追放された最高魔力の偽聖女が、真の聖女と呼ばれるまで

銀麦

文字の大きさ
27 / 37
第三章 偽聖女の初陣

作戦立案

しおりを挟む
「……エレノアお嬢ちゃん。聖結界の事で無理はしなくていい。誰が悪いわけでもねえよ」

 レナードが意気込むエレノアに対し冷静になるように諭した。
 だが聖王都エリングラード周辺に展開される聖結界によって、ノーラス村に皺寄せが来ている事は紛れもない事実だった。

 もちろん聖王国にも事情がある。聖王国は『混沌』と呼ばれる不死生物に汚染された混沌の森と呼ばれる魔境と隣接し、それらに対する自己防衛をしているに過ぎない。結果的に聖結界と小鬼ゴブリンの行動に因果関係はあったとしても、その責任を問えるものではない。何より尊敬する大聖女アリア、そして歴代の聖女が命を削って護り抜いてきた聖結界を否定したくはなかった。
 このノーラス村の状況を打開したいというのは、あくまでエレノア個人の感情に基づいたものである。昨夜、村長宅で受けた至れり尽くせりの歓迎、そして反骨精神の強い人々が住む、この村を気に入り始めているかもしれない。

「わかってるわ。ただ、個人的な感情で村にお返しをしたいだけ。聖王国は無関係」
「……頑固だな。いい性格してるぜ。それじゃあ協力を頼むが無理をしない程度にな」

 レナードは頭を掻きながら苦笑いを浮かべると、太い両腕を組み考え事をしていた。エレノアにどういった協力を求めるか考えているようである。

「……光術師といえば回復魔法だ。正直、お嬢ちゃんは怪我人の治療をしてくれるだけでも大助かりだ」

 レナードは無難ともいえる提案をした。確かに回復魔法の大半は光魔法に属し、光術師が最も得意とする分野である。エレノアが救護に当たれば、それなりの手助けにはなるのは間違いない。
 それはレナードがエレノアを危険に晒したくないという、安全の配慮が含まれているように思えた。

「それだけでいいのかしら。回復魔法を使える光術師のおじいさんがいるとグレイに聞いたわ。後方支援はその方が居れば大丈夫じゃない?」
「……ああ、ロズウェルじいさんか。あの人は八〇近いんだ。持病も抱えてて無理をさせられん。その役割をエレノアお嬢ちゃんが受け持ってくれるだけでも大助かりって訳だ」

 昨晩グレイが一人居ると言っていた光術師は、齢八〇近い御老体だったようだ。
 歳をとると肉体労働と同じく、魔法労働も当然身体に堪える。これも潜在魔力量や日頃の鍛錬に関係するが、もし魔力量が人並みしかない場合、齢八〇を越えたら引退した方が賢明といえる歳である。

(……ノーラス村に留まり回復ね。まあ、それについては悪くないのかしら。リスクのある熾天翼セラフウィングを使うよりは堅実だけど)

 後方支援を任せようとしているのは、聖結界の事で意気込むエレノアを冷静にさせたいという意図も感じ、そのレナードの意は汲みたいとは思った。前線に出てきた結果、相手に気遣いさせてしまっては意味がない。
 ただ、普通に怪我人の救護に当たるだけでは、どう考えても状況の大きな改善は難しい。外堀を完全に埋め終えたら城壁を越えて小鬼ゴブリンが侵入してくる可能性が高く、そうなれば村の中での破壊行動を避けるのが、いよいよ難しくなってくる。

「レナード、私の意見を言っていいかしら? ……結局は外堀が埋まる前に打って出ないと、村に被害が出てしまう可能性が高いわね」
「……そうだな。ただ、打って出る方が当然難易度は高い。この村の堅牢な守りを捨てて野戦を挑むって事だ。待ち構えれば城壁を越えてきても被害は軽微で撃退出来る」

 その言い方からしてレナードは多少の犠牲を覚悟の上で、籠城の継続を選択しようとしているのかもしれない。

「私が描いている図は、村に一切の犠牲者を出さずに小鬼ゴブリン全軍の撃破および撤退をさせる事。誰一人、ノーラス村から死傷者を出したくないの。それには堀が埋められる前に、村から出て野戦を挑む必要があると思う」

