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ただいまが届く場所
いつ言ってくれるの?
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「――あ、おかえり陽真さん! ほら、入って入って」
「あ、うん……その、お邪魔します」
それから、翌日のこと。
夕さり頃、私の出迎えに相変わらず控えめな様子で答える陽真さん。そんな彼に少し呆れつつ、彼らしいなとつい微笑ましくもなってしまう。
「……ところでさ、ありがとね陽真さん」
「……ん? 何の話だい? むしろ、感謝するのは僕の方だと思うけど」
「……分かってるくせに」
それから数十分後。
楽しい夕食の最中、ふとそう切り出した私に首を傾げ尋ね返す陽真さん。いや分かってるくせに。まあ、そういうことなら――
「……あの時、あんな馬鹿な嘘ついたこと。あれって、私のためなんでしょ? 少しでも、私に対する心象を良くするためだったんでしょ?」
「……いや、それは、その……」
そう尋ねると、目を逸らしたどたどしく呟く陽真さん。いや、なんでそんな挙動不審なの? 何も悪いことしてないでしょ。いや、あの告白が社会的にどう捉えられるかは分からないけど……少なくとも、私に対しては何も悪いことしてないでしょ。
ともあれ、結局どういうことかというと――彼は事実そのものではなく、認識を変えようとした。証拠の画像もあることだし、事実を――彼が私のもとに通っていた事実自体をごまかすのは、相当に至難の業だろうし。
だから、認識の方を変えた。成人男性とただならぬ関係を持つ、いかがわしい女子生徒――周囲から見れば随分とマイナスであろうそんな認識を、成人男性と年齢の差を越えて真剣に交際をしている一途な生徒という認識へと変えた。尤も、それでプラスに捉えてもらえるかどうかは懐疑的なものの……それでも、幾分はマシであろう認識へと変えてくれた。
そして、それは一定の効果を見た。もちろん、校長としては全くのデマである方が良かったのは疑う余地もないけど……それでも、学校にとっていわゆる問題児と認識されるような生徒を抱えるリスクに比べれば、それが事実かどうかはともかく真剣交際ということにしておいた方が幾分都合が良かったのだろう。真剣交際なら、もしもこの情報が外部に洩れたところで、当校のイメージを損なう可能性はそれほど高くはないだろうし……たぶん。
「でも、馬鹿だよね陽真さん。あんなこと言っちゃったら、実は違いましたなんて判明した後が大変だよ?」
「……まあ、その時はその時だよ」
そう言うと、仄かに微笑み答える陽真さん。間違いなく、自分でも分かっているだろうけど……あれは、彼にとって呪いの言葉だ。あんなことを言っちゃったら、実はそうじゃない――真剣交際じゃないと判明した後、非難を受けるのは恐らく彼の方。一方、私は不誠実な大人に弄ばれた哀れな子どもといった認識となるだろう。
……まあ、それも含めての発言だったんだろうけど。いざとなったら、全ての罪を自分が引き受けるつもりでの発言だったんだろうけど。……全く、とんだお人好しだよ。分かってるよね? 私は、貴方を脅迫した人間なんだよ? でも……そういう貴方だから、私は――
「……っ!!」
「……どうかした? 里李さん」
「……あ、ううん、何にも……」
私の異変を察したのだろう、心配そうに尋ねる陽真さん。具体的には……うん、鏡なんて見ずとも顔が火照っているのが分かって。
……もしかして、本気? 本気で、私と、その……いや、流石にないか。我ながら、思い上がりも甚だしい。
……まあ、それはそれとして――
「……ところで、陽真さん。さっきは……いや、これまでもずっとスルーしてあげてたけど、いつ言ってくれるの?」
「……あ、いや……うん」
ふと、そんな問いを掛ける。まあ、半分くらいはからかってる部分もあるんだけど……でも、もう半分は本気で。滑稽だと、馬鹿みたいだと思うけど……それでも、言ってほしくて。束の間でも良い、ここが誰かの……私の居場所だと思える証がほしいから。だから――
すると、やはり困惑した様子ながらも意を決したように私の目を見つめる陽真さん。そして――
「……うん、ただいま。里李さん」
「……うん! おかえり、陽真さん」
「あ、うん……その、お邪魔します」
