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ただいまが届く場所
史上最大の難題?
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ある日の、仕事帰り――僕は、僕史上最大級の難題に頭を抱えていた。
「……えっと、どうすれば……いや、でも……」
黄昏時の、閑散とした公園にて。
そんな呟きを零しながら、園内奥の方をうろうろとする僕。きっと、傍から見れば怪しいことこの上ない僕の姿。だけど……それくらいに僕は今、酷く頭を悩ませていて。と言うのも――
再びちらと視線を向け、すぐさまさっと外す。そこには、少し古びた木組みのベンチ――そして、そこに腰掛けているのは、鮮やかな黒髪を纏う清麗な少女。そこまでは良い……いや、何が良いのかはともかく、そこまでは良い。良いのだけど――
「……やっぱり、放っとくとまずいよね……」
そう、ポツリと呟く。何がまずいって……その、少女の纏う制服のスカートの中が、傍目にもバッチリ見える状態でお眠りになっていることで。
……さて、どうするべきか……いや、するべきことは決まっている。この捲れ上がったスカートを下げて、中が見えないようにすること。こと、なのだけど……問題は、まさしくその手段で。言わずもがな、最善は少女自身が気付いて下げてもらうこと。尤も、その際は僕がいたら気まずいどころではないだろうし脱兎のごとく立ち去るけども。
だけど……生憎、目を覚ましてくれそうな気配はまるでない。幸い、今はここに誰もいないし、見渡す限り人の気配もないけど……でも、彼女の目が覚めるまでこの状況が続くとは限らない。もしも、万が一この状態の彼女を見かけた人が危ない人だったら――
……やはり、ここは女性が通るまで待って、事情を説明しお任せすべきだろうか。……いや、それもどうだろう。性的な関心を示す対象が、何も異性だけとは限らない。女性だから安心、というのは些か早計ではとも思うし……それに、よくよく考えれば必ずしも身体に及ぶ類の危険だけとは限らない。例えば、この状態の彼女を写真に収めた上で脅迫の材料にする可能性も……いや、ほんと申し訳ないけどね。特定の誰かでないとはいえ、大半は善良であろう方々にこうして疑いを向けてしまうのは。
……ともあれ、どうすべきか……うん、もう仕方ないか。
「……その、ごめんね」
届かない謝意を口にし、ゆっくりと彼女へ近づく。そして、その純白の布から極力目を逸らしつつ控えめにスカートの裾を摘む。そして――
「……これで、大丈夫……だよね?」
それから、ほどなくして。
そんな呟きを洩らし、再び家路を歩く僕。一応、ちらと……うん、流石に凝視するわけにもいかないので、ちらと確認したところ……うん、ちゃんと隠れていた……はず。
……ふぅ、今日はどっと疲れた。八時間の労働なんて比較にならないくらい、さっきの数分だけでどっと疲れた。とりあえず、家に帰ったら速攻ベッドに――
「――ねえ、ちょっと良いかなお兄さん?」
「…………へっ?」
卒然、後方から届く馴染みのない声。いや、馴染みどころか、恐らくは聞いたこともない声で。……えっと、僕のこと? そんな疑問を抱えつつ振り向くと、そこには――
「――初めまして、お兄さん。私は此島里李。お兄さんは?」
「……えっと、降崎陽真、です……」
そう、にこっと微笑み自己紹介をする少女。そして、その姿は初めてでなく――まさしく、つい先ほど公園のベンチで眠っていた清麗な少女で。……だけど、いったいどうし――
「……っ!!」
「うん、いい反応だねっ」
刹那、呼吸が止まる。何故なら……何処か悠然とした笑みを湛える少女が、僕の眼前に差し出したのはスマホ――正確には、先ほどの一部始終がバッチリ収められた動画で。……えっと、どういうこと? と言うか、いつの間に? だって、彼女は眠っていて――
……いや、止そう。この期に及んで……いや、どの期に及んでも、分からない振りなんてしても仕方がない。つまりは――
