28 / 30
……どうか、私を――
しおりを挟む
「……それ以降、失礼ながら幾度か見させていただきました。貴方が、告白を受ける場面を。そして、その度に同じ感情を宿していました。その綺麗な瞳に、底知れぬ負の感情を」
「……そう、ですか」
そう伝えると、仄かに微笑み呟く先輩。その自嘲するような悲しい微笑に、ぎゅっと胸が締め付けられる。それでも――
「……それでも、私はそんな貴方だからこそ強く惹かれました。そして、思ったのです。この人に好きになってもらえばいい、と。だって、貴方なら……総じて女性に嫌悪を抱いている貴方なら、一度好きになってもらえさえすれば、必ずや私だけを見てくれる。他の女性に目移りなどせず……ただ一人、私だけを」
「……八雲さん」
「なので、貴方が気になさる必要など全く以てないのですよ? むしろ、そんな貴方でなくては困ります――これからも、ずっと」
茫然とした様子で呟く先輩に、少しばかり揶揄うように告げる。まあ、本音ですけどね。
「……ふふっ。おかしな人ですね、八雲さんは」
すると、言葉の通り可笑しそうに微笑みそう口にする先輩。……まあ、否定はしませんけどね。ですが、貴方も人のことは言えな――
「……ですが、そんな貴女だからこそ僕は救われたのですね。こんな僕ではありますが……貴女に出逢えて、本当に良かった。貴女のお陰で、僕はこんなにも幸せなんです。だから……本当にありがとうございます、八雲さん」
「………………」
しばし、思考が止まる。いや、思考だけでなく呼吸さえも――だけど、それと反比例するように鼓動はおかしくなるほど脈打って。そして――
「……っ!!」
刹那、呼吸の止まった音がする。今度は私でなく、先輩の呼吸が。……まあ、無理からぬことでしょう。と言うのも――卒然、私が彼をそっと押し倒したから。
「…………八雲、さん」
唐突な私の行動に、呆気にとられた表情で呟く外崎先輩。いったい何をしでかしているのでだろうと、自分でも思います。思いますが……それでも、ほっと安堵を覚える自分がいて。と言うのも――今の彼の瞳には、ひとまず見受けられないから。以前は確かに映っていた、そういう類の感情が。
「…………」
……うん、分かってる。これが、取るべき……少なくとも、今ここで取るべき選択でないことくらい。……それでも――
「……あの、八雲さ……っ!!」
直後、驚愕の表情が視界に映る。そして、そのまま暫し茫然とする先輩。……まあ、それもご尤も。何故なら――その透き通る瞳に、何の前触れもなく一糸纏わぬ姿となった私が映っているのですから。
「……あの、これは……」
そう、ポツリと呟く先輩。その瞳には、驚き……そして、ありありと困惑の色が見て取れて。だけど――
「……あの、八雲さ――」
「……嫌。ですか?」
「……へっ?」
戸惑う彼を遮る形で、小さく尋ねる私。……うん、自分でも思う。いったい、何をしてるんだろうと。……だけど、
「……私は、嫌です」
そう、ポツリと零す。……ほんとは、怖かった。震える彼を、ぎゅっと抱き締めたあの時も……華奢ながら逞しい、彼の背中に背負われていた時も――
「……もう、嫌なんです。これ以上、貴方にあんな瞳をされるのは……これ以上、貴方に拒絶されるのは……もう、嫌なんです。だから、どうか……どうか、私を受け入れて……先輩」
「…………八雲、さん……」
絞り出すような私の言葉に、目を大きく見開き呟く先輩。……全く、矛盾も甚だしい。拒絶されたくないなどと言っておきながら、最も拒絶されるような真似をしでかしているのですから。
……それでも、見てほしい。私の全てを、見て……そして、受け入れてほしい。何とも身勝手だと分かっていますが、それでも――
「――っ!!」
瞬間、呼吸が止まる。卒然、彼の方から私をぎゅっと抱き締めたから。……えっと、いま、なにが――
「……すみません、八雲さん。これほどまでに貴女を苦しめ……そして、追い込んでしまって。本当に今更ではありますが、僕も……もう、貴女を拒みたくない……貴女を、愛したい」
「……せん、ぱい」
そう、切なる声が届く。感情の全てを絞り出したような、痛ましいほどに潤んだ声。そんな彼の言葉に……想いに、私の声も湿りを帯びて。
「……大丈夫、大丈夫ですよ。私なら、大丈夫です。だから、ゆっくりでいい……少しずつでいいから、お互いのことを知っていきましょう……先輩」
「……八雲さん」
ぎゅっと、抱き締め返し伝える。互いの吐息すら絡む距離で、囁くように。それから、どちらともなく距離を縮め――そっと、唇を重ねる。
