噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?

暦海

文字の大きさ
9 / 30

思わぬ申し出?

しおりを挟む
「ところで、先輩は普段お菓子作りとかなさいます?」
「……うーん、そうですね。和菓子なら少し」
「ああ、なんかそういうイメージはあります。先輩、茶道部ですし」


 そんなやり取りを交わしつつ、卵、砂糖、バター、薄力粉、ココアパウダーなどの準備をする私達。材料からお察しかもしれませんが、これから作るのはクッキーです。理由は……まあ、先輩が以前美味しいと言ってくれたからで。

 それと、もう一つ挙げるとすれば……どちらかと言えば、先輩は和のイメージ――こういった洋菓子は、あまり作ったことはないかと。実際、先ほどの彼の返答もおおかた予想通りのものでしたし。なので……ここで改めて私がその技量をお見せすれば、必ずや先輩は私の魅力に気付くはずなのです。


 ――それから、およそ二時間経て。


「……ねえ、外崎とざき先輩」
「ん? どうかなさいましたか八雲やくもさん」


 外崎先輩――そして、先輩の手前を交互に見ながら呟く私。正確には、先輩の手前にある非常に色の良いクッキーを。……うん、なんか前にも似たようなことがあった気が。気がしますが――


「――いやだからめっちゃ上手いじゃないですか!!」




「…………へっ? 僕が、ですか……?」
「いやもういいわそのパターン!! 実は意外と不器用で真っ黒に焦がしちゃった先輩に、私が『おやおや、仕方ないですね~』なんて言って優しく手取り足取り教えて差し上げるという完璧なプランが台無しではありませんか!!」
「そんな馬鹿みたいなプランあったの!?」

 そんな心からの叫びに、ありありと目を見開きツッコミを入れる外崎先輩。先輩がツッコミ側に回るとは何とも珍しく、彼の新しい一面を見られたことは良しとしますが……うん、分かってはいたものの、やっぱり器用ですね先輩。……あと、今しれっと馬鹿みたいとか言いました?

 ……ただ、そうは言っても――

「……ですが、先輩。肝心なのは、やはりお味です。人と同じで、いくら見た目が良くても中身が伴わなければ意味が…………うん、美味しい」
「……そうですか、それは良かった」

 彼のクッキーを口へと含みそう伝えると、ほっと安堵した微笑を浮かべる外崎先輩。……うん、美味しい。まあ、好みの問題もあるとはいえこの見た目で美味しくなかったら逆に奇跡的ですし。

 ともあれ、ご自身でも是非という私の勧めに応じ、控えめにクッキーを口へと含む先輩。まあ、ご自身で作ったものですし、おおかた味の予想は出来るかもしれませんが――


「……そうですね。やはり、以前八雲さんが作ってくれたクッキーの方が断然美味しいですね。是非、お一つ頂いても宜しいですか?」
「……先輩」

 すると、柔らかな微笑でそう口にする外崎先輩。お世辞……というわけではなさそうですね。これでも、一応は恋人――それくらいは、そろそろ私にも判別できるようになってきたつもりですし。なので――


「――はい、一つと言わずいくつでも!」




「――ありがとうございます、八雲さん。今日も、本当に楽しかったです」
「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです、外崎先輩。こちらこそ、本当に楽しかったです」

 それから、数十分後。
 玄関にて、いつもの柔らかな微笑でそう告げてくださる外崎先輩。正直、私としてはまだまだもの足りない気持ちはあるのですが……もう、外はすっかり黄昏色。遅くまで他人ひと様の家に残ることを良しとしない人ですからね、先輩は。

 もちろん、それが他人ひと様に迷惑を掛けないようにという彼の配慮であることは重々承知しているのですが……ですが、こちらとしては何一つとして迷惑などないのですけどね。それこそ、泊まっていってくださっても……まあ、流石に言いませんけどね。警戒されたり――ましてや、嫌われたりしてしまった日には生きていける気がしないですし。

 ……ところで、それはそれとして――

「……あの、外崎先輩、その……」
「ん、どうかしましたか八雲さん」
「……あ、いえ、その……その、お気をつけて帰ってくださいね!」
「……はい、ありがとうございます八雲さん」

 何ともたどたどしくそう伝えると、仄かに微笑み謝意を告げる外崎先輩。……いったい、何を言おうと……いえ、何をしようとしたのでしょう、私は。そんな困惑の中、伸ばしかけた手をそっと戻し――


「……その、八雲さん。その、もし宜しければ……今度は、僕の家に来ませんか?」

「…………へっ?」


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...