椿異聞

堂島うり子

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★★

続 八

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 離れまではずっと無言だった。私の手を握る力は少し強いけれど強制ではない。

 広い敷地内。防犯の為なのか周囲はどこも満遍なく明かりが灯っていても利用者が居ない離れの
中は流石に真っ暗。それでも智早には見知った場所だからか外からの薄い明かりのみで電気を
つけることはなく奥へと進む。

「……あいたっ」
「大丈夫?」

 前を歩いていた智早が立ち止まったようで何も分からない私は彼の背中に顔面を打つ。

「大丈夫?」

 それで振り返るなり私を抱きしめた。

「はい。あの、さっきは私のために怒ってくれてありがとうございます」
「この家は広いけど窮屈だ。幼い頃からずっと思ってた」
「……」
「美鶴と結婚したいと言った時もお祖母様たちは難色を示された。ご希望の家柄ではなくても、
僕は人を見て伴侶を決めたい。その方が生まれてくる子どもを素直に愛せる」
「そこまで考えてらっしゃるんですね」
「ただの理想だけどね。守りたくてもずっといっしょに居られる訳じゃないから。二人で居る時間を
大事にしたところでそれ以外の全てで邪魔をしているのでは美鶴も辛かったはずなのに……。
こんな僕より違う相手と結ばれたいと思っても仕方がないのかもしれない」
「なら智早様から身を引けば良い。姉は……身勝手です」

 死なずにあの人と手を取り合って消えてくれたら。世界の何処かで姉と彼が幸せに暮らしている。
死んでくれたほうが良かったなんて思いたくもないけれど、正気でいる自信もない。

「そう、かもね。生きていてほしかった。その分彼女への未練を残すかもしれないけど。
死んでしまえば終わりだ。これで律佳ちゃんまで居なくなったら僕も人生を考えるよ」
「智早様が姉の話をしたり弱気になるなんて珍しい」
「君が実家に戻っている時、家の側で待っていたんだ。もし夜になっても出てこなかったら迎えに
行こうって。一人車の中で様子をうかがっていたら昔のことを思い出してた。
デートの日は美鶴を迎えに行ったなとか。彼女を抱きしめたりキスをしたとか、色々とね」
「……」

 智早と姉は結婚間近のごく普通の男女。色々あるにきまっているしその一部だけど当たり前に
見てきたものなのに改めて聞かされるとモヤモヤとした感情が生まれるのはなんでだろう。

「でも今は君が心配でたまらない」
「私は生きていますから」
「これからも生きてほしい」

 少し目が慣れてきた所でうっすらと智早の気配を感じて目を閉じる。これくらいではもう狼狽えない。
嫌な女だ。と思いながらも結局拒むことはしなかった。

「ご希望に添えるかはわかりません。私は貴方の思うような女ではないかもしれない。
それでも、……生きてみます」
「それは僕も同じ。共に居てほしい」
「居るだけでいいんですか」

 この暗さではどうせしっかりは見えないだろうという気持ちもあって今回はしっかりと智早
を見つめて言った。よく見えないけれどなんとなく彼は笑った気がする。

 軽く唇を合わせたまま丁寧に智早に脱がされて衣服が床に落ちる音だけがする暗い部屋。

横になるのに適当な場所を探さず立った状態なのはお互いにそれを我慢できなかったからだろうか。
 普段と違う掠れたセクシーな声で脱がせてほしいと言われて慣れていないなりに私の手が動く。

「ここは暗くて僕もはっきり見えない訳だから」
「お断りします」
「まだ何も言っ」
「貴方は気が狂っている変態スケベです」
「色んな表現をされるけど狂人扱いはそこまで嫌いじゃない」
「事実ですから」

 見た目の良さと高貴な所作のお陰で完璧な王子さまとか理想の御曹司などと褒め言葉が多い。
そうでなくても彼を悪く言う人間は居ないし私も悪人とは思わない。

 だからといって全てに賛同出来るわけでもない。特にこういう秘め事をする時は。
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