許嫁ではない!

雪那 六花

文字の大きさ
1 / 2

1.




「はるちゃんは可愛いわねー。お姫様みたいよ」

「えへへ、ありがとう! おとなりのまーくんと遊んでくるね!」

「はいはい、いってらっしゃい。暗くなるまでに帰るのよ?」

「はーい!」

 当時の俺は母親が言う、可愛いだの、似合ってるだのと言う言葉を鵜呑みにして、よく母親好みのフリフリワンピースを着せられて過ごしていた。父親の方も母親が俺を着飾るのを、たまにの事だし似合ってるからいいかーーと静観していたし、そもそも、俺はそれが変な事だなんて思ってなかった。
 それなら周りが指摘してくれればいいのに――と思ったが、俺は母親似で、小柄だったのもあって、周りからは女の子だと思われていたらしい。確かに、昔の写真を見たら勘違いしても仕方ないくらい線が細かった。
 だから、周りは何も言わなかったし、その所為で、ワンピースが女の子の服だなんて思ってなかった。
 名前がはるかなのもよくなかった。女でも男でも通ってしまうから。
 お陰で、黒歴史を量産してしまった。

「おおきくなったら、ぼくのおよめさんになってね! はるちゃん。そうしたら、ずっといっしょにいれるんだよ」

「そうなの!? じゃあ、はる、まーくんのおよめさんになる!」

「やくそくだよ!」

「うん! やくそく!」

 こんなやりとりなんて特に消したい過去過ぎる。別にまーくんが嫌な奴だったとか、そんなんじゃなくて、ただ、この流れだとどう考えても、まーくんが俺を女の子だって勘違いしてるだろうな――って事が嫌なだけだ。
 実際、まーくんとの思い出はいい思い出の方が多いし、本当、いつも一緒で、俺は友達としてまーくんが大好きだったんだ。そんなまーくんとずっと居れるなら――とお嫁さん宣言をした。お嫁さんがどう言うものかと言うのも知らずに。
 後から思えば、まーくんは自分がもうすぐ引っ越ししなきゃいけない事を知ってて、俺と一緒にいたいと思ってくれた結果なんだろうな。
 当然、そんな子供同士の約束で、引っ越しの運命が変わる訳もなく、それ以来、まーくんとは会っていない。
 まーくんが居なくなった後は俺は凄く泣いた。それはもう盛大に。
 寂しがって塞ぎ込んだ俺を見かねて、父さんと母さんは俺を保育園に入れてくれた。本当はもう少し待って、次の年の四月から幼稚園に入れるつもりだったらしいんだけど、早く新しい友達を作った方が寂しさも紛れるだろうって。
 そして、その頃から、俺は、母さんに女物の服を着せられる事はなくなった。流石に、保育園に着せて行くには向かない服装だと自重してくれたんだろう。そう言う意味では、まーくんとの別れはいい変化をもたらしてくれたんだよな。



「もう! 聞いてるの!? はるちゃんってば」

「聞いてる聞いてる」

 何度言っても直してくれないちゃん付けの呼び方をスルーして、おざなりに答えた。元はと言えば母さんの一言から、こんな昔の事を思い出したんだから。後半は危ういけど、要件としては、認識してる。
 そんな母さんの一言とは、お隣さんが戻ってきたのよ! って話だった。

「結婚の約束までしたまーくんよ!? はるちゃん嬉しくないの!?」

「……母さん、何度も言うけど、俺が男だって事分かってるか?」

「勿論、分かってるに決まってるじゃない」

 なら、何をどうしたら結婚なんて言葉が出てくるんだ……

「でも、はるちゃんはウエディングドレス着ても似合うと思うわよ?」

「いや、それ嬉しくないから」

 こう言うやり取りをする度に思うけど、こんな母親を持って、グレなかった俺を褒めて欲しい。そりゃ、ちょっとばかり髪は染めてるし、ピアスも開けてるけど、これはお洒落の範囲だ。

「似合えば性別なんて気にしなくていいのに」

「 気にするに決まってるから。さて、そろそろ行かないと遅刻するから、話は帰ってきてからにしてくれ」

「あら? もうそんな時間? 行ってらっしゃい。気をつけてね」

「はいはい。行ってくる」



「おはよー! はる!」

「はよ。朝からテンション高いな」

「だって、転校生が来るんだもん! これにテンション上がらずにいられましょうか!」

「お、おおう……」

 そう言うと、ルンルンと鼻歌でも歌いそうな勢いで教室を出て行った。何でこう俺の周りにはテンションの高い女ばっかりなんだ。うちの母親含め……

「なあ、智也。何で渚は転校生が来るってだけでこんなにテンション上がってんの?」

 俺の後ろの席ででさっきのハイテンション女――もとい、斎藤 渚さいとう なぎさの彼氏である名波 智也ななみ ともやに声を掛けた。

「転校生はイケメンに決まってるんだそーで、目の保養を心待ちにしてるんだ」

「なんだそれ。で? 彼氏としてはその彼女の発言に何て答えた訳?」

「別に何も」
 
「いいのか?」

 それは浮気発言という奴なのでは?

「何で? 目の保養だろ? それくらい好きにしたらいーじゃん。俺だってアイドル見て可愛いーって思う事くらいあるし」

「そういうもんか?」

「そーいうもんだ。そもそも、転校生は女かもしれないし、男でも不細工かもしれないだろ」

「え? 男だって情報を掴んで騒いでんじゃないのか?」

 てっきりそうだと思ってたんだが。後は顔の出来次第。って感じで。

「違う違う。大体さ、渚のあれに毎回嫉妬してたら、俺、遥の友達やってられねーじゃん。遥も渚の目の保養要員の一人なのに」

「は?」

 何か今、聞いちゃいけない発言があった気がする。

「だーかーらー、遥がイケメンだって話!」

「……これ、素直に喜んでいいのか?」

「いーじゃん。正真正銘、容姿褒めてんだから。渚のお眼鏡に叶うの結構難しいんだぞ」

 それでも目の保養要員って何も嬉しくない。

「もう、何でもいいや……渚と仲良くな」

「めっちゃ仲良いからご心配なく」

「ああ、うん、知ってる」



「ほら、席に着けー」

 チャイムの後すぐに入ってきた担任の声に、まだ席に着いていなかった奴が慌てて座る。

「今日は転校生を紹介する。葛原くずはら入れ」

「今日からこのクラスに編入する事になりました、葛原 拓磨たくまです」

 担任に促されて入って来たその人物はそう自己紹介をした。背は高いし、顔はイケメンだった。渚の予知能力すげー……

感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

計画的ルームシェアの罠

高木凛
BL
両親の転居をきっかけに、幼馴染の一ノ瀬涼の家に居候することになった湊。 「学生のうちは勉強に専念しろ」なんて正論を吐く涼に反発しながらも、湊は心に決めていた。 しかし湊は知らない。一ノ瀬涼の罠に。 【初回3話は毎日更新! 以降は火・木19時更新予定】

愛を感じないのに絶対に別れたくないイケメン俳優VS釣り合わないので絶対に別れたい平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
 平凡顔・ヒモ・家事能力無しの黒は、恋人であるイケメン俳優の九条迅と別れたがっている。それは周りから釣り合ってないと言われたり、お前の事を愛してない人間なんて止めておけと忠告されたからだ。だが何度黒が別れようとしても、迅は首を縦に振らない。  迅の弟である疾風は、兄は黒の事を特別扱いしてると言うが――。黒は果たして迅と別れることが出来るのか!?

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。