どういうわけか源氏物語の世界に迷い込んだ私ですが……とにかく、幸せになるべく奮闘します!

暦海

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願い

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「…………ここ、は……?」


 目を覚ますと、視界そこには一面に広がる白。でも、天井じゃない。じゃあ、空……うん、でもない気が。何と言うか……なんか、ちょっと眩し――


「――おお、目を覚ましたか帆弥ほのみよ」

「…………へ?」

 すると、不意に視界へと入りそう口にする七福神似の神様。……いや、神が神に似てるっていうのもなんかややこしいけど……まあ、それはともあれ――


「……もう、ゲームオーバーなんだね」

 そう、か細い声で尋ねる。すると、神様は何処か柔らかな微笑で頷いた。



「――まあ、ほんとは最後まで続けてもらっても良かったんじゃが……じゃが、正直やる気起きんじゃろ?」 
「……ははっ」

 そんな神様の問いに、思わず笑ってしまう。うん、それは確かに。最後までというのは、恐らく最後のヒロイン――浮舟うきふねまでということだろうけど……うん、正直やる気起きないよね。もう、二人ともいない世界でどうやる気を起こせという話だし。

「じゃが、残念じゃのう。折角、紫の上おぬし光源氏ひかるげんじを看取るところまで見られると思――」
「いやその頃にはいないでしょ」

 いやその頃にはいないでしょ、紫の上わたし。本作より長生きしちゃってるじゃん。……まあ、神様こやつならやりかねんけど。


 ――まあ、それはそれとして。

「……でも、ごめんね神様。なんか、随分と早くゲームオーバーになっちゃって」

 そう、軽く微笑み告げる。そう、本来ならむらさきうえが出家を申し出るのは恐らく随分と後。なのに、このだいそれたフライング……流石に、ガッカリさせちゃったか――

「――ああ、それなら気にするでない。恐らくは、あの時点でそうなるじゃろうと思っておったし」
「……そっか」

 すると、何処か穏やかな微笑で答える神様。……うん、やっぱ分かってたんだ。そして、その理由もきっと――


「――お主は、気付いてしま……いや、とうに分かっていたのじゃろう? 自分が、もう誰も愛せないであろうことを」


 彼の言葉に、軽く口を結ぶ私。……ふう、やっぱ気付いてたか。まあ、一応は神様――いち人間の心中など、軽くお見通しということかな。

 ただ、一応断っておくと誰も――例えば、げんちゃんを愛していないというわけじゃない。むしろ、溺愛してると言っても何ら差し支えない。
 だけど、それは恐らく息子に対し母親が抱く類の愛情もので、本作にて紫の上が源氏げんじきみに抱く愛情それとはまるで違う。そして、彼《か》の二件――明石あかしきみ、そして女三おんなさんみやの件で確信した。――今後も、そういうふうに彼を想うことはないのだと。


 そして、それが分かればあの言動――私自身、相当に不可解だった藤壺ふじつぼの頃の言動もおおかた理解が出来てきて。


 ――私は、嫉妬していたんだ。


 ……嫉妬? 誰に? だって、藤壺わたしは愛されてた。それこそ、これ以上ないほどに深く愛されてた。実際、数多いる后の中でも藤壺わたしほど愛されてた人はいないと断言出来る。――そう、后の中では。

 とは言え……うん、我ながらほんと馬鹿なことしたもんだよ。あんなことしたって、もう――


「――さて、帆弥よ。最後に、一つ願いを叶えてやろうぞ」
「…………へ?」

 すると、不意に届いた思い掛けない申し出にポカンと口を開く私。……えっと、願い? なんで?

「お主には、随分と楽しませてもらったからのう。この誉れ高きわしからの、ちょっとしたお礼じゃと思ってもらえば良い。
 ……まあ、願いと言ってもあくまでこの世界――源氏物語の世界にて、ある一部分を書き換えるとかそういった話でしかないのじゃが。そうじゃな……例えば、ある人物の位を大きく引き上げるとか」
「……いや、アリなのそれ?」

 そう、何とも白々しい口調で話す神様につい可笑しくなってしまう。いや、アリなのそれ? まあ、無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけど。……ただ、それはそれとして――


「……最後、か。やっぱり、もうお別れなんだね」
「おや、なんじゃ淋しいのかほのみん? わしとお別れするのが」
「……まあ、わりとね」
「……へっ?」

 素直にそう答えると、ポカンと呆気に取られた様子の神様。まあ、最後だしね。少しくらい素直にもな――

「……ふ、ふん。わしは淋しくなんてない、淋しくなんてないんじゃ!」

 すると、どうしてか私に背を向けそんなことを宣う神様。心做しか、その声は何処か湿りを帯びて……いや、なんのツンデレだよ。まあ、それはともあれ――


「……それじゃ、折角だし最後に聞いてもらおっかな。もしかしたら、思ってた以上に無茶なお願いかもしれないけど」

 

 

 

 


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