秘密の多い私達。

堂島うり子

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第1章

静かな日常

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「すみません乗ります」

 ドアが閉まるギリギリの所で何とか間に合って、というより無理に
止めて貰ってエレベーターに乗った。
 久しぶりに駆け足なんてしたから少々息が荒いけど何とか整える。

「何階?」

 と先に乗っていた男性に聞かれたので。

「1億と44階」
「……。それは中々の長旅だね」

 私の目的階を一発で当て押してからクスっと笑った。
上質なスーツにややくせっ毛の髪を綺麗にまとめ今日も完璧な人。
綺麗という言葉が似合う男性はテレビの世界以外では見たことが無かった。

 けど、それに見惚れたりするわけじゃなくて視線は敢えて向けない。
 
「倉庫から過去の販売実績情報が入ったファイルをもってこいって。
そんなの既にPC内にデータ化されてるのを使えばいいのに。
新人イビリがあるんですこの会社には」
「なるほど」

 あーあ。と深い溜息をして視線を出入り口から外へ向けた。
このエレベーターは外の景色が見えるから。
グングンと上がっていく都会のオフィス街。ピカピカした高いビルが並ぶ
景色は最初の数回は興奮したけれど今はもう飽きた。

 なんならちょっとだけ苦痛ですらある。

「挨拶は普通だったのに本当は上司や先輩たちに気に入られてないのかも」

 それとも何か気に障ることでもしただろうか。記憶に無いけど。
 無いだけで実は無礼な事をしているとか?

「若い子が来ると値踏みしたくなるのだから。その間は我慢かな。
君が使えるかどうか素直なのか反抗的なのか。
同じ空間で働くのだから面接では見せなかった面を見たがる」
「……私、使える人材か不安になってきました」
「いきなり大役はまわってこない。完璧は無理だと皆分かってる。
君は自分の出来る範囲で、ただし確実にやればいいだけ」

 背を向けたままでいたら体に触れるか触れないかギリギリまで
近づいてきていた彼がそっと言う。

 ほんのりと品の良い香水の香り。

 それでも私は振り返らない。視線はあくまで外。
 ただ手はフリーであることをアピールしつつぶらんとさせている。
 
「あん。吐息が頭にかかる」
「君の側に居るから」
「手くらい握ってくれてもいい……ですけど」
「ここは会社だから公私混同はしない。
君に拘りすぎて私のペースが乱れるのは避けないとね」
「私はだめですね。甘えてる」

 実はエレベーターに彼が一人なのが見えたからチャンスと思った。
だからそんなに急いでないのに慌てて止めて乗った。
 普通は遠慮するものなのに。

 子どもの頃から早く大人になりたい働きたいと願い続けて来た。
けど、社会人になって数ヶ月でもう愚痴り始めている私。

  大人って思ったより辛いものなんだと気づく。

「お先に」
「はい。……社長」

 それからすぐ相手が降りて私一人になった。

 社会人になったってすぐに完璧な大人にはなれないし、もしかしたら
子どものままで成長なんて出来ないかも。

 弱気になった時はそんな事まで考えて嫌になる。

 焦ってもしょうがないでしょって母親は何時もおおらかに笑ってた。
 私もそうでありたい。笑うのはまだちょっと難しいかもだけど。


 こんな文句を言いながらも家に帰ってしまうと不満も苛立ちもパッと消えて
いるからなお質が悪い。

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