 エレノアは頭の中に理想を描いてみた。小鬼ゴブリン繁殖の元凶とも言える小鬼王ゴブリンキングを仕留めつつ、小鬼ゴブリンの群れに民兵団の手によって徹底的に恐怖を植え付ける。
 もし、それさえ果たせれば小鬼ゴブリンは当分の間、ノーラス村に近づこうとさえしなくなるだろう。

「損害なしか。……言うは易しだ。そいつはなかなか高い要求だぜ。だが、エレノアお嬢ちゃんは光術師だ。俺とは違った魔法を活かした戦術が思いつくものかもしれん。……何か案があるのか」
「……一度、高い処から様子を見たいのだけど。中央の監視塔は上れるのかしら?」

     ◇

 エレノア、グレイ、レナードの三名は村の兵舎から、ノーラス村の中央に建てられた監視塔に移動した。塔の地下はエレノアとグレイが進入路として使った秘密通路であり、塔そのものは土の賢者ロックの遺産である。
 高さにして二〇メートル前後。村の半径四〇〇メートルの中心部に当たり、その最上階からは村を容易く一望できた。

(いい眺めね。……そして、ここは御誂おあつらえ向きだわ。行けなくもないかしら)

 村の中央部に塔が立てられているのは、エレノアにとって都合が良かった。
 小鬼王ゴブリンキングが居るのは、この塔から西側に五〇〇メートル程先。
 本陣のある西側に小鬼ゴブリンたちは集中し、東側は真反対側という事もあり、若干手薄になっていた。
 
「東側が手薄みたいだけど。もし、打って出るとしたらあっち側かしら」
「村から出る場合はそうなるな。だが東門周辺は当然敵も大勢で待ち構えている。落とせないことはないがそれなりの被害を覚悟しなきゃ無理だ。……後は秘密通路を使って山に布陣する手もあるが、これは最後の手段にしたいな」

 エレノアはレナードの説明を聞くと、目を閉じて状況を頭に思い浮かべ、シミュレートをした。

「……多分だけど、行けると思うわ。レナードが民兵団の指揮官でいいの?」
「ああ。そのつもりだが」
「それなら安心かしら。……これから私の案を言うわね。もしかしたら二人は出来るはずがないって思うかもしれないけど。……私はそれを実行出来る力があると断言しておくわ」

     ◇

「……という案はどう? これならレナードの言う通り、私は村に留まって回復に徹するで間違いないわ」

 エレノアが自らの考えた戦術の説明を終えると、グレイとレナードは無言で顔を見合わせた。
 それは、何を言っているのかとでも言いたげな困惑した表情にも見えた。

「確かに留まって回復を任せたいとは言ったが……本当に行けるのか?」
「多分ね。実戦で試すのは初めてだけど、私が積んできた修練の経験を踏まえれば可能な事。……出来るとしたら行けるのかしら」
「そりゃあな。少なくとも小鬼ゴブリンを一方的にぶちのめして追っ払うのは容易いぜ。……というか、本当に出来るなら明日にでも召集をかけて作戦を実行したい」 

 レナードはまだ信じられないのか、困惑した表情を崩さなかった。

「……エレノアさん。僕は君の事を、かなり低く見積もってしまっていた事になる」

 普段自信に満ち溢れているグレイの表情から余裕が消え、そして抑揚の効いた声も、若干弱気になっているようにも感じた。

「あら、グレイ。私を誘った事を後悔しているのかしら? 嬉しかったのに」
「……いや。何としても君が欲しくなった。だが、僕の誘いに君が乗ってくれるかどうかが不安になっている。……君の期待に応えられるかどうかもね」

 恥ずかしげもなくグレイはエレノアに告げた。彼にそう言われるのは嬉しくもあり、少し心臓が高鳴っているのがわかったが、同時にその思いに対し冷静な分析をしていた。
 つまりは聖王国で不要の存在となった反動。それで説明がつく。今は心が誰かに必要とされたがっている。彼に対する特別な感情じゃない。そう思いを押し止めるように努めた。

「グレイ。私は約束は守るわよ。……そして、光魔法だけは誰よりも自信があるの。……作戦はレナードが召集をかけられるならば魔法力マジックパワーが満ちそうな明日にでも。……今日は簡単なリハーサルだけしたいわね」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...