46 / 48
願い
しおりを挟む
「…………ここ、は……?」
目を覚ますと、視界には一面に広がる白。でも、天井じゃない。じゃあ、空……うん、でもない気が。何と言うか……なんか、ちょっと眩し――
「――おお、目を覚ましたか帆弥よ」
「…………へ?」
すると、不意に視界へと入りそう口にする七福神似の神様。……いや、神が神に似てるっていうのもなんかややこしいけど……まあ、それはともあれ――
「……もう、ゲームオーバーなんだね」
そう、か細い声で尋ねる。すると、神様は何処か柔らかな微笑で頷いた。
「――まあ、ほんとは最後まで続けてもらっても良かったんじゃが……じゃが、正直やる気起きんじゃろ?」
「……ははっ」
そんな神様の問いに、思わず笑ってしまう。うん、それは確かに。最後までというのは、恐らく最後のヒロイン――浮舟までということだろうけど……うん、正直やる気起きないよね。もう、二人ともいない世界でどうやる気を起こせという話だし。
「じゃが、残念じゃのう。折角、紫の上が光源氏を看取るところまで見られると思――」
「いやその頃にはいないでしょ」
いやその頃にはいないでしょ、紫の上。本作より長生きしちゃってるじゃん。……まあ、神様ならやりかねんけど。
――まあ、それはそれとして。
「……でも、ごめんね神様。なんか、随分と早くゲームオーバーになっちゃって」
そう、軽く微笑み告げる。そう、本来なら紫の上が出家を申し出るのは恐らく随分と後。なのに、この大それたフライング……流石に、ガッカリさせちゃったか――
「――ああ、それなら気にするでない。恐らくは、あの時点でそうなるじゃろうと思っておったし」
「……そっか」
すると、何処か穏やかな微笑で答える神様。……うん、やっぱ分かってたんだ。そして、その理由もきっと――
「――お主は、気付いてしま……いや、とうに分かっていたのじゃろう? 自分が、もう誰も愛せないであろうことを」
彼の言葉に、軽く口を結ぶ私。……ふう、やっぱ気付いてたか。まあ、一応は神様――いち人間の心中など、軽くお見通しということかな。
ただ、一応断っておくと誰も――例えば、源ちゃんを愛していないというわけじゃない。むしろ、溺愛してると言っても何ら差し支えない。
だけど、それは恐らく息子に対し母親が抱く類の愛情で、本作にて紫の上が源氏の君に抱く愛情とはまるで違う。そして、彼《か》の二件――明石の君、そして女三の宮の件で確信した。――今後も、そういうふうに彼を想うことはないのだと。
そして、それが分かればあの言動――私自身、相当に不可解だった藤壺の頃の言動もおおかた理解が出来てきて。
――私は、嫉妬していたんだ。
……嫉妬? 誰に? だって、藤壺は愛されてた。それこそ、これ以上ないほどに深く愛されてた。実際、数多いる后の中でも藤壺ほど愛されてた人はいないと断言出来る。――そう、あの時にいた后の中では。
とは言え……うん、我ながらほんと馬鹿なことしたもんだよ。あんなことしたって、もう――
「――さて、帆弥よ。最後に、一つ願いを叶えてやろうぞ」
「…………へ?」
すると、不意に届いた思い掛けない申し出にポカンと口を開く私。……えっと、願い? なんで?
