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青海波
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「……わぁ、すっごい……」
「ふふっ、そうだね女御。私も、今とても感動しているよ」
それから、月日は経て十月へ。
庭園にて、思わず感嘆の声が洩れる。そして、そんな私に深い共感の伝わる微笑で告げる帝。
さて、そんな私達の視線の先には、相変わらずの美青年――こういった素養の乏しい私でも、思わず息を呑むほどの優雅な舞を披露する源ちゃんの姿が。
「……あの、女御さま。その……どうでしたか、私の舞は」
「うん、すっごく良かったよ源ちゃん。ほんと、感動しちゃったもん」
「……っ!? あ、ありがとうございます女御さま!」
その後、暫しして私の下へと感想を尋ねに来る源ちゃん。尤も、以前――あの幼少の頃とは違い、トコトコと駆け寄ってくる感じではないけど……それでも、やっぱり何処かあどけなさは残っていて……まあ、私だからそう思うだけかもしれないけど。
さて、そんな可愛い可愛い源ちゃんが先ほど披露していたのは青海波――舞楽の中において最も華麗優雅とされる、唐の国より伝来した雅楽で。確かに、本作においても甚く感動的との描写がなされていたけど……うん、実際この目にすると、本当に心に沁み入――
「……あの、女御さま。その……いえ、何でもありません」
「……そっか」
すると、不意に恐る恐るといった様子で何かを口にするも、自身で引き下げてしまう源ちゃん。……まあ、おおかた予想はつくんだけどね。
「――聞くまでもないかもしれないけど、今日の催しはどうだったかな、女御」
「はい、大変素晴らしかったです」
「そうか、それなら本当に良かった」
その日の夜のこと。
清涼殿の寝所にて、温和な微笑でそう口にする帝。もちろん、お世辞などではなく本心から素晴らしいと思っている。おいそれと逢うことは叶わないものの、成長を重ねる源ちゃんを間近に感じ、こうして帝からも深い愛情を享受する日々――大変なこともあるけど、十分に満ち足りた日々と言えよう。正直、現代にいたときより遥かに幸せで。
――――なのに。
「……あの、帝さま。その……大変、申し訳無いのですが、実は源ちゃ――いえ、源氏の君と関係を持ってしまいました」
「…………へっ?」
唐突が過ぎる私の告白に、ポカンと呆気に取られた様子の帝。……うん、至極当然の反応……なにせ、他の男性――それも、よもや彼にとって実の息子たる男性との情事なのだから。
――そして、もちろんこれは真っ赤な嘘。そもそも、それが事実なら私は――少なくとも、藤壺としての私は既にこの世界にいないわけで。
……まあ、真っ赤と言っても全く以て何の脈絡もない嘘でもなく。実際、源ちゃんのからのそういう接近も幾度かあったし、本作では実際この時期には既にそういう関係になっている。
だけど、私は拒んでいた。彼の愛情を知ってる身ゆえ些かなりとも心苦しくはあったが、それでも全て拒んでいた。だからこそ、本作の藤壺とは違い、心穏やかに今日の舞を眺められたわけだし。……なのに、なんでこんな――
「…………そうか。いや、謝る必要はないよ。こちらこそ、本当に申し訳ない。そして……勇気を出して話してくれてありがとう、女御」
「ふふっ、そうだね女御。私も、今とても感動しているよ」
それから、月日は経て十月へ。
庭園にて、思わず感嘆の声が洩れる。そして、そんな私に深い共感の伝わる微笑で告げる帝。
さて、そんな私達の視線の先には、相変わらずの美青年――こういった素養の乏しい私でも、思わず息を呑むほどの優雅な舞を披露する源ちゃんの姿が。
「……あの、女御さま。その……どうでしたか、私の舞は」
「うん、すっごく良かったよ源ちゃん。ほんと、感動しちゃったもん」
「……っ!? あ、ありがとうございます女御さま!」
その後、暫しして私の下へと感想を尋ねに来る源ちゃん。尤も、以前――あの幼少の頃とは違い、トコトコと駆け寄ってくる感じではないけど……それでも、やっぱり何処かあどけなさは残っていて……まあ、私だからそう思うだけかもしれないけど。
さて、そんな可愛い可愛い源ちゃんが先ほど披露していたのは青海波――舞楽の中において最も華麗優雅とされる、唐の国より伝来した雅楽で。確かに、本作においても甚く感動的との描写がなされていたけど……うん、実際この目にすると、本当に心に沁み入――
「……あの、女御さま。その……いえ、何でもありません」
「……そっか」
すると、不意に恐る恐るといった様子で何かを口にするも、自身で引き下げてしまう源ちゃん。……まあ、おおかた予想はつくんだけどね。
「――聞くまでもないかもしれないけど、今日の催しはどうだったかな、女御」
「はい、大変素晴らしかったです」
「そうか、それなら本当に良かった」
その日の夜のこと。
清涼殿の寝所にて、温和な微笑でそう口にする帝。もちろん、お世辞などではなく本心から素晴らしいと思っている。おいそれと逢うことは叶わないものの、成長を重ねる源ちゃんを間近に感じ、こうして帝からも深い愛情を享受する日々――大変なこともあるけど、十分に満ち足りた日々と言えよう。正直、現代にいたときより遥かに幸せで。
――――なのに。
「……あの、帝さま。その……大変、申し訳無いのですが、実は源ちゃ――いえ、源氏の君と関係を持ってしまいました」
「…………へっ?」
唐突が過ぎる私の告白に、ポカンと呆気に取られた様子の帝。……うん、至極当然の反応……なにせ、他の男性――それも、よもや彼にとって実の息子たる男性との情事なのだから。
――そして、もちろんこれは真っ赤な嘘。そもそも、それが事実なら私は――少なくとも、藤壺としての私は既にこの世界にいないわけで。
……まあ、真っ赤と言っても全く以て何の脈絡もない嘘でもなく。実際、源ちゃんのからのそういう接近も幾度かあったし、本作では実際この時期には既にそういう関係になっている。
だけど、私は拒んでいた。彼の愛情を知ってる身ゆえ些かなりとも心苦しくはあったが、それでも全て拒んでいた。だからこそ、本作の藤壺とは違い、心穏やかに今日の舞を眺められたわけだし。……なのに、なんでこんな――
「…………そうか。いや、謝る必要はないよ。こちらこそ、本当に申し訳ない。そして……勇気を出して話してくれてありがとう、女御」
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