恋愛短編集〜ノンジャンル〜

暦海

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悪魔の選択

犯罪者

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「…………」


 幼少期の、ある冬の日のこと。
 声も出さず、ただぼんやりと佇む。そんな私の視界には、随分と酷い有り様の住まい――つい先日まで三人で暮らしていた、私達家族の住まいが。そして、壁の至るところに描かれた誹謗中傷の数々。……うん、もはや溜め息すら出ないや。

 ……まあ、仕方ないのかな。だって、この家の主人あるじたる父は犯罪者――筆舌に尽くしがたいほど残忍な方法で一対の夫婦を殺害した、救いようもない凶悪犯なのだから。



 そういうわけで、当然の如く何処に行っても私の――凶悪殺人犯の血縁者たる私の居場所などなく。悪事千里を走る――そんな故事はどうやら正しかったらしく、何処に行っても私の存在は知れ渡っていた。村一番の有名人さえ真っ青なほどに、この村において私の存在を知らない人などいなくて。

 ……いや、居場所がないだけならまだいい。いいのだけど……何処に言っても私に向けられるは誹謗中傷、更には石を投げつけられることも屡々で――

「……はぁ、はぁ……」

 ともかく、疲労困憊の身体を引き摺り走る。そんな私の出来ることは――とにかく、逃げること。何処でもいい、どんなに不便な所でもいい……とにかく、誰もいない所に――


 ……それで、どうするの? その後、どうにか命からがら生き延びて……それで? 私は、誰のために生きるの? いや、そもそも今までだって、生きてる理由なんてあったの? 仮に……もし仮に、むごいという言葉ですら足りないあの事件を父が起こさなかったとして……私は、幸せだった? 

 ……ううん、答えは否。考えるまでもなく、否。ただ、今とは違う種の苦痛があっただけ。だったら……うん、もはや何処で息絶えても構わない。なんなら、今ここでだって――





「…………あれ?」


 目を覚ますと、視界に映るは見覚えのない木組みの天井。あの柾目、そして香り……恐らくは檜かなと思うけど、そんなことはどうでもよくて。そんなことより……確か、あの時、意識がプツリと途切れて、そして――


「――良かった、目が覚めたんだね」

「…………へっ?」

 すると、不意に届いた柔らかな声。少し驚きつつ声の方向へ視線を向けると、そこには声音こえに違わぬ柔らかな微笑を浮かべる端整な男性。……えっと、助けてくれたの、かな?



 さて、彼の話によると……どうやら、独り道端で倒れていた私を此処――彼の自宅まで運び寝かせてくれたようで。きっと、良い人なのだろう。だけど――

「……ひょっとして、ですが……私のこと、知らなかったりします?」

 そう、おずおずと尋ねてみる。ここが何処かは定かでないが……それでも、この村の住人なら私のことを知らないはずは――

「――うん、知ってるよ。セリアさん、だよね?」
「……はい」

 すると、なおも柔らかな微笑のままそう問い掛ける美男子。いや、問うと言うより確認かな。まあ、それはともあれ……知ってるなら、どうして――


「――だからこそ、かな。犯罪者の子ども――そんな理由だけで理不尽な仕打ちを受けている君だからこそ、手を差し伸べなきゃならないと思ったんだ」




 


 


 
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