それから、翌日のこと。
夕さり頃、私の出迎えに相変わらず控えめな様子で答える陽真さん。そんな彼に少し呆れつつ、彼らしいなとつい微笑ましくもなってしまう。
「……ところでさ、ありがとね陽真さん」
「……ん? 何の話だい? むしろ、感謝するのは僕の方だと思うけど」
「……分かってるくせに」
それから数十分後。
楽しい夕食の最中、ふとそう切り出した私に首を傾げ尋ね返す陽真さん。いや分かってるくせに。まあ、そういうことなら――
「……あの時、あんな馬鹿な嘘ついたこと。あれって、私のためなんでしょ? 少しでも、私に対する心象を良くするためだったんでしょ?」
「……いや、それは、その……」
そう尋ねると、目を逸らしたどたどしく呟く陽真さん。いや、なんでそんな挙動不審なの? 何も悪いことしてないでしょ。いや、あの告白が社会的にどう捉えられるかは分からないけど……少なくとも、私に対しては何も悪いことしてないでしょ。
ともあれ、結局どういうことかというと――彼は事実そのものではなく、認識を変えようとした。証拠の画像もあることだし、事実を――彼が私のもとに通っていた事実自体をごまかすのは、相当に至難の業だろうし。
だから、認識の方を変えた。成人男性とただならぬ関係を持つ、いかがわしい女子生徒――周囲から見れば随分とマイナスであろうそんな認識を、成人男性と年齢の差を越えて真剣に交際をしている一途な生徒という認識へと変えた。尤も、それでプラスに捉えてもらえるかどうかは懐疑的なものの……それでも、幾分はマシであろう認識へと変えてくれた。
そして、それは一定の効果を見た。もちろん、校長としては全くのデマである方が良かったのは疑う余地もないけど……それでも、学校にとっていわゆる問題児と認識されるような生徒を抱えるリスクに比べれば、それが事実かどうかはともかく真剣交際ということにしておいた方が幾分都合が良かったのだろう。真剣交際なら、もしもこの情報が外部に洩れたところで、当校のイメージを損なう可能性はそれほど高くはないだろうし……たぶん。
「でも、馬鹿だよね陽真さん。あんなこと言っちゃったら、実は違いましたなんて判明した後が大変だよ?」
「……まあ、その時はその時だよ」
そう言うと、仄かに微笑み答える陽真さん。間違いなく、自分でも分かっているだろうけど……あれは、彼にとって呪いの言葉だ。あんなことを言っちゃったら、実はそうじゃない――真剣交際じゃないと判明した後、非難を受けるのは恐らく彼の方。一方、私は不誠実な大人に弄ばれた哀れな子どもといった認識となるだろう。
……まあ、それも含めての発言だったんだろうけど。いざとなったら、全ての罪を自分が引き受けるつもりでの発言だったんだろうけど。……全く、とんだお人好しだよ。分かってるよね? 私は、貴方を脅迫した人間なんだよ? でも……そういう貴方だから、私は――
「……っ!!」
「……どうかした? 里李さん」
「……あ、ううん、何にも……」
私の異変を察したのだろう、心配そうに尋ねる陽真さん。具体的には……うん、鏡なんて見ずとも顔が火照っているのが分かって。
……もしかして、本気? 本気で、私と、その……いや、流石にないか。我ながら、思い上がりも甚だしい。
……まあ、それはそれとして――
「……ところで、陽真さん。さっきは……いや、これまでもずっとスルーしてあげてたけど、いつ言ってくれるの?」
「……あ、いや……うん」
ふと、そんな問いを掛ける。まあ、半分くらいはからかってる部分もあるんだけど……でも、もう半分は本気で。滑稽だと、馬鹿みたいだと思うけど……それでも、言ってほしくて。束の間でも良い、ここが誰かの……私の居場所だと思える証がほしいから。だから――
すると、やはり困惑した様子ながらも意を決したように私の目を見つめる陽真さん。そして――
「……うん、ただいま。里李さん」
「……うん! おかえり、陽真さん」
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退会済ユーザのコメントです
初めまして、Gleezy : jpjtxnさま。
暦海(こよみ)と申します。
僕の拙作を読んでくださり、更にはこのような暖かく素敵なご感想までくださり大変嬉しく思っております(^^)
本当にありがとうございますm(_ _)m