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決断
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――それから、歳月は経過して。
「……そろそろ、だよね」
六条院の春の町――その一室にて、一人そんな呟きを洩らす。この期間、いろんなことが変わった。桐壺帝と藤壺――実際には源ちゃんと藤壺の息子が冷泉帝として即位したり、明石の君の娘がすっかり成長し東宮の妻になったり。
……まあ、変わったと言っても、それはやはりと言うか……まあ、ほぼ時短の間に行われていたことで。具体的には、優に十年以上が経過した時短の間に。
とは言え、今回は彼の須磨行きが決まった時のように大きく飛んだわけでなく、わりと小刻みに飛んでは飛んで……うん、こっちの方が面倒くせえな。
だけど……今回は、今回ばかりはあの神様の気まぐれというわけでもない気がして。……むしろ、今回はたぶん――
「――少し良いかい、紫の君」
そんな思考の中、静かに襖が開き重々しい声が届く。視線を向けると、そこには声音に違わぬ深刻な表情の美男子――齢40を迎えた源ちゃんの姿が。もはや年齢と呼び方が合ってないかもしれないけど……まあ、私にとってはこれしかないし。まあ、それはともあれ――
「……それで、如何なさいましたか? 源氏の君」
そう、彼の言葉に答える形で尋ねる。……まあ、言わなくても分かるけどね。
すると、深刻な表情のまま頷く源ちゃん。それから、ゆっくりと口を開いて――
「……どうか……どうか、不快に思わず聞いてほしいのだけど……この度、朱雀院の姫君を六条院へお迎えすることとなった」
そう、真っ直ぐに話す源ちゃんを無言で見つめる私。まあ、やっぱりそうだよね。
さて、朱雀院の姫君とは女三の宮――突如、源ちゃんの正妻となった14才の女の子。そしてまさしく今、彼はその件について話していて――
「……その、言い訳がましくはなるが、私はお断りする所存だったのだ。だけど……ご病気のためか、院があまりにも弱られていてね。そのような状態で、頼る者が私しかいないと仰せられて、それで……」
すると、私の反応をどう解釈したのか、少し覚束ない口調で事情を説明する源ちゃん。まあ、当然のこと事情も分かってるんだけどね。
……まあ、それはともあれ返事を。今一度、改めて彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。そして――
「……どうか、お謝りにならないでください。他ならぬ朱雀院さまのご要望なのです。お断りできようはずなどないことは、不束者の私でも承知しております」
「……紫の君」
そう伝えると、少し驚いた様子で呟く源ちゃん。怒ると思ったのかな? まあ、そう考える方が自然かも。
「……さて」
「……紫の君?」
思わず、そんな言葉が洩れる。……まあ、分かってはいたけど……うん、やっぱりそうみたい。軽く首を傾げる源ちゃんへ、徐に口を開いて言った。
「……お願いがあります、源氏の君。どうか――私に、出家の許可を頂けませんか?」
「……そろそろ、だよね」
六条院の春の町――その一室にて、一人そんな呟きを洩らす。この期間、いろんなことが変わった。桐壺帝と藤壺――実際には源ちゃんと藤壺の息子が冷泉帝として即位したり、明石の君の娘がすっかり成長し東宮の妻になったり。
……まあ、変わったと言っても、それはやはりと言うか……まあ、ほぼ時短の間に行われていたことで。具体的には、優に十年以上が経過した時短の間に。
とは言え、今回は彼の須磨行きが決まった時のように大きく飛んだわけでなく、わりと小刻みに飛んでは飛んで……うん、こっちの方が面倒くせえな。
だけど……今回は、今回ばかりはあの神様の気まぐれというわけでもない気がして。……むしろ、今回はたぶん――
「――少し良いかい、紫の君」
そんな思考の中、静かに襖が開き重々しい声が届く。視線を向けると、そこには声音に違わぬ深刻な表情の美男子――齢40を迎えた源ちゃんの姿が。もはや年齢と呼び方が合ってないかもしれないけど……まあ、私にとってはこれしかないし。まあ、それはともあれ――
「……それで、如何なさいましたか? 源氏の君」
そう、彼の言葉に答える形で尋ねる。……まあ、言わなくても分かるけどね。
すると、深刻な表情のまま頷く源ちゃん。それから、ゆっくりと口を開いて――
「……どうか……どうか、不快に思わず聞いてほしいのだけど……この度、朱雀院の姫君を六条院へお迎えすることとなった」
そう、真っ直ぐに話す源ちゃんを無言で見つめる私。まあ、やっぱりそうだよね。
さて、朱雀院の姫君とは女三の宮――突如、源ちゃんの正妻となった14才の女の子。そしてまさしく今、彼はその件について話していて――
「……その、言い訳がましくはなるが、私はお断りする所存だったのだ。だけど……ご病気のためか、院があまりにも弱られていてね。そのような状態で、頼る者が私しかいないと仰せられて、それで……」
すると、私の反応をどう解釈したのか、少し覚束ない口調で事情を説明する源ちゃん。まあ、当然のこと事情も分かってるんだけどね。
……まあ、それはともあれ返事を。今一度、改めて彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。そして――
「……どうか、お謝りにならないでください。他ならぬ朱雀院さまのご要望なのです。お断りできようはずなどないことは、不束者の私でも承知しております」
「……紫の君」
そう伝えると、少し驚いた様子で呟く源ちゃん。怒ると思ったのかな? まあ、そう考える方が自然かも。
「……さて」
「……紫の君?」
思わず、そんな言葉が洩れる。……まあ、分かってはいたけど……うん、やっぱりそうみたい。軽く首を傾げる源ちゃんへ、徐に口を開いて言った。
「……お願いがあります、源氏の君。どうか――私に、出家の許可を頂けませんか?」
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