秘密の多い私達。

堂島うり子

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第8章

大事だということ

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 頭が弾け飛ぶシーンは興味深いけど今度にして。

 九條さんは私に何か言いたい様子だったけど花を受け取ったら
すぐに部屋から追い出されてしまったので結局聞けずじまい。
 どうせ言い訳で大した話じゃないと社長は呆れた様子で言った。

「私ここに泊まるんですか」
「念の為に。未遂とはいえ怖い思いをした後だから」

 家に帰りたいのに今日はこのまま病院で過ごすらしい。会社の人たち
には貧血で倒れたということにしてもらったようだけど。事情を知られて
いないのなら理由は何でも良い。
 着替えはどうしたらいいのか戸惑っているとカバンを受け取る。

「新しい」
「頼んで買ってきて貰ったけどサイズは合っているはず」
「……大丈夫そうです」
「全て私の責任だ。君の言うようにきちんと自分の言葉で彼らと話し合う」
「創真さんだって何も悪いことはしてないのに」

 何時も周囲に人がいるのは華やかだけど良いことばかりじゃないと知った。

 魅力的な容姿や社会的な地位、或いは特別な力に引き寄せられるなら
それってまるで貴方自身は魅力がないって言われているみたいで。
 孤独な気持ちになるのも無理はないのかも。

「明日は昼から出勤でもいいからゆっくり休んで」
「あの。眠るまで居て欲しいです。すぐ寝るので」

 もうそろそろ面会時間は終了。1人になるけど多分こんな場所でも
私は目を閉じれば即眠れるけれど、彼の淋しげな顔を見たくない。
 そんなワガママで甘えてみる。

「君の眠りの速さは特殊能力だからね」
「はい」

 私の手を握り微笑んでくれた。…のはよかったけど。

「ん。何かなその視線は」
「この手の傷は」

 忘れる所だったけど彼の手には包帯。

「君は知らないだろうけど人を操るのは難しいんだ。
それで体に力が入りすぎて自分で傷つけてしまっただけ」
「痛くないですか」
「無いよ。寝相の悪い君に蹴られる方がよほど痛い」
「……、また一緒に眠りたい…な」
「そうだね」
「私と創真さんの家……ぁう……ん………」
「お休み」

  おでこに軽くキスをして病室を出る。早足で病院を出て駐車場に
とめてあった車に乗りこんだ所でスマホを確認。
 会社からのメッセージと、警察からと、あともう1つ気になる名前。

「本当にごめんなさい。あの子たち最近は大人しくしてたから私それで」
「座ってください」

 どこでも良いと言われたので前に利用したホテルのバーに呼んだ。
彼女はまず来るなり深く頭を下げて謝罪をして、それから隣に座る。
 
「アメリカに行って新しい人生をスタートさせたかったのに。
あの子たちは過去を引きずったままで。私何処を間違ってます?」
「貴方でなく私が間違った助け方をしたせいだ」
「最善だと思ったのにこんな結末。上手く行かないものですね」
「申し訳ないと思ってます」
「もし私の事だったら気にしないでください。男女の問題に他人の
ワガママが効かないことくらい分かるから」

 視線を外に向ける彼女をちらっと見てすぐ視線をグラスに向ける。
 相手は水でこちらも帰りがあるのでノンアルコール。

「貴方は大事な人です。私に何かあると感じても深くを覗き込んだりしない。
怖がったりもしない。だから一緒に居て楽しいと思える数少ない人。
それは出会った頃も義理の姉だった頃も、今も変わってませんから」
「もしも大学の頃にきちんと向き合えていたら可能性はあったと思う?」
「無理でしょうね、上辺だけの関係を”大事にする”とは言わないくらいは
私でも分かります」

 即答と言ってもいいくらいすぐに出た返事。

「なるほど。そうだ、あの子は大丈夫?きちんとお詫びをしたくて」
「帰る前に食事でもしましょう」
「そうですね。創真さんの大事な人を紹介してあげてください。
私はきちんと受け入れるから。あの子達も分かってくれるはずだし、
貴方に見捨てられたらあの子たちは完全に行き場を失うから」
「……」

 子どもたちが心配だからと先に帰っていく。続いて自分も。
帰っても誰も居ない部屋は静かすぎるが今日だけと思えばいい。
 結局は酒に頼る事になりそうだけど。



「新人だからって雑用でアッチコッチ動かしたのがパワハラだって事で
今度は延々とPCの前で難しい言葉の羅列を聞かされて。朝からずぅっと
キーボード叩いて昼からもっていうんです」

 ぐっすり寝たので朝は爽快に起きて病院から会社へはタクシーで悠々と。
いい気分で席についたら気遣ってくれる先輩が居たりしてちょっと
 感動までは良かったが後からずっと地獄のような時間を過ごし。

「会社内では気をつけて行動してくれないと困る」
「辛くて」

 昼休みにメールでSOSを出して社長の居るフロアまで上がっていき、
ちょうど会議が終わったのか部屋から出てきた所に出くわし。
当然他に人は居たけれど構わず私は愚痴りながらどんどん近づいて。

 慌てた彼に手を引かれ上手く自販機の影に隠れたので多分大丈夫。
 
「一般事務で入ってきておいて今更PC作業が嫌だなんて……、そもそも
社会人としてそんな初歩的な話で愚痴られても困るんだよ」
「だって」

 昼からはもっと作業が増える予定。
 落ち込む私に対して社長は冷静に体を離し距離を取る。

「もう努力は終わりなのか?残念だよ。不器用なりに頑張っている
君の姿を見て私も努力すると誓ったのに」
「あ。……、昼からもちゃんとやります。努力します」
「そう。で、昼の予定は?」
「何も。病院から来たのでお弁当もないですし」
「外へ出て食べようか。何が良い?」
「じゃあ」
「社長。ここにいらしたんですか」

 突然声をかけられてビクっとしたけどこの距離なら大丈夫。
 振り返ると秘書さん。

「ああ、申し訳ない。ちょっと喉が乾いたもので」
「こちらで用意しますので。貴方は誰?何処の部署?」
「今はもう昼休みだしここは新人君にも開放してる場所だよ」
「そうですけど」

 私を見る目がまるで不審者を見るソレで、確かに不審なんだけど。
 早々にその場から立ち去る。
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