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至って普通の庶民です。
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「……ここが、あの……」
皓々と月の輝く、ある日の夜の頃。
そう、ポツリ呟きを洩らす。そんな私がいるのは、自宅ほどではないが十分に立派な邸宅の前――紀伊守という、左大臣に仕える男性の住む邸宅で。
……いや、自宅とは言ったけど帆弥の居住じゃないからね? 言わずもがなかもしれないけど、帆弥は至って普通の庶民です。
まあ、それはともあれ……どうして、こんな時間に此処にいるのかというと――
「……あの、宮さま。重ね重ね、不躾な質問かとは存じますが……本当に、光君の愛情を叶えて頂けるのでしょうか?」
「うん、任せて惟光くん。それと、協力してくれてありがとね」
そう、少し不安そうに尋ねる端正な顔立ちの男の子。彼は惟光――源ちゃんの乳母の息子であり、それゆえ源ちゃんに仕えている少年だ。
……尤も、乳母――言わば、育ての親の息子だという理由で、源ちゃん――乳母に育てられた子に仕える立場になる辺り、当時の貴人の世界における関係性が窺えるというもので。
さて、それはそれとして……お気づきの方もいるかと思うけれど、今のこの状況はまさしく異様そのもので。と言うのも……よほどの事情でもない限り、この時代の女性――少なくとも、藤壺ほどの高貴な女性が、とりわけこのような時間に外出することはまず皆無と言って差し支えないだろうから。……うん、バレたらどうなることやら。
……それでも、そんな並々ならぬ危険を取ってまでこんな無茶を敢行している理由は――
「……お待ちしておりました、宮さま。どうぞ、こちらから」
すると、東の門からそっと出て来て恭しくそう口にするのは、あどけなくもたいそう気品の窺える男の子。そんな彼に感謝を告げ、神殿の東側から渡殿と呼ばれる廊下を通り西側へ。すると――
「――おや、どちら様かしら」
ふと、襖の向かうからそんな言葉が微かに届く。繊細で柔らかな、恐らくは女性の声。
……さて、何と答えるべきか。藤壺、で伝われば良いのだけど……正直、宮中以外でも通用するのかどうかは定かでない。それより、もっと世間にて広く呼ばれていた名前があったはず。……えっと、確か……あっ!
「――突然の来訪、どうかお許しくださいませ。私こそは、輝く日の宮と申します」
「自分で言っちゃうの!?」
皓々と月の輝く、ある日の夜の頃。
そう、ポツリ呟きを洩らす。そんな私がいるのは、自宅ほどではないが十分に立派な邸宅の前――紀伊守という、左大臣に仕える男性の住む邸宅で。
……いや、自宅とは言ったけど帆弥の居住じゃないからね? 言わずもがなかもしれないけど、帆弥は至って普通の庶民です。
まあ、それはともあれ……どうして、こんな時間に此処にいるのかというと――
「……あの、宮さま。重ね重ね、不躾な質問かとは存じますが……本当に、光君の愛情を叶えて頂けるのでしょうか?」
「うん、任せて惟光くん。それと、協力してくれてありがとね」
そう、少し不安そうに尋ねる端正な顔立ちの男の子。彼は惟光――源ちゃんの乳母の息子であり、それゆえ源ちゃんに仕えている少年だ。
……尤も、乳母――言わば、育ての親の息子だという理由で、源ちゃん――乳母に育てられた子に仕える立場になる辺り、当時の貴人の世界における関係性が窺えるというもので。
さて、それはそれとして……お気づきの方もいるかと思うけれど、今のこの状況はまさしく異様そのもので。と言うのも……よほどの事情でもない限り、この時代の女性――少なくとも、藤壺ほどの高貴な女性が、とりわけこのような時間に外出することはまず皆無と言って差し支えないだろうから。……うん、バレたらどうなることやら。
……それでも、そんな並々ならぬ危険を取ってまでこんな無茶を敢行している理由は――
「……お待ちしておりました、宮さま。どうぞ、こちらから」
すると、東の門からそっと出て来て恭しくそう口にするのは、あどけなくもたいそう気品の窺える男の子。そんな彼に感謝を告げ、神殿の東側から渡殿と呼ばれる廊下を通り西側へ。すると――
「――おや、どちら様かしら」
ふと、襖の向かうからそんな言葉が微かに届く。繊細で柔らかな、恐らくは女性の声。
……さて、何と答えるべきか。藤壺、で伝われば良いのだけど……正直、宮中以外でも通用するのかどうかは定かでない。それより、もっと世間にて広く呼ばれていた名前があったはず。……えっと、確か……あっ!
「――突然の来訪、どうかお許しくださいませ。私こそは、輝く日の宮と申します」
「自分で言っちゃうの!?」
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