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資格
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その後も、舞衣さんとの関係は続きました。時おり彼女のお宅に呼ばれては、この身体を差し出すという歪な関係は続きました。……本当に、どうして僕のような貧弱な身体をお求めになるのか、未だに不思議でなりませんが。
ですが、彼女の要望とあらば応えないわけにはいきません。さもなくば、彼女はすぐにでもお父さま――社長さんに、父の降格を願い出るでしょう。そうなれば、あの優しい父はきっと酷く自分を責め……それだけは、なんとしても避けなければなりませんから。
――すると、半年ほど経過した冬の頃でした。ある日を境に、舞衣さんからの連絡が一切なくなりました。そして、それは即ち、彼女との例の関係がなくなったということで。
……ですが、どうしてでしょう? その後も、会社での父の地位はそのまま。例の大幅な昇進後のままなのです。……ですが、当然ながら連絡がなくなって以降は身体を差し出していません。なのに、どうして――
……いえ、考え過ぎかもしれませんね。単に、彼女が僕に飽きただけ――そのような方向で考えるのが、最も妥当なように思えますし。そして地位に関しては、父の能力を社長さんが改めて認識し、降格の必要などないと判断してくださったのでしょう。いえ、もしかするとあの昇進自体、本当は社長さんご自身が父を評価してくださった上での判断だったかもしれません。
ともあれ、そういうことでしたら何の問題もありません。僕は彼女から解放され、父が自身を責めることもない。なので、これからも家族三人楽しく穏やかな日々を紡いでいける――そう、思っていました。
『……あの、外崎くん。受験前の大切な時期に、迷惑かなとは思ったんだけど……私、外崎くんのことが好きです! だから、その……もし良かったら、付き合ってくれないかな?』
『……藤川さん』
中学三年の、ある春の日のこと。
放課後の教室にて、僕の目を真っ直ぐに見つめそう口にする女子生徒。彼女は藤川さん――昨年からのクラスメイトで、読書など趣味の合う友人です。
……ですが、正直のところ困っています。ご自身の大切な想いを告げてくださったのに、困るなどという態度は良くないと承知していますが……それでも、友人からの告白となると、友人でない方以上にどうお断りすべきかと思い倦ねてしまいまして。
『……あの、外崎くん。その、もし悩んでくれてるのなら、最初はお試しとかでも良いんだよ? とりあえず試しに付き合ってみて……それで、そのうち私のことを好きになってくれたら……』
『……藤川さん』
すると、僕の逡巡をそう解釈したようで、躊躇いがちに提案をなさる藤川さん。……いえ、申し訳ないのですが、返答の内容そのものに悩んでいたわけでは――
――そこで、ふと別の思考が過る。特別な好意がなければ、お断りしなければならない――ずっと、そのように考えていましたが……ひょっとして、必ずしもそうではないのでしょうか? 僕自身、彼女に対し友人として好意を抱いています。ならば、彼女の言うように、お付き合いの中で特別な好意へと変わっていく可能性は十分にあるのではないでしょうか? そして、彼女もそれを望んでくれていて……うん、それなら――
『――――っ!!』
『……あの、どうかした? 外崎くん』
『……あ、いえ……その、何でもありません』
そう、不思議そうに尋ねる藤川さん。まあ、それもそうでしょう。僕が彼女の立場でも、きっと同様の問いを掛けていた――きっと、そのような表情を浮かべていた自覚はありますから。
『……あの、藤川さん。その、お気持ちは大変嬉しいのですが……本当に、申し訳ありません』
『……そっか。うん、それなら仕方ないね』
ちゃんと答えてくれてありがと――そう言い残し、笑顔で教室を後にする藤川さん。ですが、いくら愚鈍な僕でも、その笑顔に隠した悲愁の色を流石に見抜けないはずもなく……本当に、申し訳ありません。
それから、およそ20分後。
いつもより足取り早く自宅へ到着――それから、挨拶もそこそこにお手洗いへ向かう僕。そして――
『……う、ゔ、ゔえええええええええええぇ』
直後、便器の中へと吐き出す僕。この20分、どうにか堰き止めていた夥しい量の吐瀉物を。
「……どうしたの!? 大丈夫、玲里!?」
「……っ!! あっ、うん、大丈夫、大丈夫だよ……ごめんね、母さん……」
「……そう、分かったわ。でも、何かあるなら遠慮せず言うのよ」
「……うん、ありがとう母さん」
すると、何かしらの――聞くに堪えないであろう何かしらの音が届いたのだろう、扉越しに心配そうな声が届く。……うん、ごめんね母さん。
その後、ひとまず全て吐き切り、ゆっくりと呼吸を整える。それから、少しずつ巡ってきた思考を整理し改めて認識する。あの瞬間、僕の心を襲った抑え難いほどの感情を。
僕で良ければ、宜しくお願いします――藤川さんの想いに、そう伝えようとした際……卒然、僕の脳裏にある光景が過ぎりました。それはきっと、彼女とのお付き合いの先に有り得るかもしれない光景。彼女と僕が、ベッドにて一糸纏わぬ姿で互いの身体を――
『――――っ!!』
刹那、僕の心を襲ったのは底知れぬ痛苦。ですが、もちろん彼女は――藤川さんは、何も悪くありません。悪いのは、僕……あの頃の底知れぬ嫌悪と恐怖を、あろうことか心優しき友人である藤川さんにまで抱いてしまった僕が悪いのです。