「――これから宜しくね、陽真さん?」
そう、花のような笑顔で告げる少女。そう、つまりは――僕は、無様にも嵌められたわけで。
「……えっと、どうすれば……いや、でも……」
黄昏時の、閑散とした公園にて。
そんな呟きを零しながら、園内奥の方をうろうろとする僕。きっと、傍から見れば怪しいことこの上ない僕の姿。だけど……それくらいに僕は今、酷く頭を悩ませていて。と言うのも――
再びちらと視線を向け、すぐさまさっと外す。そこには、少し古びた木組みのベンチ――そして、そこに腰掛けているのは、鮮やかな黒髪を纏う清麗な少女。そこまでは良い……いや、何が良いのかはともかく、そこまでは良い。良いのだけど――
「……やっぱり、放っとくとまずいよね……」
そう、ポツリと呟く。何がまずいって……その、少女の纏う制服のスカートの中が、傍目にもバッチリ見える状態でお眠りになっていることで。
……さて、どうするべきか……いや、するべきことは決まっている。この捲れ上がったスカートを下げて、中が見えないようにすること。こと、なのだけど……問題は、まさしくその手段で。言わずもがな、最善は少女自身が気付いて下げてもらうこと。尤も、その際は僕がいたら気まずいどころではないだろうし脱兎のごとく立ち去るけども。
だけど……生憎、目を覚ましてくれそうな気配はまるでない。幸い、今はここに誰もいないし、見渡す限り人の気配もないけど……でも、彼女の目が覚めるまでこの状況が続くとは限らない。もしも、万が一この状態の彼女を見かけた人が危ない人だったら――
……やはり、ここは女性が通るまで待って、事情を説明しお任せすべきだろうか。……いや、それもどうだろう。性的な関心を示す対象が、何も異性だけとは限らない。女性だから安心、というのは些か早計ではとも思うし……それに、よくよく考えれば必ずしも身体に及ぶ類の危険だけとは限らない。例えば、この状態の彼女を写真に収めた上で脅迫の材料にする可能性も……いや、ほんと申し訳ないけどね。特定の誰かでないとはいえ、大半は善良であろう方々にこうして疑いを向けてしまうのは。
……ともあれ、どうすべきか……うん、もう仕方ないか。
「……その、ごめんね」
届かない謝意を口にし、ゆっくりと彼女へ近づく。そして、その純白の布から極力目を逸らしつつ控えめにスカートの裾を摘む。そして――
「……これで、大丈夫……だよね?」
それから、ほどなくして。
そんな呟きを洩らし、再び家路を歩く僕。一応、ちらと……うん、流石に凝視するわけにもいかないので、ちらと確認したところ……うん、ちゃんと隠れていた……はず。
……ふぅ、今日はどっと疲れた。八時間の労働なんて比較にならないくらい、さっきの数分だけでどっと疲れた。とりあえず、家に帰ったら速攻ベッドに――
「――ねえ、ちょっと良いかなお兄さん?」
「…………へっ?」
卒然、後方から届く馴染みのない声。いや、馴染みどころか、恐らくは聞いたこともない声で。……えっと、僕のこと? そんな疑問を抱えつつ振り向くと、そこには――
「――初めまして、お兄さん。私は此島里李。お兄さんは?」
「……えっと、降崎陽真、です……」
そう、にこっと微笑み自己紹介をする少女。そして、その姿は初めてでなく――まさしく、つい先ほど公園のベンチで眠っていた清麗な少女で。……だけど、いったいどうし――
「……っ!!」
「うん、いい反応だねっ」
刹那、呼吸が止まる。何故なら……何処か悠然とした笑みを湛える少女が、僕の眼前に差し出したのはスマホ――正確には、先ほどの一部始終がバッチリ収められた動画で。……えっと、どういうこと? と言うか、いつの間に? だって、彼女は眠っていて――
……いや、止そう。この期に及んで……いや、どの期に及んでも、分からない振りなんてしても仕方がない。つまりは――
「――これから宜しくね、陽真さん?」
そう、花のような笑顔で告げる少女。そう、つまりは――僕は、無様にも嵌められたわけで。
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