秘密の多い私達。

堂島うり子

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第9章

あなた

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  席を立とうと咄嗟に腰が浮いたけどすぐに座り直す。

 心配だからって仕事をぞんざいにしたらそれこそ怒られるから。
 今は冷静になって。2人になれる部屋で話そう。

 ペチンと頬を叩いて気合を入れ直しお昼休みを終え、先輩に指導されながら
仕事の次ステージへと進む。難しい言葉の羅列を睨む作業は苦手だったけれど
 落ち着いて基礎を覚えてしまえば苦手意識も薄まっていく。

 それでも適度にメールをチェックしては何も無くてため息。



「不動産屋に寄っていくから少し遅くなる、か」

 夕方、やっとメールが来たと思ったらあっさりした連絡だけ。
 わかりましたと返事をして帰宅の準備。

 名前を思いだせない彼は目立つ容姿だから人脈の広い先輩に聞けばすぐに
名前も部署も人となりも分かるんだろうけど。詳しく聞いてしまったら
 それこそ抜け出せない気がして。結局聞いてない。

「居ないよね。……ふう」

 分からない事で彼を意識するようになるのも駆け引きなのかな。

「俺のこと?」
「うわ!びっくりした。慧人君バイト終わり?」

 会社を出て安堵した所で声をかけてくるから飛び上がって驚く。
 そこに居たのはスーツじゃない、私服の青年。

「そうだよ。俺のバイク乗ってく?家は知ってるから」
「ほんと?……あ。それよりもお願いがあるんだけど」
「悠人に見てもらいたいとか?」
「えへへ」
「あいつ予約いっぱいなんだけど。
俺が言えば予約なしでもすぐ出来る。10分1万」
「ソコをなんとか」
「大人がケチな事言わないよな」
「……ですよね」

 響子さんの庇護があるんだろうけどそれでも彼らも稼ぐ必要がある訳で。
ワガママは通らない。悠人君が仕事をしている占いの館まで連れて行ってもらう。
 そう遠くない商業ビルの最上階の隅っこ。

 他の占い師さんも居るようだけど悠人君の場所は女性やカップル客が
驚くほど行列してる。彼はまだお仕事前だっていうのに。

 申し訳ないと思いながらもすんなり通して貰って中へ。

「いらっしゃい。君の部屋からみて東南の方向。
明日の昼の15時くらいに行けば結構良い金額が当たるよ」
「聞いてないのに凄い」
「おい悠人。ちゃんと10分くらい伸ばしてやらないと」
「この人は叔父さんが厳重にブロックしてるから。下手に触ると怒られる」
「そうだな。凄い痛かったもんな……」
「容赦なかった」
「え。あ。あの、ごめんね」

 体を操作されて記憶のない時のことだと思うけど、何故か謝ってしまう。

「今日何か悪いことが起こらなかった?火事とか強盗とか殺人」
「ううん。そんな物騒なことは何も」
「君らの会社の方角から凄く悪い気配がしたんだけど。叔父さんが居たら
そんなの解決しちゃうか」
「俺は何も感じなかった。あの叔父さんだから関係ないって」
「そうだね」
「はい、1万円どうぞ。でもまだ5分くらいあるでしょ?
ぱぱっとでいいから私の全体運とか占ってください」
「だから。君に干渉すると叔父さんにすぐバレて怒られるんだよ。
気づかない所で色々試してたけど全部バレて注意されたし」
「そ、そうだったんだ」

 水面下で何度となくあの人に助けられてたんだな、私。
 自分の目で見れない世界に気づくわけないけど。

「そろそろ時間だから仕事しないと。ママとの約束で部屋代以外は
自分で稼ぐ事が日本に残れる条件なんだ」
「そこまでして居たいのはやっぱり叔父さんの為?」
「自分たちを納得させるためにもちゃんと見極めたいんだ。
叔父さんが選んだ道を。僕らが追いかけちゃいけない理由を」
「できれば今でもママと結婚して親父になってほしいけどね」
「慧人。送ってあげたら」
「そうする。ほら、行こう。時間が無い」
「あ。うん。ありがとう」

 あっという間の10分。でもとても有意義だった。バイクで送って
もらって無事帰宅。1人で不安なまま居なきゃいけないのが嫌で時間を
 潰したくて咄嗟に占いに行ったけど。

 まだ帰ってないだろうな。

「お帰り」
「創真さん」

 玄関を開けると靴があって。まさかと思いながらリビングに向かうとソファに
座って本を読んでいる彼が居た。

「少し遅かったようだけど。寄り道?」
「創真さんこそ。不動産屋さんに行ったんじゃ」
「思ったより時間がかからなかった」

 その場にカバンを置いて着替えてないまま彼の隣に座るなり抱きつく。

「また手を怪我してますね」

 本を持ってないほうの手に包帯。

「恥ずかしいよ。感情のコントロールを母から学んだはずなのに。
嫉妬に駆られて自分を傷つけることでしか収められなかったなんて」
「私が創真さんを傷つけたんですね」
「違う。自分の意思だ。こうするよりもっと楽な方法はあった。
でも、それはどうしても嫌だったから」
「……」
「そんな悲しい顔をしないで。この先君がどれだけの人と出会うかは未知数だ。
その度にこんな傷を作るとでも思う?まさか。今回だけだよ」
「創真さん」
「所で手がこの有様なので風呂が困難なんだけれどね」
「お手伝いします。濡れていい服を選ばないと」
「……、いいよ1人ではいる」
「なんでそんな怒ってます?」

 昼間はどうなるか不安な口調だったけど今こうして話すといつも通り。
冷静に自分を判断してやっぱり大人なんだなと思った。
 ただどうしてか拗ねたような顔で私から視線を反らし本を読み始める。

 仕方がないので私は一旦部屋に戻り着替えて夕飯の準備。
 買い物をしてこなかったけれど何かしらのストックはあるから。

「新しい部屋への移動は来月の頭にはしようと思う。
詳しい日取りは業者に確認がいるけど。君の部屋は片付いてる?」
「もちろんまだ全然」

 むしろ若干散らかったような気もする。掻き回したような部屋を思い出して
ゾッとしながらテーブルにつくと反対側に彼が座った。

「強制的に処分する事態にはならないようにね」
「はい」
「あと。……協力をすることにしたよ」
「え?それってまさか九條さん?」
「時間の猶予のない難しい問題に関してのみ、受ける」
「突然どうしたんです?」

 あれだけ拒否をして令状もってこいとまで言ったのに。どうして?

「怪物だと言いながら自制出来ると思い上がっていた自分への戒めと」
「……」
「これからも咲子の側に居る為に」
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