噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?

暦海

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……どうか、私を――

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「……それ以降、失礼ながら幾度か見させていただきました。貴方が、告白を受ける場面を。そして、その度に同じ感情ものを宿していました。その綺麗な瞳に、底知れぬ負の感情を」
「……そう、ですか」


 そう伝えると、仄かに微笑み呟く先輩。その自嘲するような悲しい微笑えみに、ぎゅっと胸が締め付けられる。それでも――


「……それでも、私はそんな貴方だからこそ強く惹かれました。そして、思ったのです。この人に好きになってもらえばいい、と。だって、貴方なら……総じて女性に嫌悪を抱いている貴方なら、一度ひとたび好きになってもらえさえすれば、必ずや私だけを見てくれる。他の女性に目移りなどせず……ただ一人、私だけを」




「……八雲やくもさん」
「なので、貴方が気になさる必要など全く以てないのですよ? むしろ、そんな貴方でなくては困ります――これからも、ずっと」

 茫然とした様子で呟く先輩に、少しばかり揶揄からかうように告げる。まあ、本音ですけどね。

「……ふふっ。おかしな人ですね、八雲さんは」

 すると、言葉の通り可笑しそうに微笑みそう口にする先輩。……まあ、否定はしませんけどね。ですが、貴方も人のことは言えな――


「……ですが、そんな貴女だからこそ僕は救われたのですね。こんな僕ではありますが……貴女に出逢えて、本当に良かった。貴女のお陰で、僕はこんなにも幸せなんです。だから……本当にありがとうございます、八雲さん」
「………………」

 しばし、思考が止まる。いや、思考だけでなく呼吸さえも――だけど、それと反比例するように鼓動はおかしくなるほど脈打って。そして――


「……っ!!」


 刹那、呼吸いきの止まった音がする。今度は私でなく、先輩の呼吸いきが。……まあ、無理からぬことでしょう。と言うのも――卒然、私が彼をそっと押し倒したから。


「…………八雲、さん」

 唐突な私の行動に、呆気にとられた表情かおで呟く外崎とざき先輩。いったい何をしでかしているのでだろうと、自分でも思います。思いますが……それでも、ほっと安堵を覚える自分がいて。と言うのも――今の彼の瞳には、ひとまず見受けられないから。以前は確かに映っていた、の感情が。


「…………」

 ……うん、分かってる。これが、取るべき……少なくとも、今ここで取るべき選択ことでないことくらい。……それでも――

「……あの、八雲さ……っ!!」

 直後、驚愕の表情かおが視界に映る。そして、そのまま暫し茫然とする先輩。……まあ、それもご尤も。何故なら――その透き通る瞳に、何の前触れもなく一糸纏わぬ姿となった私が映っているのですから。


「……あの、これは……」

 そう、ポツリと呟く先輩。そのには、驚き……そして、ありありと困惑の色が見て取れて。だけど――

「……あの、八雲さ――」
「……嫌。ですか?」
「……へっ?」

 戸惑う彼を遮る形で、小さく尋ねる私。……うん、自分でも思う。いったい、何をしてるんだろうと。……だけど、

「……私は、嫌です」

 そう、ポツリと零す。……ほんとは、怖かった。震える彼を、ぎゅっと抱き締めたあの時も……華奢ながら逞しい、彼の背中に背負われていた時も――


「……もう、嫌なんです。これ以上、貴方にあんなをされるのは……これ以上、貴方に拒絶されるのは……もう、嫌なんです。だから、どうか……どうか、私を受け入れて……先輩」




「…………八雲、さん……」

 絞り出すような私の言葉に、目を大きく見開き呟く先輩。……全く、矛盾も甚だしい。拒絶されたくないなどと言っておきながら、最も拒絶されるような真似をしでかしているのですから。

 ……それでも、見てほしい。私の全てを、見て……そして、受け入れてほしい。何とも身勝手だと分かっていますが、それでも―― 


「――っ!!」

 瞬間、呼吸が止まる。卒然、彼の方から私をぎゅっと抱き締めたから。……えっと、いま、なにが――

「……すみません、八雲さん。これほどまでに貴女を苦しめ……そして、追い込んでしまって。本当に今更ではありますが、僕も……もう、貴女を拒みたくない……貴女を、愛したい」
「……せん、ぱい」

 そう、切なる声が届く。感情の全てを絞り出したような、痛ましいほどに潤んだ声。そんな彼の言葉に……想いに、私の声も湿りを帯びて。


「……大丈夫、大丈夫ですよ。私なら、大丈夫です。だから、ゆっくりでいい……少しずつでいいから、お互いのことを知っていきましょう……先輩」
「……八雲さん」

 ぎゅっと、抱き締め返し伝える。互いの吐息すら絡む距離で、囁くように。それから、どちらともなく距離を縮め――そっと、唇を重ねる。


 不器用な二人が、ようやく一歩を踏み出した――そんな、夏の終わりの夜でした。



 




 

 



 

 
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