そして、同時に悟りました――もはや、僕は誰かを愛することなど出来ないし、そんな資格もないのだと。
ですが、彼女の要望とあらば応えないわけにはいきません。さもなくば、彼女はすぐにでもお父さま――社長さんに、父の降格を願い出るでしょう。そうなれば、あの優しい父はきっと酷く自分を責め……それだけは、なんとしても避けなければなりませんから。
――すると、半年ほど経過した冬の頃でした。ある日を境に、舞衣さんからの連絡が一切なくなりました。そして、それは即ち、彼女との例の関係がなくなったということで。
……ですが、どうしてでしょう? その後も、会社での父の地位はそのまま。例の大幅な昇進後のままなのです。……ですが、当然ながら連絡がなくなって以降は身体を差し出していません。なのに、どうして――
……いえ、考え過ぎかもしれませんね。単に、彼女が僕に飽きただけ――そのような方向で考えるのが、最も妥当なように思えますし。そして地位に関しては、父の能力を社長さんが改めて認識し、降格の必要などないと判断してくださったのでしょう。いえ、もしかするとあの昇進自体、本当は社長さんご自身が父を評価してくださった上での判断だったかもしれません。
ともあれ、そういうことでしたら何の問題もありません。僕は彼女から解放され、父が自身を責めることもない。なので、これからも家族三人楽しく穏やかな日々を紡いでいける――そう、思っていました。
『……あの、外崎くん。受験前の大切な時期に、迷惑かなとは思ったんだけど……私、外崎くんのことが好きです! だから、その……もし良かったら、付き合ってくれないかな?』
『……藤川さん』
中学三年の、ある春の日のこと。
放課後の教室にて、僕の目を真っ直ぐに見つめそう口にする女子生徒。彼女は藤川さん――昨年からのクラスメイトで、読書など趣味の合う友人です。
……ですが、正直のところ困っています。ご自身の大切な想いを告げてくださったのに、困るなどという態度は良くないと承知していますが……それでも、友人からの告白となると、友人でない方以上にどうお断りすべきかと思い倦ねてしまいまして。
『……あの、外崎くん。その、もし悩んでくれてるのなら、最初はお試しとかでも良いんだよ? とりあえず試しに付き合ってみて……それで、そのうち私のことを好きになってくれたら……』
『……藤川さん』
すると、僕の逡巡をそう解釈したようで、躊躇いがちに提案をなさる藤川さん。……いえ、申し訳ないのですが、返答の内容そのものに悩んでいたわけでは――
――そこで、ふと別の思考が過る。特別な好意がなければ、お断りしなければならない――ずっと、そのように考えていましたが……ひょっとして、必ずしもそうではないのでしょうか? 僕自身、彼女に対し友人として好意を抱いています。ならば、彼女の言うように、お付き合いの中で特別な好意へと変わっていく可能性は十分にあるのではないでしょうか? そして、彼女もそれを望んでくれていて……うん、それなら――
『――――っ!!』
『……あの、どうかした? 外崎くん』
『……あ、いえ……その、何でもありません』
そう、不思議そうに尋ねる藤川さん。まあ、それもそうでしょう。僕が彼女の立場でも、きっと同様の問いを掛けていた――きっと、そのような表情を浮かべていた自覚はありますから。
『……あの、藤川さん。その、お気持ちは大変嬉しいのですが……本当に、申し訳ありません』
『……そっか。うん、それなら仕方ないね』
ちゃんと答えてくれてありがと――そう言い残し、笑顔で教室を後にする藤川さん。ですが、いくら愚鈍な僕でも、その笑顔に隠した悲愁の色を流石に見抜けないはずもなく……本当に、申し訳ありません。
それから、およそ20分後。
いつもより足取り早く自宅へ到着――それから、挨拶もそこそこにお手洗いへ向かう僕。そして――
『……う、ゔ、ゔえええええええええええぇ』
直後、便器の中へと吐き出す僕。この20分、どうにか堰き止めていた夥しい量の吐瀉物を。
「……どうしたの!? 大丈夫、玲里!?」
「……っ!! あっ、うん、大丈夫、大丈夫だよ……ごめんね、母さん……」
「……そう、分かったわ。でも、何かあるなら遠慮せず言うのよ」
「……うん、ありがとう母さん」
すると、何かしらの――聞くに堪えないであろう何かしらの音が届いたのだろう、扉越しに心配そうな声が届く。……うん、ごめんね母さん。
その後、ひとまず全て吐き切り、ゆっくりと呼吸を整える。それから、少しずつ巡ってきた思考を整理し改めて認識する。あの瞬間、僕の心を襲った抑え難いほどの感情を。
僕で良ければ、宜しくお願いします――藤川さんの想いに、そう伝えようとした際……卒然、僕の脳裏にある光景が過ぎりました。それはきっと、彼女とのお付き合いの先に有り得るかもしれない光景。彼女と僕が、ベッドにて一糸纏わぬ姿で互いの身体を――
『――――っ!!』
刹那、僕の心を襲ったのは底知れぬ痛苦。ですが、もちろん彼女は――藤川さんは、何も悪くありません。悪いのは、僕……あの頃の底知れぬ嫌悪と恐怖を、あろうことか心優しき友人である藤川さんにまで抱いてしまった僕が悪いのです。
そして、同時に悟りました――もはや、僕は誰かを愛することなど出来ないし、そんな資格もないのだと。
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