「お主には、随分と楽しませてもらったからのう。この誉れ高きわしからの、ちょっとしたお礼じゃと思ってもらえば良い。
……まあ、願いと言ってもあくまでこの世界――源氏物語の世界にて、ある一部分を書き換えるとかそういった話でしかないのじゃが。そうじゃな……例えば、ある人物の位を大きく引き上げるとか」
「……いや、アリなのそれ?」
そう、何とも白々しい口調で話す神様につい可笑しくなってしまう。いや、アリなのそれ? まあ、無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけど。……ただ、それはそれとして――
「……最後、か。やっぱり、もうお別れなんだね」
「おや、なんじゃ淋しいのかほのみん? わしとお別れするのが」
「……まあ、わりとね」
「……へっ?」
素直にそう答えると、ポカンと呆気に取られた様子の神様。まあ、最後だしね。少しくらい素直にもな――
「……ふ、ふん。わしは淋しくなんてない、淋しくなんてないんじゃ!」
すると、どうしてか私に背を向けそんなことを宣う神様。心做しか、その声は何処か湿りを帯びて……いや、なんのツンデレだよ。まあ、それはともあれ――
「……それじゃ、折角だし最後に聞いてもらおっかな。もしかしたら、思ってた以上に無茶なお願いかもしれないけど」
目を覚ますと、視界には一面に広がる白。でも、天井じゃない。じゃあ、空……うん、でもない気が。何と言うか……なんか、ちょっと眩し――
「――おお、目を覚ましたか帆弥よ」
「…………へ?」
すると、不意に視界へと入りそう口にする七福神似の神様。……いや、神が神に似てるっていうのもなんかややこしいけど……まあ、それはともあれ――
「……もう、ゲームオーバーなんだね」
そう、か細い声で尋ねる。すると、神様は何処か柔らかな微笑で頷いた。
「――まあ、ほんとは最後まで続けてもらっても良かったんじゃが……じゃが、正直やる気起きんじゃろ?」
「……ははっ」
そんな神様の問いに、思わず笑ってしまう。うん、それは確かに。最後までというのは、恐らく最後のヒロイン――浮舟までということだろうけど……うん、正直やる気起きないよね。もう、二人ともいない世界でどうやる気を起こせという話だし。
「じゃが、残念じゃのう。折角、紫の上が光源氏を看取るところまで見られると思――」
「いやその頃にはいないでしょ」
いやその頃にはいないでしょ、紫の上。本作より長生きしちゃってるじゃん。……まあ、神様ならやりかねんけど。
――まあ、それはそれとして。
「……でも、ごめんね神様。なんか、随分と早くゲームオーバーになっちゃって」
そう、軽く微笑み告げる。そう、本来なら紫の上が出家を申し出るのは恐らく随分と後。なのに、この大それたフライング……流石に、ガッカリさせちゃったか――
「――ああ、それなら気にするでない。恐らくは、あの時点でそうなるじゃろうと思っておったし」
「……そっか」
すると、何処か穏やかな微笑で答える神様。……うん、やっぱ分かってたんだ。そして、その理由もきっと――
「――お主は、気付いてしま……いや、とうに分かっていたのじゃろう? 自分が、もう誰も愛せないであろうことを」
彼の言葉に、軽く口を結ぶ私。……ふう、やっぱ気付いてたか。まあ、一応は神様――いち人間の心中など、軽くお見通しということかな。
ただ、一応断っておくと誰も――例えば、源ちゃんを愛していないというわけじゃない。むしろ、溺愛してると言っても何ら差し支えない。
だけど、それは恐らく息子に対し母親が抱く類の愛情で、本作にて紫の上が源氏の君に抱く愛情とはまるで違う。そして、彼《か》の二件――明石の君、そして女三の宮の件で確信した。――今後も、そういうふうに彼を想うことはないのだと。
そして、それが分かればあの言動――私自身、相当に不可解だった藤壺の頃の言動もおおかた理解が出来てきて。
――私は、嫉妬していたんだ。
……嫉妬? 誰に? だって、藤壺は愛されてた。それこそ、これ以上ないほどに深く愛されてた。実際、数多いる后の中でも藤壺ほど愛されてた人はいないと断言出来る。――そう、あの時にいた后の中では。
とは言え……うん、我ながらほんと馬鹿なことしたもんだよ。あんなことしたって、もう――
「――さて、帆弥よ。最後に、一つ願いを叶えてやろうぞ」
「…………へ?」
すると、不意に届いた思い掛けない申し出にポカンと口を開く私。……えっと、願い? なんで?
「お主には、随分と楽しませてもらったからのう。この誉れ高きわしからの、ちょっとしたお礼じゃと思ってもらえば良い。
……まあ、願いと言ってもあくまでこの世界――源氏物語の世界にて、ある一部分を書き換えるとかそういった話でしかないのじゃが。そうじゃな……例えば、ある人物の位を大きく引き上げるとか」
「……いや、アリなのそれ?」
そう、何とも白々しい口調で話す神様につい可笑しくなってしまう。いや、アリなのそれ? まあ、無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけど。……ただ、それはそれとして――
「……最後、か。やっぱり、もうお別れなんだね」
「おや、なんじゃ淋しいのかほのみん? わしとお別れするのが」
「……まあ、わりとね」
「……へっ?」
素直にそう答えると、ポカンと呆気に取られた様子の神様。まあ、最後だしね。少しくらい素直にもな――
「……ふ、ふん。わしは淋しくなんてない、淋しくなんてないんじゃ!」
すると、どうしてか私に背を向けそんなことを宣う神様。心做しか、その声は何処か湿りを帯びて……いや、なんのツンデレだよ。まあ、それはともあれ――
「……それじゃ、折角だし最後に聞いてもらおっかな。もしかしたら、思ってた以上に無茶なお願いかもしれないけど」
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる