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戸惑い
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「――あっ、そろそろカフェオレが切れそうですね。今は比較的手が空いているので、倉庫から二箱ほど持ってきます」
「あっ、了解です! あっ、香椎さん……その、いつもありがとうございます」
「……へっ? あっ、いえ……」
それから、およそ一週間経て。
勤務中、カウンターにて――冷蔵庫にカフェオレが残り僅かしかないことに気付いたので、一緒に接客を担当している女性スタッフへそう伝える。彼女は早良有希さん――僕の一つ歳下の大学生で、いつも明るいムードメーカー的存在の女の子だ。……ただ、それはそれとして……いや、気のせいかな?
「――ああ、それは気のせいではないですね。ここ一ヶ月くらいで冬樹先輩を見る周囲の目がすっかり変わっていることは、傍目から見ても明らかですし」
「……そう、なのですか……?」
翌日、昼下がりの自室にて。
もはや恒例となりつつある二人での食事の最中、僕の話にそう返答をする藤島さん。僕から話を振るとは、何とも珍しいことだけれど……その、どうしても聞いておきたいことがあって。
さて、その内容とはおよそ一ヶ月前――とりわけ二週間前くらいから、職場での僕に対するスタッフ達の対応が明らかに変化していること。えっと、一つ例を挙げるなら……僕に対する、先日の早良さんの対応だったり。
と言うのも――彼女とはもう一年以上この職場で一緒になるけれど……その間、何の誇張もなく感謝を告げられたことなど一度もなかった。まあ、僕であるからしてそれは当然なのだけど……なのだけども、それが二週間くらい前に初めて感謝を告げられ、そして先日も――
……あっ、ちなみに早良さんは以前、四日連続で僕とシフトが被っていたことに不服を述べていた人で……うん、要らないよねこの説明。
ともあれ、そんな僕の疑問……と言うか戸惑いに答えてくれたのが、先ほどの彼女の説明なわけで。
「――以前にも言いましたが、冬樹先輩は血色が良くなかっただけで、顔立ち自体は凄く整っているんです。なので、栄養満点の私の食事で本来の綺麗な肌を取り戻しつつある先輩が、周囲の目を惹くようになっているのは必然と言えるんです。栄養満点の私の食事で、本来の魅力を取り戻しつつある先輩が」
「……えっと、なるほど……?」
未だ困惑を浮かべる僕に、続けてそう力説する藤島さん。……えっと、これは納得して良いのかな? いや、もちろん彼女が作ってくれる食事が僕に多大なる好影響を与えてくれていることは全く以て否定しない。しないのだけども……ただ、それでも彼女が力説してくれるほどの魅力が僕なんかにあるのかと言えば、それは流石に肯定し難くて……
あと、ツッコむべきか少し迷ったけど……二回言ったよね、栄養満点の食事。彼女にとって、よほど大事な部分だったのだろう。まあ、否定の要素なんて皆目ないんだけども。
「そういうわけで、今まではすっかり見過ごされていた――あるいは、随分と過小評価されていた先輩の別の魅力も、ここ最近ですっかり見直されてきていると思いますよ?」
「……別の、魅力ですか……?」
「はい。先輩はどうせほとんど……いえ、全く気付いていないのでしょうけど、実は凄く有能なんですよ? だいたいどのポジションも人並み以上に出来るし、周りの状況にも良く気が付きますし。まあ、後輩の私がこうして評価を下すこと自体、先輩に対して甚だ失礼かもしれませんが」
「いえ、そんなことないです! その……藤島さんがそう思ってくれているのは、本当に嬉しいです」
「……ふふっ、それなら良かったです」
そう、たどたどしい口調で思いを告げると、安心したように笑みを洩らし答える藤島さん。僕自身、それほどの魅力があるなんてやはり思えない。思えないけど……それでも、ここで彼女のくれた評価を否定するのは流石に違う気がして。
……ところで、それはそれとして。
「……えっと、どうかしましたか藤島さん」
そう、些か唐突とも思える問いを掛ける僕。だけど、これには一応理由があって。と言うのも――先ほどの和やかな雰囲気から一転、どうしてか睨むように僕の方を凝視している彼女がいるから。……いや、睨むというほどではないけど……それにしても、ついさっきまでの穏やかな微笑みからはほど遠く――
「……駄目、ですからね?」
「……へっ?」
「……だから、モテるようになったからって……その、簡単に他の子に手を出すようなチャラいことは駄目ですからね、って言ったんです」
「……えっと、分かりました……?」
すると、不意に軽く口を尖らせそんな忠告をする藤島さん。……えっと、つまりは誠実な人間であれということかな? でも……こう言ってはやはり申し訳ないけれど、それは流石に過大評価だと思う。
もちろん、藤島さんのお陰でここ最近における僕に対する評価が大いに見直されている自体は否定しないものの……それでも、流石にモテるとまでは――
――まあ、それはともあれ。
「……その、今更ではありますが……本当にありがとうございます、藤島さん」
「……へっ?」
そう、深く頭を下げ感謝の意を伝える。そんな僕の唐突な行動に、少し驚いた声を洩らす彼女だったが――
「……ふふっ、どういたしまして。冬樹先輩」
ややあって顔を上げると、そこには少し悪戯な――それでいて、陽だまりのように暖かな微笑を浮かべる藤島さんの姿があった。
「あっ、了解です! あっ、香椎さん……その、いつもありがとうございます」
「……へっ? あっ、いえ……」
それから、およそ一週間経て。
勤務中、カウンターにて――冷蔵庫にカフェオレが残り僅かしかないことに気付いたので、一緒に接客を担当している女性スタッフへそう伝える。彼女は早良有希さん――僕の一つ歳下の大学生で、いつも明るいムードメーカー的存在の女の子だ。……ただ、それはそれとして……いや、気のせいかな?
