恋愛短編集〜青春編〜

暦海

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恩人

置き土産

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「――いやーあい変わらずモテますなあ先生。よっ、色男っ」
「……うん、よもや令和いまになって、そんな古典的な揶揄からかい方をされるとは思ってもみなかったよ」


 それから、二週間ほど経て。
 そう、メガホンのように丸くした手を口に添えそんな言葉を放つ更科さらしなさん。……いや、まあ古典的かどうかは知らないけども。

 ともあれ、何のお話かというと……本日の放課後――具体的には、つい先ほど……僕の受け持つ三年五組の女子生徒から、告白を受けた件で。


「まあ、そもそも好かれないはずないもんね。容姿は秀麗、性格は寛厚――そして、何より生徒のために一生懸命。そりゃ、特に生徒からはモテてモテてしょうがないよね」
「……いや、僕はそんな大した男じゃ――」
「なのに、いざ付き合うと……ほんと、一番ショックなパターンだよねぇ」
「いや放っといてよ!!」

 そう、何とも愉しそうな笑顔で告げる更科さん。……いや、まあ僕がダメダメなのは重々承知だけども。

 ところで……当然といえば当然だけど、その生徒からの告白は申し訳なくも丁重にお断りした。続く続かない以前に、僕らは生徒と教師――立場上、そもそも選択肢などないわけで。……ただ、明日から顔を合わせるのが何とも――


「……ねえ、センセ。突然なんだけど――」

「…………え?」




「――あ、来てくれたんだ先生」
「……そりゃ、来るよ……と言うより、他のみんなはまだ来てないの?」


 それから、およそ一週間後。
 漆喰の壁に包まれた、真っ白な三階建ての一軒家の前で、晴れやかな笑顔でそう口にする更科さん。そして、僕らの少し離れたところに――きっと、誰もが一度は耳にしたことのある名称が記された大きなトラックが。


『……ねえ、センセ。突然だけど――実は、転校することになったんだ』
『…………え?』

 先週、放課後の教室にて。
 言葉の通り、本当に突然告げられた衝撃の言葉。あまりに突然過ぎて、何も言えず……そして、今もまだ冗談じゃないかと思って……いや、思いたいくらいで。


 それでも、残念ながら現実……ご両親からも、直々にお話を頂いちゃったわけだし。……まあ、いくら更科さんでも流石にこんな――

「……ああ、今日は誰も来ないよ。だって……他の人達には、引っ越すのは明日だって伝えたから」
「…………へっ?」

 まあ、申し訳ないとは思ったけど――最後にそんな言葉を加え、悪戯っぽく微笑む更科さん。……えっと、なんで? そんな冗談こと言っちゃったら、みんなに見送りに来てもらえな――

「――はい、センセ」

 そんな困惑の最中さなか、ふと僕の方へ手を出す更科さん。その華奢な手には、少し大きめの白い封筒。なんだろう――そんな疑問を浮かべつつ、封筒それを受け取り中身なかを確認。すると――

「…………これは」

 そう、ポツリと声を洩らす。そんな僕の視界には、職業柄もう幾度も目にしている用紙――模擬試験の成績表が。


 模擬試験は学校でも実施されていて、その際、成績表はまとめて学校へと送られてくる。だけど、当然ながら回数は限られていて、それ以上に受けたい生徒は個人で各予備校の模試を申し込んで受験している。そして、どうやら今回はそのパターンで。

 ……でも、どうして? 彼女のことは一年生の時から見てきたけど、恐らくは一度も個人で受けに行ったことはな――
 ……いや、考え過ぎか。だって、今はもう三年生の九月――流石に、そろそろ機会を増やしておこうと考えるのは何ら自然なこと。そんなことより、大事なのはその結――

「……っ!?」

 刹那、言葉が止まる。それから、ゆっくり顔を上げると――やはり、悪戯っぽく微笑む更科さんの姿。そして――


「――バイバイ、センセ。また会おうね」


 そう、柔らかな微笑で軽やかに去っていく。彼女を待つ、ご両親の車へと。そんな彼女を見送る最中さなか、両手が小刻みに震えるのを自覚した。全国一位――そう記載された成績表を辛うじて掴む、弱々しい両の手が。


 

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