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家族とは

家族だから(1)

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 実際…

 そこまで自分を深く愛し『誰ものでも無いこれは俺のモノだ』と、主張してくれる悠の強い独占欲が自分を縛ってくれるのは、雫にとっては嬉しい事なのだった。

 そんな自分がドMで馬鹿な変態なのは十分に身につまされている。

 局部にピアスを着けられ、しかも穴は尿道を貫通させるプリンスアルバートとだろうと、今更その穴を閉じようとは思わなかった。

 ピアスの穴なんかそれを着けていなければある程度のものはまたすぐに塞がってしまう。それが人間の治癒能力というものだから仕方がない。

 その穴が塞がら無いように雫はあれ以来律儀にも悠が贈ってよこすピアスを文句を言いつつもいつも身に着けていた。

 あの日予想外の歯医者で局部にピアスホールを開けられて以来、雫のそこを彩って来たピアスはいくつかあった。

 この今身に着けているピアスだって、つい最近新たに悠にプレゼントされたものだった。

 黒い光沢のあるその箱が届くたびに雫の背中にゾクリと震えが走る。

 だいたいその高級そうなジュエリーボックスが届いた時は、またくだらない悠が作らせたアダルトアクセサリーの試作品が入っているに決まっていた。

 雫に使わせてみて良ければ通販サイトでも取り扱う。

 箱の外側には『sweet  drop』という店の名前が金の箔押しで刻まれていた。

 その店こそ悠が影のオーナーを務める大人の玩具からアダルトジュエリーに至るまでネット販売している会社だった。

 今回のピアスはプラチナ台にダイヤの突起のあるボディピアスだった。
 それは無駄にも電流まで流れる仕掛けまでしてあった。
 電子機器と同じでワイハイを通じて遠隔操作が可能で、勿論どこに居ても雫を見失わないようにGPSも埋め込まれている。

 無駄な遠隔操作で流れる電流はペットにご主人様のお帰りを身をもって分からせる為らしかった。
 どんなバカップルがそんなくだらないものを喜ぶと思うのかと言ってやりたかったが、確かに電話やメールに気付かない時にその身をもって分からせるという伝達方法は便利と言ったら便利だった。

 その電流の刺激が股間に走ったら、嫌でも近くまでご主人様が来ている事を知らしてくれるのである。

 携帯は電源が入っていなかったり、マナーモードにしていると気付かない事だって多々ある。
 現に雫なんかはそれがしょっ中だった。

 …だから悠にこんなものを着けさせられたのではないか? とも思う節も否めない。

 身から出た錆の代償だと思えば、しばらくはその商品モニターに協力させられるのも文句が言えない立場といえばそれまでだった。

 それを作ったのも作らせたのも…今から帰って来るという白鳥雫が愛してやまない最愛の者である佐藤悠に相違ないのだった。

 佐藤悠というこの男…一介の工学部の大学院生だと侮ると痛い目に遭うのは、恋人である白鳥雫こそ良く分かっていた。

 だがどんな天才だろうと神童だろうと、いけない事をした時は叱らなければならないと思うのだった。

 ピアスは別にいいのだ!
 それは雫を愛するが上の彼の自己主張なのだし、それにメールや電話に気付かない自分も悪いのだから。

 でも火を使っている時間帯にこの帰るコールはいかがなものかと思う。

 もっと電流を調節しろとか、振動だけに出来ないのかと商品改良の余地はあると言ってやらねば気が済まなかった。

 言うことは言う、遠慮なく怒る時は怒らなければならないと雫は心に強く言い聞かせる。

 いくら愛している相手だろうと、これだけ長く一緒に暮らしていれば所帯染みて来た事は否定しない。

 小姑と言われようと愛しているからこそ、ただ黙って言いなりになっていればいいとは雫は思わなかった。

 愛の印は悠の思い通りになる為に着けている訳じゃない。

 自分は悠を心から愛してはいたが、もうその想いは恋人とは違うものだと雫は思っていた。

 男同士だしこの国ではパートナーシップはある程度は認められるようにはなって来たけれど、まだ正式な夫婦としては認められてはいなかった。

 それでも雫の中ではもう悠はれっきとした自分の家族だと思っていた。

 だから他人同士が付き合っているだけのような、恋人という枠の中には収まりきらないもので、そんな甘いものじゃ無いとすら思っていた。

 だから、その心を奮い立たせる。

 悠には真剣に悠を叱ってくれる親兄弟もいない。
 両親は居るには居るが、今更彼らに二十歳過ぎた子供の躾けをさせるのは無理がある。
 それが出来ればとっくにしていただろうし、出来なかったから悠をその施設に預けたのだった。

 だけど雫は無謀だろうと悠に悪い事は悪いと叱る役をつとめようとしていた。

 だから彼らのその分まで自分が悪役になろうと、悠に真摯に向き合わねばならないと自負していたのだった。

 誰がなんと言おうと悠は雫の家族なのだった。

 それは雫の姉も認めてくれていた。

 その姉から昼間聞かされた例の事が頭の中でぐるぐると回っていた。

 悠も露の事は他の人間とは違い、一目置く存在にはなってくれているようだった。

 その姉は悠の事も雫と分け隔てなく弟として扱ってくれる唯一の存在だった。

 悪い事は悪いと悠をたしなめ叱ってくれるのはこの世広しと言えども、今のところは雫とその姉である露、その二人くらいのものなのだった。


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