カノン

暦海

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話したいこと

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「……そう、なんだ」
「……うん、聞いてくれてありがとね。こんなつまんない話」
「……つまんない、なんて……どうか、言わないで。エルナ。こちらこそ、勇気を出して聞かせてくれてありがとう」
「……別に、ハイノが感謝することじゃ……」


 それから、しばらくして。
 話を聞き終えた後、ややあってポツリと声をもらすぼく。すると、自嘲じちょうするように感謝を告げるエルナ。だけど……どうか、そんなこと言わないでほしい。エルナ自身にとってとても大切な問題をつまんないなんて、そんな悲しいことを言わないでほしい。


「……それで、話を纏めると……他の子に、共感できないって言うのかな。他の子が良いって思うことを良いって思えないし、悪いと思うことを悪いとも思えない。それで、いじめられてたってわけじゃないんだけど……でも、昔はみんなに嫌われてて。

 だから、頑張って合わせようとしたの。みんなが良いと思うことを一生懸命調べたりして話を合わせたり、みんなが悪いと思うことはなるべくわたしも興味がないようなふりしたり。……まあ、一緒になって悪いって言えたら良かったんだろうけど……でも、そこまではしたくなくて」
「……エルナ」

 すると、少し顔を伏せそう話すエルナ。こんなことを思うのは不謹慎かもしれないし、申し訳ないとも思うけれど……それは、何ともエルナらしい。いつもみんなのことを気遣っている、思いやりに溢れた優しいエルナらしい。……そして、だとすると――


「……ねえ、エルナ。ひょっとして、なんだけど……あの時、自分で川に飛び込んだの?」


 そう、ためらいつつ尋ねてみる。……うん、分かってる。これが、容易く聞いて良いような質問ことじゃないことは。偶然、足を滑らせてしまっただけという可能性ももちろんあるし、ぼく自身そうだと思いたい。自分で飛び込んだなんて……そんなこと、本当は思いたくない。

 ……それでも、聞きたかった。聞かなきゃいけないと思った。……だって、信じたくはないけどきっと――

「……やっぱり、分かってたんだ」

 そう、ほのかに微笑み答えるエルナ。そして、そのままゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……うん、そうだよ。なんて言えば良いのか、自分でも分からないんだけど……うん、なんかもう、しんどくなっちゃって。……あっ、でも自殺しようと思ったわけじゃないよ? ただ、ついふらっと飛び込んじゃっただけで」
「…………」
「……でも、いざとなったら……うん、すっごく怖かった。自分で飛び込だくせに、このまま死んじゃうんじゃないかって……すっごく、怖かった。……だから、すっごく安心したし嬉しかった。ハイノが助けてくれて、ほんとに嬉しかったの」
「……エルナ」

 そう言って、ぎゅっとぼくの手を掴むエルナ。その綺麗な瞳には、今にもこぼれ落ちそうな雫がはっきりと浮かんでいて。そんな彼女の笑顔に、じわりと胸が熱くなり思わずぎゅっと抱きしめる。……あっ、しまっ――

「その、ごめ――」
「……ううん、大丈夫。だから……このままがいい」
「……エルナ」

 謝罪と共にあわてて離れようとするも、言葉と行動がほぼ同時に止まる。と言うのも……ぼくの謝罪に被せる言葉と共に、エルナがぎゅっと抱きしめ返してくれたから。まだ病み上がり……という表現はおかしいかもしれないけど、彼女は倒れてから目を覚ましてまだ間もない身――ぎゅっと抱きしめたりしたら苦しいはずだと思いあわてて離れようとしたけれど……どうやら、この様子だとその心配はなかったようで……うん、良かった。

 その後、ぼくの方は一応のため少し力をゆるめつつもそのまま抱きしめ合う。そして、少し経過した後、そっとささやくような優しい声が鼓膜こまくを揺らす。


「……ねえ、ハイノ。もう一つ、聞いてほしいことがあるの」





 
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