「――ああ、それは気のせいではないですね。ここ一ヶ月くらいで冬樹先輩を見る周囲の目がすっかり変わっていることは、傍目から見ても明らかですし」
「……そう、なのですか……?」
翌日、昼下がりの自室にて。
もはや恒例となりつつある二人での食事の最中、僕の話にそう返答をする藤島さん。僕から話を振るとは、何とも珍しいことだけれど……その、どうしても聞いておきたいことがあって。
さて、その内容とはおよそ一ヶ月前――とりわけ二週間前くらいから、職場での僕に対するスタッフ達の対応が明らかに変化していること。えっと、一つ例を挙げるなら……僕に対する、先日の早良さんの対応だったり。
と言うのも――彼女とはもう一年以上この職場で一緒になるけれど……その間、何の誇張もなく感謝を告げられたことなど一度もなかった。まあ、僕であるからしてそれは当然なのだけど……なのだけども、それが二週間くらい前に初めて感謝を告げられ、そして先日も――
……あっ、ちなみに早良さんは以前、四日連続で僕とシフトが被っていたことに不服を述べていた人で……うん、要らないよねこの説明。
ともあれ、そんな僕の疑問……と言うか戸惑いに答えてくれたのが、先ほどの彼女の説明なわけで。
「――以前にも言いましたが、冬樹先輩は血色が良くなかっただけで、顔立ち自体は凄く整っているんです。なので、栄養満点の私の食事で本来の綺麗な肌を取り戻しつつある先輩が、周囲の目を惹くようになっているのは必然と言えるんです。栄養満点の私の食事で、本来の魅力を取り戻しつつある先輩が」
「……えっと、なるほど……?」
未だ困惑を浮かべる僕に、続けてそう力説する藤島さん。……えっと、これは納得して良いのかな? いや、もちろん彼女が作ってくれる食事が僕に多大なる好影響を与えてくれていることは全く以て否定しない。しないのだけども……ただ、それでも彼女が力説してくれるほどの魅力が僕なんかにあるのかと言えば、それは流石に肯定し難くて……
あと、ツッコむべきか少し迷ったけど……二回言ったよね、栄養満点の食事。彼女にとって、よほど大事な部分だったのだろう。まあ、否定の要素なんて皆目ないんだけども。
「そういうわけで、今まではすっかり見過ごされていた――あるいは、随分と過小評価されていた先輩の別の魅力も、ここ最近ですっかり見直されてきていると思いますよ?」
「……別の、魅力ですか……?」
「はい。先輩はどうせほとんど……いえ、全く気付いていないのでしょうけど、実は凄く有能なんですよ? だいたいどのポジションも人並み以上に出来るし、周りの状況にも良く気が付きますし。まあ、後輩の私がこうして評価を下すこと自体、先輩に対して甚だ失礼かもしれませんが」
「いえ、そんなことないです! その……藤島さんがそう思ってくれているのは、本当に嬉しいです」
「……ふふっ、それなら良かったです」
そう、たどたどしい口調で思いを告げると、安心したように笑みを洩らし答える藤島さん。僕自身、それほどの魅力があるなんてやはり思えない。思えないけど……それでも、ここで彼女のくれた評価を否定するのは流石に違う気がして。
……ところで、それはそれとして。
「……えっと、どうかしましたか藤島さん」
そう、些か唐突とも思える問いを掛ける僕。だけど、これには一応理由があって。と言うのも――先ほどの和やかな雰囲気から一転、どうしてか睨むように僕の方を凝視している彼女がいるから。……いや、睨むというほどではないけど……それにしても、ついさっきまでの穏やかな微笑みからはほど遠く――
「……駄目、ですからね?」
「……へっ?」
「……だから、モテるようになったからって……その、簡単に他の子に手を出すようなチャラいことは駄目ですからね、って言ったんです」
「……えっと、分かりました……?」
すると、不意に軽く口を尖らせそんな忠告をする藤島さん。……えっと、つまりは誠実な人間であれということかな? でも……こう言ってはやはり申し訳ないけれど、それは流石に過大評価だと思う。
もちろん、藤島さんのお陰でここ最近における僕に対する評価が大いに見直されている自体は否定しないものの……それでも、流石にモテるとまでは――
――まあ、それはともあれ。
「……その、今更ではありますが……本当にありがとうございます、藤島さん」
「……へっ?」
そう、深く頭を下げ感謝の意を伝える。そんな僕の唐突な行動に、少し驚いた声を洩らす彼女だったが――
「……ふふっ、どういたしまして。冬樹先輩」
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