椿異聞

堂島うり子

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★★★

続 十一

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「久我先生……?」

 スマホで調べて近場のカフェへ向かって歩いていくと見覚えある後ろ姿。

「誰だったか……、あぁ。確か一条家の」
「はい。一条家にお世話になってます柊律佳と申します」
「嫌味で言ったんだ。真に受けるな阿呆」

 小走りで近づいて声をかけたらやはり久我先生だ。

「この辺でお仕事ですか?」
「そこの女子短大でたまに着付けを教えてる」
「奇遇ですね。私もその短大に今日から復学して学生になりました」
「学生さんが何故ここにいる」
「食堂は人が多すぎて」

 人目を引く気がして。結局逃げてきた訳だけど。

「小遣いも飯もない状態からは大分待遇が良くなったみたいだな」
「智早様が変わらず大事にしてくださるので。先生もお食事だったらご一緒にどうでしょうか」
「飼い主に叱られても知らんからな」

 行く予定だったカフェはやめて先生が入ろうとしていた蕎麦屋に向かう。先生が店のカウンター席に
座ろうとしたら店員さんに奥の部屋を案内された。
 多分、今回はもうひとり居たからだろうけど。先生はやや面倒そうな顔をしていた。

 和室に案内されてメニューをパラッと見て注文。

「どうかしました?」
「お前、六人前も食うのか……?」
「はい。どれも美味しそうで選べなくて。あ、でもちゃんと時間を考えて減らしました」

 先生は目を丸くして。それから閉口して、無言でスマホへと視線を移動させた。
良くわからないけれどどうやらこの会話は終了?らしい。

「……ちっ……クソババア」
「先生?」

 先生はずっとスマホ画面を見ていたけれど途中から機嫌が悪くなり何かに怒っている。

「鬱陶しい」
「先生もお祖母様とうまく行ってないんですか」
「婆さんは知らん。ババアは……ババアだ」
「あ……お母様ですか」

 母親、と言いたくないくらいの険悪な関係なのかな。と思いを巡らせた所でハッと思い出した。
先生は家を継ぐために自分の兄と弟を殺したという噂がある。そんな噂がたつような人物なら母親と
仲が悪かったとしても不思議ではないかも。

 私は母親との思い出なんてほとんど無い。喧嘩したりもしなかった。

「近い内に工房を引っ越すことになる。片付けやらで忙しくなるから作品が見たいなら今のうちだ」
「遠くへ引っ越すんですか」
「街中だ。それも久我家に近い場所……」
「久我家…?」
「お待たせしましたー!すみません戸を開けて頂いても」
「はい!お蕎麦!」

 先生が通うだけあって蕎麦は美味しくて。やはりもう少し頼むべきだったと反省しつつ。
でも場所は分かったしタイミングが合えば先生にも会えるのだから今後も来る事になるだろう。
 食べている間は終始驚いたような顔で見つめてくる先生とは店の前で別れた。

 お昼からは気を引き締めてしっかりと講義を受けて……いたかったけれど今日はまだ無理そう。
うつらうつらしながら学校を出ると既に一条家の出迎えの車が来ていて乗り込む。
 帰ったら智早に話をする約束だけど。先生と会ったことは黙っていよう。

 後ろ暗い事はないけれど。知られたくもない。壊されたくない。



 どう話をしようか考えている間にお屋敷に到着。玄関まで来た所で家政婦さんがやってきて
大奥様に呼ばれていると言われた。
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