追放された最高魔力の偽聖女が、真の聖女と呼ばれるまで

銀麦

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第二章 籠城する村への道

民兵団兵長

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 中心部が吹き抜けとなっている螺旋階段を上る途中、グレイは扉を開き、外に出た。エレノアもそれに続く。

 外に出ると陽光と共に、辺り一面に村の風景が広がっていた。東、西、南、北、どちらを向いても村の景色で、等距離、四〇〇メートルほど先には外縁部の城壁が見える。
 現在地はどうやら、村中心部にある監視塔だった。先程の螺旋階段は監視塔の最上階まで続いているのだろう。
 そして、監視塔に姿を現したグレイに対し、一人の男性が遠くから大声で叫びながら近づいてきた。

「グレイ! よく来てくれた!」
「レナード。大変な事になってるようだね。足りないものは?」
「食料の方は四カ月分はあるぜ。土の賢者仕込みの城塞だ。そう簡単には落ちねえよ。水も質の良さを問わなければ持つが……お前が来たなら是非頼みたい」
「思っていた通りだね。水魔法で新鮮な水に作り替えよう」

 どうやらノーラス村の籠城の準備は万端らしい。そして良質な水の確保については、グレイが活躍しそうだった。
 彼は先程の戦いで窺えた通り水魔法にも長けている。浄化ピュリファイと呼ばれる不純物を取り除き、液体を真水にするレベル2の水魔法が存在するのをエレノアは知っていた。

「ところで連れのお嬢ちゃんは……お前の外套マントを纏っているようだが。まさか救いの女神か?」
「ああ、その通り。女神様だよ。エレノアさんという。高名な光術師さんだ」

 レナードと呼ばれた男性をエレノアは観察した。
 彼は屈強な体格をした壮年の男性だった。背はグレイと同じくらいの長身だが、若干レナードの方が高い。赤茶色の髪を後ろに流し、焼けた肌と整った顎髭が渋い顔立ちを際立たせている。
 そして腕や眉間にある刀傷が、彼が戦闘を生業としている者である事を窺わせた。

「エレノアさん、彼はレナードという。ノーラス村の出身者だが、剣王国で一〇年以上傭兵歴があり、今はノーラス民兵団の兵長。彼が実質的なノーラスの指揮官に当たる人だ」
「レナードだ。ようこそノーラス村へ。歓迎するぜ、女神のお嬢ちゃん」

 レナードはエレノアに対し、握手を求めてきた。

(……二人は剣王国での顔見知りみたいね。しかも、それなりに信頼関係があるように見えるわ)

 この二人の様子だと、このノーラス村は想像以上に剣王国と交流があるのかもしれない。中立地帯とはいえ、全く大国と関わらず暮らしているはずはないのだ。
 聖王国からの往来の様子は全くなかった。荒れ放題の山道の有様を見れば一目瞭然である。だとすれば、剣王国と結びつきが強くなるのは当然かもしれない。

「よろしく、レナード。……エレノアと呼んでくれるかしら。一応旅の光術師で……ええ、村の外で困っていた処にグレイに会ったの」
「そいつは悪かった。正面から出迎えるには、かなり厳しい状況でな。……エレノアお嬢ちゃん、秘密通路の事だが」
「安心して。秘密通路の事はとうぜん誰にも言わないわ」

 エレノアはレナードに握手を返し、数秒のち手を離すと表情に疲労の色を見せた。
 今の状況が安全とは言い難いが、とりあえず身体を休ませる事の出来る場に辿り着き、張り詰めていた緊張が解けてしまったのかもしれない。

「……大丈夫か? 顔色が悪いぜ」
「大丈夫。……慣れない山歩きが少し堪えただけ。……はあ、貧弱過ぎて、この村の人達に笑われてしまうかもね」

 エレノアは強がりつつ、顔から滲み出る汗を拭った。
 やはり脳が無意識に安心を覚え、溜めていた疲れが一気に押し出ているようだった。

「……レナード。エレノアさんを村長宅で休ませてあげてくれ。良質の食事とベッドを。貴賓として丁重に扱って欲しい」
「わかった。……エレノアお嬢ちゃん、初対面の身で図々しい事は承知で言うが、この事態の打開に協力してくれないか? 働きに応じた褒賞は約束するぜ」

 レナードはエレノアの返事を待たず、村長の家に向かって走っていった。遠慮のない頼み事だったが、エレノアは即座に頷いて返した。

「もちろん。食事と寝床を提供してくれるなら、恩くらいは返さないといけないわ。……それに、この有様じゃ村から出るのも一苦労でしょうし」

 例の怪物が出没するかもしれない秘密通路だけは二度と通りたくなかった。ノーラス村を包囲する小鬼ゴブリンを追い払い、正面から気分よく村を後にしたいというのが偽りならざる心境である。

     ◇

 グレイの案内により、エレノアは他の民家より一際大きな屋敷に辿り着いた。
 玄関では村長らしき老人と、亜麻色の髪をした小柄な少女の出迎えを受けた。レナードが先に客の来訪を村長に伝えてくれていたらしい。

「……ようこそ、ノーラス村へ。ワシが村長のソーンです」

 ソーンは片手で樫の杖を突き、もう片手で長い白髭を撫でると、にこやかに笑っていた。優しそうな笑顔とはうらはらに、縦に入った額の深い傷痕が老顔に風格を醸し出していた。

「エレノアと言います。……ソーン村長。お世話になります」
「こちらこそ。お嬢さんは優れた光術師と聞きました。今はちょっとした戦争状態ですが、十分な持て成しをさせていただきますぞ」

 落ち着いた、いかにも好々爺といった感じの老人である。こういった村の危機も何十年の間に経験しているのかもしれない。
 この状況で余裕を見せているのは、大物なのか危機感がないのかわからなかったが、村に秩序が保たれている点は良い事である。

「エレノアさん、何か要望はありますかな。自分の屋敷のように、遠慮なく申しつけ下され」
「遠慮なく……それでは、温かいお風呂を所望します」

 エレノアは真っ先に欲しいと思っていたものを挙げた。
 四日半の間、一度も得ることが出来なかった、集落でしか得がたいものだった。


「ふむ。……リリア」
「すぐに準備します。エレノアさん、少々お待ちください」

 リリアはエレノアにお辞儀をすると、玄関から走り去っていった。
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