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戸波小夜
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(……ほんと、ウザいよねあいつ)
(マジそれ。コネで店長になったくせに、マジ偉そう)
(……だな。顔は可愛いけど、あのきつい性格はちょっと無理だわ)
ある休日の夕さり頃。
休憩室の扉の前で、室内から微かに届く男女の会話。先ほど勤務を終えたスタッフによる、誰かに対する陰口のようで。さて、誰に対する――なんて、とぼけても仕方がないけれど。
まあ、だからと言っていちいち気に病むほどヤワな神経はしていない。そもそも、この程度なら全然――少なくとも、私にとっては全然マシな類なわけだし。
ともあれ、さてどうしようか。別に、休憩をしたいわけじゃない。ただ、この休憩室は事務室と兼用で、私は事務室に用があるのだけど――うん、流石に少し入りづらい。
尤も、別に誰にどう思われていようと構わない。構わないのだけど、職場の雰囲気に悪影響が出るのはなるべく避けたい。まだまだ未熟ではあるが、彼らは当カフェ『TAKATSUKI』の大事な戦力――私という嫌な上司がいるので今更かもしれないけど、かと言ってこれ以上働きづらさを感じさせるわけにもいかないし。
さて、本題に戻ると……さて、どうしようか。まあ、急を要する用でもないので、別に今でなくても――
「――あれ、どうかしたんすか? 高月先輩」
回れ右して引き返そうとした直前、ふと後方から届く柔らかな声。……いや、危なかった。回れ右してるとこ見られてたら、流石にちょっと恥ずかしいし。
ともあれ、威厳(?)を保ちつつ振り返ると、そこには声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる男性。まあ、流石に分かってたけど。
さて、彼は戸波小夜くん。大卒2年目で、格好良いというより可愛い顔立ち――そこに優しく人懐っこい性格も相俟ってか、性別年齢問わず誰からも愛されている当カフェの副店主で。嫌われ者の店主がいるのにさほど離職率が高くないのは、疑いようもなく彼の存在が大きくて。なので、もし彼がいなくなってしまっ……うん、やめよ。想像するだけで気が滅入るし。
――まあ、そんな自虐はともあれ。
「……ええ、戸波くん。ちょっと、先週の発注書を確認しようと」
「ああ、なるほど。それで、入んないんすか?」
「…………ええ、そうね」
そう言うと、少し不思議そうに尋ねる戸波くん。……ええ、分かってます。彼に悪気のないことは。今ここに来たばかりの彼に、先ほどの会話など聞こえているはずないだろうし。……さて、どうしたものか――
「……あっ、ひょっとして人がいるから入りづらかったんすか?」
「……へっ? ……ええ、まあ」
すると、合点のいった様子でそう問い掛ける戸波くん。扉の近くまで来たことで、室内の会話が届いたのだろう。幸い、もう私の話はしていないようだけど……でも、いつまた切り出すか――
「そういうことでしたら、俺が取ってきますよ先輩!」
「……へっ?」
すると、にこやかな笑顔で告げる戸波くん。それから、ゆっくり扉を開け中へ入っていく。……まあ、驚くことでもないけど。むしろ、彼ならそう言ってくれることくらいは、1年以上の関わりで分かってるつもりだし。
「――お待たせしました、高月先輩! これで合ってます?」
「……ええ、間違いないわ。ありがとう戸波くん」
「いえ、お安いご用です!」
ともあれ、少し遠くで待つこと数分。戻ってくるやいなや、ニコッと笑いお目当ての物を差し出してくれる戸波くん。……ほんと、不思議よね。別に、彼にだけ甘いとか優しいとか、そんなことは全くないのに……どうして、私にまでそんな笑顔を見せてくれるのかしら。
(マジそれ。コネで店長になったくせに、マジ偉そう)
(……だな。顔は可愛いけど、あのきつい性格はちょっと無理だわ)
ある休日の夕さり頃。
休憩室の扉の前で、室内から微かに届く男女の会話。先ほど勤務を終えたスタッフによる、誰かに対する陰口のようで。さて、誰に対する――なんて、とぼけても仕方がないけれど。
まあ、だからと言っていちいち気に病むほどヤワな神経はしていない。そもそも、この程度なら全然――少なくとも、私にとっては全然マシな類なわけだし。
ともあれ、さてどうしようか。別に、休憩をしたいわけじゃない。ただ、この休憩室は事務室と兼用で、私は事務室に用があるのだけど――うん、流石に少し入りづらい。
尤も、別に誰にどう思われていようと構わない。構わないのだけど、職場の雰囲気に悪影響が出るのはなるべく避けたい。まだまだ未熟ではあるが、彼らは当カフェ『TAKATSUKI』の大事な戦力――私という嫌な上司がいるので今更かもしれないけど、かと言ってこれ以上働きづらさを感じさせるわけにもいかないし。
さて、本題に戻ると……さて、どうしようか。まあ、急を要する用でもないので、別に今でなくても――
「――あれ、どうかしたんすか? 高月先輩」
回れ右して引き返そうとした直前、ふと後方から届く柔らかな声。……いや、危なかった。回れ右してるとこ見られてたら、流石にちょっと恥ずかしいし。
ともあれ、威厳(?)を保ちつつ振り返ると、そこには声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる男性。まあ、流石に分かってたけど。
さて、彼は戸波小夜くん。大卒2年目で、格好良いというより可愛い顔立ち――そこに優しく人懐っこい性格も相俟ってか、性別年齢問わず誰からも愛されている当カフェの副店主で。嫌われ者の店主がいるのにさほど離職率が高くないのは、疑いようもなく彼の存在が大きくて。なので、もし彼がいなくなってしまっ……うん、やめよ。想像するだけで気が滅入るし。
――まあ、そんな自虐はともあれ。
「……ええ、戸波くん。ちょっと、先週の発注書を確認しようと」
「ああ、なるほど。それで、入んないんすか?」
「…………ええ、そうね」
そう言うと、少し不思議そうに尋ねる戸波くん。……ええ、分かってます。彼に悪気のないことは。今ここに来たばかりの彼に、先ほどの会話など聞こえているはずないだろうし。……さて、どうしたものか――
「……あっ、ひょっとして人がいるから入りづらかったんすか?」
「……へっ? ……ええ、まあ」
すると、合点のいった様子でそう問い掛ける戸波くん。扉の近くまで来たことで、室内の会話が届いたのだろう。幸い、もう私の話はしていないようだけど……でも、いつまた切り出すか――
「そういうことでしたら、俺が取ってきますよ先輩!」
「……へっ?」
すると、にこやかな笑顔で告げる戸波くん。それから、ゆっくり扉を開け中へ入っていく。……まあ、驚くことでもないけど。むしろ、彼ならそう言ってくれることくらいは、1年以上の関わりで分かってるつもりだし。
「――お待たせしました、高月先輩! これで合ってます?」
「……ええ、間違いないわ。ありがとう戸波くん」
「いえ、お安いご用です!」
ともあれ、少し遠くで待つこと数分。戻ってくるやいなや、ニコッと笑いお目当ての物を差し出してくれる戸波くん。……ほんと、不思議よね。別に、彼にだけ甘いとか優しいとか、そんなことは全くないのに……どうして、私にまでそんな笑顔を見せてくれるのかしら。
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