6 / 14
悪魔の選択
犯罪者
しおりを挟む
「…………」
幼少期の、ある冬の日のこと。
声も出さず、ただぼんやりと佇む。そんな私の視界には、随分と酷い有り様の住まい――つい先日まで三人で暮らしていた、私達家族の住まいが。そして、壁の至るところに描かれた誹謗中傷の数々。……うん、もはや溜め息すら出ないや。
……まあ、仕方ないのかな。だって、この家の主人たる父は犯罪者――筆舌に尽くしがたいほど残忍な方法で一対の夫婦を殺害した、救いようもない凶悪犯なのだから。
そういうわけで、当然の如く何処に行っても私の――凶悪殺人犯の血縁者たる私の居場所などなく。悪事千里を走る――そんな故事はどうやら正しかったらしく、何処に行っても私の存在は知れ渡っていた。村一番の有名人さえ真っ青なほどに、この村において私の存在を知らない人などいなくて。
……いや、居場所がないだけならまだいい。いいのだけど……何処に言っても私に向けられるは誹謗中傷、更には石を投げつけられることも屡々で――
「……はぁ、はぁ……」
ともかく、疲労困憊の身体を引き摺り走る。そんな私の出来ることは――とにかく、逃げること。何処でもいい、どんなに不便な所でもいい……とにかく、誰もいない所に――
……それで、どうするの? その後、どうにか命からがら生き延びて……それで? 私は、誰のために生きるの? いや、そもそも今までだって、生きてる理由なんてあったの? 仮に……もし仮に、酷いという言葉ですら足りないあの事件を父が起こさなかったとして……私は、幸せだった?
……ううん、答えは否。考えるまでもなく、否。ただ、今とは違う種の苦痛があっただけ。だったら……うん、もはや何処で息絶えても構わない。なんなら、今ここでだって――
「…………あれ?」
目を覚ますと、視界に映るは見覚えのない木組みの天井。あの柾目、そして香り……恐らくは檜かなと思うけど、そんなことはどうでもよくて。そんなことより……確か、あの時、意識がプツリと途切れて、そして――
「――良かった、目が覚めたんだね」
「…………へっ?」
すると、不意に届いた柔らかな声。少し驚きつつ声の方向へ視線を向けると、そこには声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる端整な男性。……えっと、助けてくれたの、かな?
さて、彼の話によると……どうやら、独り道端で倒れていた私を此処――彼の自宅まで運び寝かせてくれたようで。きっと、良い人なのだろう。だけど――
「……ひょっとして、ですが……私のこと、知らなかったりします?」
そう、おずおずと尋ねてみる。ここが何処かは定かでないが……それでも、この村の住人なら私のことを知らないはずは――
「――うん、知ってるよ。セリアさん、だよね?」
「……はい」
すると、なおも柔らかな微笑のままそう問い掛ける美男子。いや、問うと言うより確認かな。まあ、それはともあれ……知ってるなら、どうして――
「――だからこそ、かな。犯罪者の子ども――そんな理由だけで理不尽な仕打ちを受けている君だからこそ、手を差し伸べなきゃならないと思ったんだ」
幼少期の、ある冬の日のこと。
声も出さず、ただぼんやりと佇む。そんな私の視界には、随分と酷い有り様の住まい――つい先日まで三人で暮らしていた、私達家族の住まいが。そして、壁の至るところに描かれた誹謗中傷の数々。……うん、もはや溜め息すら出ないや。
……まあ、仕方ないのかな。だって、この家の主人たる父は犯罪者――筆舌に尽くしがたいほど残忍な方法で一対の夫婦を殺害した、救いようもない凶悪犯なのだから。
そういうわけで、当然の如く何処に行っても私の――凶悪殺人犯の血縁者たる私の居場所などなく。悪事千里を走る――そんな故事はどうやら正しかったらしく、何処に行っても私の存在は知れ渡っていた。村一番の有名人さえ真っ青なほどに、この村において私の存在を知らない人などいなくて。
……いや、居場所がないだけならまだいい。いいのだけど……何処に言っても私に向けられるは誹謗中傷、更には石を投げつけられることも屡々で――
「……はぁ、はぁ……」
ともかく、疲労困憊の身体を引き摺り走る。そんな私の出来ることは――とにかく、逃げること。何処でもいい、どんなに不便な所でもいい……とにかく、誰もいない所に――
……それで、どうするの? その後、どうにか命からがら生き延びて……それで? 私は、誰のために生きるの? いや、そもそも今までだって、生きてる理由なんてあったの? 仮に……もし仮に、酷いという言葉ですら足りないあの事件を父が起こさなかったとして……私は、幸せだった?
……ううん、答えは否。考えるまでもなく、否。ただ、今とは違う種の苦痛があっただけ。だったら……うん、もはや何処で息絶えても構わない。なんなら、今ここでだって――
「…………あれ?」
目を覚ますと、視界に映るは見覚えのない木組みの天井。あの柾目、そして香り……恐らくは檜かなと思うけど、そんなことはどうでもよくて。そんなことより……確か、あの時、意識がプツリと途切れて、そして――
「――良かった、目が覚めたんだね」
「…………へっ?」
すると、不意に届いた柔らかな声。少し驚きつつ声の方向へ視線を向けると、そこには声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる端整な男性。……えっと、助けてくれたの、かな?
さて、彼の話によると……どうやら、独り道端で倒れていた私を此処――彼の自宅まで運び寝かせてくれたようで。きっと、良い人なのだろう。だけど――
「……ひょっとして、ですが……私のこと、知らなかったりします?」
そう、おずおずと尋ねてみる。ここが何処かは定かでないが……それでも、この村の住人なら私のことを知らないはずは――
「――うん、知ってるよ。セリアさん、だよね?」
「……はい」
すると、なおも柔らかな微笑のままそう問い掛ける美男子。いや、問うと言うより確認かな。まあ、それはともあれ……知ってるなら、どうして――
「――だからこそ、かな。犯罪者の子ども――そんな理由だけで理不尽な仕打ちを受けている君だからこそ、手を差し伸べなきゃならないと思ったんだ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる