「いいけど、何をとるんだい?」
「勇気のお姫様姿を。」
「詳しくっ!」
父親が妙に食いついてきた。
妻から一連の事情を聴いた父親は。
「俺も文化祭に行きたい!」
と駄々をこねだした。
「接待ゴルフの日でしょ?」
「あんなもん俺でなくなって出来る!」
「トレーサーって呼ばれる職人芸でしょうが。」
「くっ・・・。」
「何、トレーサーって?」
さやが聞いた。
「取引先の人のボールの半径5m以内に落とすのよ。」
「は?それってゴルフ上手いんじゃないの?」
「まあ、上手いって言えば上手いんだけどねえ。飛距離は母さんより下だし。」
「母さんが規格外じゃないの?」
「失礼なこと言うわね。まあ何にせよ、諦めなさい。接待ゴルフも立派な仕事でしょ。」
妻に言いくるめられ、泣く泣く諦めた。
望遠付きのカメラを持ってくると父は娘に手渡した。
「フラッシュは?」
「体育館でやるんだろう?フラッシュは駄目だよ。」
「えー暗幕張ってあるから結構暗いよ?」
「大丈夫だISO感度が高いから、暗闇でも撮影可能だ。」
「父さん、暗闇で何を取るの?」
娘からの不審の目に父は慌てた。
「いやいやいや、そういうの普通についてるから。ほら、さやのスマホだって暗いとこでも撮影できるだろ?」
「そんなのついてないわよ。」
不審に思いながら2階の部屋にあがり、暗くして撮影してみた。なんと暗闇でバッチシ撮影が出来た。
慌ててリビングに戻るさや。
「すごっ、スマホなのに!勇気知ってた?」
興奮気味に弟に聞いた。
「うん、知ってたよ。でも使うことないし。」
冷静に答える勇気の言葉に、さやの興奮は一気に冷めた。そりゃあそうだ、いつ使うのよと。
「ということで、さや。勇気の可愛い姿をバッチシ撮影してきてくれ。」
「わかった。」
家族が盛り上がる中、勇気は一人ため息をついた。俺の味方は何処にもいないじゃんって。
劇の大まかなストーリーは、眠れる森の美女と白雪姫をオマージュしたもの。
といっても、使われるのは眠りについたお姫様をキスで目覚めさせるという事だけ。
それ以外は何も決まっていない。
2年生が強制される劇では、全員参加が必須条件だ。
「では、皆、とりあえずやりたい事を。」
委員長が前に出て意見を聞いたが、こう言ったことに積極的に意見する人間はそうそう居ない。
お姫様役と王子様役が決定している現状では、当然と言えるが。
「間壁は何かある?」
「いや、別にない。」
委員長に聞かれて真斗はそっけなく答えた。
「んー、じゃあ緑屋は?」
「殴りたいっ!人を思いっきり殴りたい。」
「わかった。じゃあ男子は全員殴られる役で。」
「「「おいっ、待てっ!」」」
クラス中の男子が突っ込んだ。
「意見があるなら挙手してからな。」
「はいっ。」
浩一が挙手をした。
「はい、港。」
「お姫様に殴られるって、どんな劇やねんっ!」
浩一の関西弁風のツッコミに、クラスの男子が頷いた。
「だったら、代案を出してくれるか?」
「・・・。」
特にやりたいことがあるわけでもなし、浩一は黙るしかなかった。
「まあ、殴られるのも悪くはないよな・・・。」
誰かがボソッと呟き、何人かの男子生徒が頷いた。
委員長は耳には入っていたが、特殊な意見は、聞こえないことにした。
「わかった、どうせ挙手して意見となると、皆、何も言わないので、やりたいことを書いてもらうよ。それを文芸部の橋高さんに、纏めて貰うって事でいいかな?」
特にクラスから反論はでなかった。
「はい。」
文芸部の橋高ナツコが挙手をした。
「脚本は何処までが許容範囲なの?」
「許容範囲とは?」
「骨折までOKとか擦り傷までとか、色々あるでしょ?」
「「「お、おいっ!」」」
男性陣が突っ込みを入れる。
「文化祭の劇だからね。無傷でお願いしたい。」
「わかったわ。」
こうして、各自が要望を紙に書いて、提出する事になったのだが。
「あー、皆。1つだけ。」
今まで聞き役に徹していた担任が教壇に立って発言した。
「要望に関しては一旦、私が預かります。うん、それで精査してから橋高に渡すので、あんまり欲望に忠実な事を書かないようにな。そういうの先生が、焼却しますので。」
「そんな愚かな生徒は、うちのクラスには居ませんよ。」
「なあ。」
「本当だよ。」
クラスの男子たちが口々に言う姿を見て。
お前ら、アホだからなあ・・・。
と担任はしみじみと噛みしめた。
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