どういうわけか源氏物語の世界に迷い込んだ私ですが……とにかく、幸せになるべく奮闘します!

暦海

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帝さまはやっぱりご心配?

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「――今更、何を言うこともないかもしれないが……やはり、流石だね女御にょうご。琴だけに、と言うわけでもないけれど……本日も、優しく琴線に触れる繊細優美で暖かな音色だったよ」
「あ、ありがとうございます帝さま!」


 それから、数日経て。
 庭園にて、琴を弾き終えた私に惜しみない称賛を送ってくれる帝。彼がそう言ったから――というわけでもないだろうけど、庭園ここに集まった皆も私に惜しみない拍手を送ってくれる。

 さて、ただ今こちらで何が行われているのかと言うと――まあ、ざっくり言えば文化的な催し物。身分関係なく、皆で音楽や和歌などを嗜むという行事もので。

 ……でも、こんなの本作にあったかな……うん、まあ良いか。神様の気まぐれか何かだろうけど、楽しい分には何の問題もないし。


 ところで……帝を始めこれほど多くの人に感動を与える帆弥わたしは、幼少よりたいそう音楽の才に恵まれて――なんて、そんな都合の良い設定などなく。どころか、楽器自体音楽の授業以外でほぼ触れたこともなく、琴に至っては恐らく現物を目にしたこともない。

 それが、この世界に来て以降、何かが乗り移ったように音楽――具体的には、管弦の才を如何なく発揮している自分がいて。なんか、何も考えなくても勝手に手が優雅な音色を奏でるというか……まあ、きっと神様の計らいなのだろう。桐壺きりつぼにしても藤壺ふじつぼにしても、楽器が出来ないなんてまず有り得ないだろうし。


 さて、楽器はともあれ和歌――もしかすると、平安この時代において音楽以上に肝要となるかもしれない、和歌の才はと言うと――

「……うぅ、女御。平時のことではあるが……なんと胸に沁み入る幽遠な和歌うたを……うぅ……」
「……あ、はいありがとうございます……」

 私の詠んだ和歌うたに、たいそう袖を濡らしつつ称えてくれる帝。さっと見渡すと、彼だけでなく皆も涙に声を詰まらせていて。……いや、嬉しいんだよ? 嬉しいんだけども……うん、そこまで?


 まあ、それはともあれ――この沢山さわやま帆弥ほのみ、楽器はともかく和歌の才は出色。現代においても、私の和歌うたに心が動かない人など皆無……などと、そんな思い上がりも甚だしい設定などあるはずもなく―― 


(……いや、もうちょっと何かなかった?)

 そう、声を潜め呟く。そんな私の視線の先には、もうお馴染みの七福神――31文字の言の葉が所狭ところせしと記された木製パネルを、何とも楽しそうな笑顔で掲げる神様の姿が。

 ……いや、フォローしてくれるのは有り難い。有り難いけども……うん、もうちょっと何かなかった? 例えば……そう、突然何か降りてきたかのように、ハッと雅な和歌《うた》が脳裏に浮かび上がるみたいな。なのに、蓋を開けてみればこんな……うん。まるで上がんないよ、自己肯定感。


 その後、身分の高い人もそうでない人も思い思いに和歌を詠み、それぞれ称賛し合うという何とも和やかな時間を――

 ……うん、今更だけど……いやぁ、楽しいな藤壺。基本ずっとしんどかった桐壺の頃を思うと、余計にそう思う。ただ一つ不満があるとすれば、源ちゃんと逢えないことだけど……まあ、ある程度は仕方ないのだろう。歳を重ねると逢えなくなる、とは言わないまでも――程度の差はあれ、歳を重ねると逢う機会が減ってしまう可能性が高いのは、きっと現代にも通ずるものがあるだろうし。


 ……ところで、それはそれとして――

「……あの、もし宜しければ……もう一首、お詠み申し上げても宜しいでしょうか?」
「おや、珍しいね。女御からそのような申し出が上がるなんて。でも、もちろん歓迎するよ」

 宴もたけなわの頃、些か逡巡しつつもそう申し出る。そんな私に少し驚き、それでもすぐさま快諾を示す帝。

 ……いや、ほら折角だし? やっぱり、自分でも詠んでみたいじゃん? ……えっと、テーマは梅だから……梅だから――


 梅干しや。
 ああ梅干しや
 梅干しや
 今日も酸っぱい
 明日あすも酸っぱい


「…………少し、お疲れのようだね女御。今宵はゆっくり休もうか」
「至って万全ですけども!?」








 
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