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不可解な申し出?
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「……賀茂祭、でしょうか。今のところ、そちらに赴く予定はありませんが……ですが、何故そのような申し出を?」
そう言うと、ありありと怪訝の察せられる声音で尋ねる六条さん。まあ、それはそうだろう。逆の立場なら、私だってそうなるだろうし。
ただ、私とて何もおふざけでこんな申し出をしているわけじゃない。と言うのも――
「……突然、こんなことをお伝えしても信じていただけないでしょうけど……金輪際、貴女の生霊による被害者を出さないためです……六条さま」
「……っ!?」
そう告げると、襖の向こうでハッと息を呑む音が微かに届く。本作では、葵の上に取り憑いた辺りで自覚――自身が生霊となって出向いた自覚が出てきたように思うけど……だけど、無意識であれ夕顔の際も覚えがあるかもと勝手に推測していたが……どうやら、強ち的外れでもなかったようで。
「……ですが、仮に……本当に仮に、そのお話が事実であったとして……それと、賀茂祭とどのような関連があるのでしょう?」
すると、ややあって少し躊躇うような口調でそう問い掛ける六条さん。まあ、至極尤もな疑問だろう。
だけど、当然ながら全く脈絡がなければこんな話はしないわけで。と言うのも――ある春の日、平時以上に立派に着飾る源ちゃんを目にすべく六条さん御一行は賀茂祭へと赴いた。
すると、そんな折――源ちゃんの正妻たる葵の上御一行の車と鉢合わせし、立場の違いゆえ六条さん御一行の車は押し退けられてしまうこととなる。そして、その際に生じた怨念が葵の上に取り憑くきっかけに――みたいなことが、確か本作にて描かれていたはずで。
尤も、この一幕は現在から数年ほど後のことなんだけど……まあ、あの神様のことだ。いつ何時、サクッと時短しやがるか分かったものじゃない。なので、伝えるのに早すぎるということはないわけで。
ただ、それはともあれ……さて、何と答えるべきか。そのまま事実を伝えても、恐らくは彼女を不快にさせるだけ――納得してもらうなど、まず皆無と言って差し支えない。そもそも、彼女からすればなんで藤壺に未来のことなど分かるのかという話だろうし。……うん、いっそのこと祭り当日に妨害工作でも――
……いや、必要ないか。きっと、ここで伝えるべきことは――
「……不審に思われるのも尤もなことです、六条さま。私自身、そのような申し出をしている自覚は十二分にございます」
「……でしたら、何故――」
「――それでも、お伝えしないわけにはいきませんでした。でないと、貴女も――そして、貴女の愛する源氏の君も、底知れぬ深い悲しみに沈んでしまうことになるからです」
「……っ!!」
そう、なるたけ声音に重みを込めて伝える。すると、再び息を呑む音が仄かに届いて。
それからほどなく、襖越しに挨拶を述べそっと立ち上がる。……うん、きっと大丈夫。そもそも、藤壺が今夜こうして彼女の下を訪れていること自体、この上もなく異常――そして、相応の危険を伴う。そこまでして伝えに来た申し出が、如何に重大であるか――聡明な彼女なら、きっと理解してくれると信じている。よしんば理解されずとも、源ちゃんが悲しむとあらば――
――ところで……うん、きっと大丈夫。大丈夫だとは思うのだけども……まあ、念には念を――
「――ときに、六条さま。露ほどの心配もないとは存じますが……万が一にも、今件を外部に洩らすようなことがあれば――その時は、お分かりですよね?」
「めっちゃ怖いんだけどこの人!!」
そう言うと、ありありと怪訝の察せられる声音で尋ねる六条さん。まあ、それはそうだろう。逆の立場なら、私だってそうなるだろうし。
ただ、私とて何もおふざけでこんな申し出をしているわけじゃない。と言うのも――
「……突然、こんなことをお伝えしても信じていただけないでしょうけど……金輪際、貴女の生霊による被害者を出さないためです……六条さま」
「……っ!?」
そう告げると、襖の向こうでハッと息を呑む音が微かに届く。本作では、葵の上に取り憑いた辺りで自覚――自身が生霊となって出向いた自覚が出てきたように思うけど……だけど、無意識であれ夕顔の際も覚えがあるかもと勝手に推測していたが……どうやら、強ち的外れでもなかったようで。
「……ですが、仮に……本当に仮に、そのお話が事実であったとして……それと、賀茂祭とどのような関連があるのでしょう?」
すると、ややあって少し躊躇うような口調でそう問い掛ける六条さん。まあ、至極尤もな疑問だろう。
だけど、当然ながら全く脈絡がなければこんな話はしないわけで。と言うのも――ある春の日、平時以上に立派に着飾る源ちゃんを目にすべく六条さん御一行は賀茂祭へと赴いた。
すると、そんな折――源ちゃんの正妻たる葵の上御一行の車と鉢合わせし、立場の違いゆえ六条さん御一行の車は押し退けられてしまうこととなる。そして、その際に生じた怨念が葵の上に取り憑くきっかけに――みたいなことが、確か本作にて描かれていたはずで。
尤も、この一幕は現在から数年ほど後のことなんだけど……まあ、あの神様のことだ。いつ何時、サクッと時短しやがるか分かったものじゃない。なので、伝えるのに早すぎるということはないわけで。
ただ、それはともあれ……さて、何と答えるべきか。そのまま事実を伝えても、恐らくは彼女を不快にさせるだけ――納得してもらうなど、まず皆無と言って差し支えない。そもそも、彼女からすればなんで藤壺に未来のことなど分かるのかという話だろうし。……うん、いっそのこと祭り当日に妨害工作でも――
……いや、必要ないか。きっと、ここで伝えるべきことは――
「……不審に思われるのも尤もなことです、六条さま。私自身、そのような申し出をしている自覚は十二分にございます」
「……でしたら、何故――」
「――それでも、お伝えしないわけにはいきませんでした。でないと、貴女も――そして、貴女の愛する源氏の君も、底知れぬ深い悲しみに沈んでしまうことになるからです」
「……っ!!」
そう、なるたけ声音に重みを込めて伝える。すると、再び息を呑む音が仄かに届いて。
それからほどなく、襖越しに挨拶を述べそっと立ち上がる。……うん、きっと大丈夫。そもそも、藤壺が今夜こうして彼女の下を訪れていること自体、この上もなく異常――そして、相応の危険を伴う。そこまでして伝えに来た申し出が、如何に重大であるか――聡明な彼女なら、きっと理解してくれると信じている。よしんば理解されずとも、源ちゃんが悲しむとあらば――
――ところで……うん、きっと大丈夫。大丈夫だとは思うのだけども……まあ、念には念を――
「――ときに、六条さま。露ほどの心配もないとは存じますが……万が一にも、今件を外部に洩らすようなことがあれば――その時は、お分かりですよね?」
「めっちゃ怖いんだけどこの人!!」
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