鎖 〜例え、どんなに歪な形でも〜

暦海

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懸念

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 ――――パシャッ。


「…………ん?」

 柔らかな陽射しを受け、ぼんやり目を開き眼を擦る。それから、隣へ視線を向けると――

「……おはようございます、冬樹ふゆき先輩。心地の好い朝ですね」
「……はい、おはようございま……っ!!」

 ――そう、柔らかな微笑で告げる美少女、藤島ふじしまさんの姿が。そして、そんな彼女を認識するやいなやさっと目を――

「……ふふっ、なんで目を逸らすんですか? もう、今更ではありませんか」
「……まあ、そうなんですけど」

 さっと目を逸らす僕に、可笑しそうに声を洩らし尋ねる藤島さん。……まあ、そうなんですけど。そうなんですけども……それでも、やっぱり改めて直視するのはどうにも恥ずかしくて。

 と言うのも……まあ、言わずもがなかもしれないけど……今、彼女は……いや、僕もだけど……まあ、一糸纏わぬ姿なわけでして。

 ――ところで、それはそれとして……いや、気のせいかな。




「……ところで、藤島さん。その、大変申し上げづらいのですが……今件について、もう警察にはお伝えしていますか?」
「……へっ?」


 それから、二時間ほど経て。
 朝食の最中さなか、隣へ腰掛ける藤島さんへ躊躇いつつもそう問い掛ける。尤も、円卓なので隣という表現が適切なのかどうかはさて措いて。

 ……正直、今の今までかなり迷った。果たして、僕の方から当件に直接触れるような発言をすべきなのかどうか。実際、藤島さん自身、初日の事情説明の時以外は殊更この件に言及していなかった。それも考慮すれば、少なくとも僕の方から口にするのは極力避けるべきだと考えていたし、今もそう思っている。

 だけど……それでも、聞かずにはいられなかった。万が一にも、まだ警察に連絡していなかったら――そんな途方もない懸念が、ずっと頭から離れなかったから。

 ちなみに、一応言い訳しておくと……別に、責務を放棄したいがためにこんなことを尋ねたわけじゃない。むしろ……彼女の返答に関わらず、全て解決するまで僕は責務《これ》を続けたいと本気で思っている。事情が事情なのだし、不謹慎との自覚はあるけど……それでも、少しでも藤島さんの力になれているなら本気に嬉しい――そう、心から思ってしまうから。

 ……だけど、僕風情がいくら意気込んだところで彼女の底知れぬ不安や恐怖が全て拭えるはずもないし……何より、例の人物が物理的に危害を加えてこようものなら、きっと僕なんかじゃ手に負えない。
 もちろん、こんな僕でも藤島さんの盾になることは出来るし、僕自身望むところでもある。……だけど、当然ながらそれだけじゃ根本的解決には程遠い。そのためには、やはり警察に頼る他な――


「……えっと、それに関してなのですが――」




「……そんな、ことって……」


 躊躇いがちに話す藤島さんの言葉を聞き終えた後、唖然と声を洩らす僕。彼女の説明によると、僕に相談をしたおよそ一週間前――即ち、夜道にて違和感を覚えてからほどなく、警察には本件を伝えたようで。

 ――だけど、警察の人はまるで取り合ってくれなかったとのこと。あまりにも状況証拠に乏しく、著しく信憑性に欠けている――そんな旨を伝えるだけで、一切の措置を講じてくれなかったとのことで。
 ……なに、それ。彼女は、日々こんなにも恐怖に身を震わせているというのに……そんなの、あんまりじゃないか。……そういう、ことなら――

「……ふぇっ!?」

 卒然、常ならぬ上擦った声を洩らす藤島さん。……いや、常ならぬも何も、完全に僕のせいなんだけども。そりゃ、何の前触れもなく急に抱き締められたらびっくりだよね。……だけど、

「……僕自身、頼りないことは百も承知です。……それでも、貴女は……貴女だけは……僕が、絶対に守ります」
「――っ!? ……頼りないなんて、そんなことないで
す。ありがとうございます……冬樹先輩」

 そう、ありったけの決意を告げる。何の保証もない、何とも弱く頼りない僕の決意。それでも……そんな僕に信頼を示すように、強く抱き締め返し感謝を告げてくれる藤島さん。そんな彼女に対し、今一度決意を固めいっそう強く抱き締めた。

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