短編集〜現代文学〜

暦海

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1本の缶コーヒー

誰なんだろう?

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 その後も、ほとんど毎日のようにコーヒーとメモ用紙が置かれていて。文面は、初日とほとんど同じもの。もはや、無かったら少しガッカリしてしまいそうで……いや、それは宜しくない。頂けるのが当たり前なんて、そんな傲慢な人間になってはいけないわけで。


 ……だけど、ほんとに誰なんだろう? やっぱり、僕が配達しているお宅のどなたか? だけど、だったら別にあの場に置かなくても……例えば、配達に行った時に渡してくれそうなものだけど……恩着せがましいと思われたくないとか? でも、それにしても……まあ、考えても仕方ないか。もし分かることがあれば、その時にきちんとお礼を言おう。



 ――すると、そんなある日のことだった。


「…………あっ」

 
 今日も今日とて冷え冷えとした空気の中、ポツリと声を洩らす。そして、ガクリと肩を落とす。最後の1軒を終えたところで、どうしてか1部残っているのに気が付いて。どうやら、どこか入れ忘れてしまったようで……たぶん、あそこかな。そう言えば、今日は登った記憶がないよね、あの階段。……はぁ、憂鬱。

 そういうわけで、少し急いで戻り玄関ポストに新聞を投入。……はぁ、疲れた。……ただ、幸いだったのはその後すぐ扉が開き、優しそうなおじいさんがお疲れさまと仰ってくれたことで……ふう、良かった。怒ってはいらっしゃらないようで。

 その後、再び帰り道をしばし進んでいく。ほどなく、例の公園へと着くのだけど……もし、今日も置いてくれていたら申し訳ないなぁ。流石にもう冷めちゃってるだろうし。尤も、僕としては冷めていようがありがたく頂くけれど――


「…………へっ?」

 ふと、茫然と声を洩らす僕。と言うのも――いつもの公園のベンチに、いつもと異なる光景があったから。そこには――


「……あっ、えっと、その……」

 そう、例のコーヒーを手にオロオロしている鮮麗な少女の姿があって。


 しばし、茫然とする僕。……えっと、もしかしてこの子が? うん、状況としてはそうとしか考えられない。られない、のだけど……僕は、この子を知らない。てっきり、お客さんの中の誰かだと……いや、でもその可能性もなくはないかな? ただ、僕が見たことないだけの可能性も――

「……あ、えっと、その……ごめんなさい!」

 すると、そう言い放ち脱兎の如く去ろうとする少女。いや、今はなんでもいい。それよりも――

「――待って!」
「……へっ?」

 入口の辺りで、僕の横を通り過ぎようとする彼女を呼び止める。お客さんだろうがなんだろうが、今はなんでもいい。それよりも――

「……その、いつもありがとう」
「……あ、いえ……」

 そう、たどたどしく告げる。今、僕が伝えるべき言葉は、きっとこれ以外にありはしないから。






 
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