不器用な二人が、ようやく一歩を踏み出した――そんな、夏の終わりの夜でした。
「……そう、ですか」
そう伝えると、仄かに微笑み呟く先輩。その自嘲するような悲しい微笑に、ぎゅっと胸が締め付けられる。それでも――
「……それでも、私はそんな貴方だからこそ強く惹かれました。そして、思ったのです。この人に好きになってもらえばいい、と。だって、貴方なら……総じて女性に嫌悪を抱いている貴方なら、一度好きになってもらえさえすれば、必ずや私だけを見てくれる。他の女性に目移りなどせず……ただ一人、私だけを」
「……八雲さん」
「なので、貴方が気になさる必要など全く以てないのですよ? むしろ、そんな貴方でなくては困ります――これからも、ずっと」
茫然とした様子で呟く先輩に、少しばかり揶揄うように告げる。まあ、本音ですけどね。
「……ふふっ。おかしな人ですね、八雲さんは」
すると、言葉の通り可笑しそうに微笑みそう口にする先輩。……まあ、否定はしませんけどね。ですが、貴方も人のことは言えな――
「……ですが、そんな貴女だからこそ僕は救われたのですね。こんな僕ではありますが……貴女に出逢えて、本当に良かった。貴女のお陰で、僕はこんなにも幸せなんです。だから……本当にありがとうございます、八雲さん」
「………………」
しばし、思考が止まる。いや、思考だけでなく呼吸さえも――だけど、それと反比例するように鼓動はおかしくなるほど脈打って。そして――
「……っ!!」
刹那、呼吸の止まった音がする。今度は私でなく、先輩の呼吸が。……まあ、無理からぬことでしょう。と言うのも――卒然、私が彼をそっと押し倒したから。
「…………八雲、さん」
唐突な私の行動に、呆気にとられた表情で呟く外崎先輩。いったい何をしでかしているのでだろうと、自分でも思います。思いますが……それでも、ほっと安堵を覚える自分がいて。と言うのも――今の彼の瞳には、ひとまず見受けられないから。以前は確かに映っていた、そういう類の感情が。
「…………」
……うん、分かってる。これが、取るべき……少なくとも、今ここで取るべき選択でないことくらい。……それでも――
「……あの、八雲さ……っ!!」
直後、驚愕の表情が視界に映る。そして、そのまま暫し茫然とする先輩。……まあ、それもご尤も。何故なら――その透き通る瞳に、何の前触れもなく一糸纏わぬ姿となった私が映っているのですから。
「……あの、これは……」
そう、ポツリと呟く先輩。その瞳には、驚き……そして、ありありと困惑の色が見て取れて。だけど――
「……あの、八雲さ――」
「……嫌。ですか?」
「……へっ?」
戸惑う彼を遮る形で、小さく尋ねる私。……うん、自分でも思う。いったい、何をしてるんだろうと。……だけど、
「……私は、嫌です」
そう、ポツリと零す。……ほんとは、怖かった。震える彼を、ぎゅっと抱き締めたあの時も……華奢ながら逞しい、彼の背中に背負われていた時も――
「……もう、嫌なんです。これ以上、貴方にあんな瞳をされるのは……これ以上、貴方に拒絶されるのは……もう、嫌なんです。だから、どうか……どうか、私を受け入れて……先輩」
「…………八雲、さん……」
絞り出すような私の言葉に、目を大きく見開き呟く先輩。……全く、矛盾も甚だしい。拒絶されたくないなどと言っておきながら、最も拒絶されるような真似をしでかしているのですから。
……それでも、見てほしい。私の全てを、見て……そして、受け入れてほしい。何とも身勝手だと分かっていますが、それでも――
「――っ!!」
瞬間、呼吸が止まる。卒然、彼の方から私をぎゅっと抱き締めたから。……えっと、いま、なにが――
「……すみません、八雲さん。これほどまでに貴女を苦しめ……そして、追い込んでしまって。本当に今更ではありますが、僕も……もう、貴女を拒みたくない……貴女を、愛したい」
「……せん、ぱい」
そう、切なる声が届く。感情の全てを絞り出したような、痛ましいほどに潤んだ声。そんな彼の言葉に……想いに、私の声も湿りを帯びて。
「……大丈夫、大丈夫ですよ。私なら、大丈夫です。だから、ゆっくりでいい……少しずつでいいから、お互いのことを知っていきましょう……先輩」
「……八雲さん」
ぎゅっと、抱き締め返し伝える。互いの吐息すら絡む距離で、囁くように。それから、どちらともなく距離を縮め――そっと、唇を重ねる。
不器用な二人が、ようやく一歩を踏み出した――そんな、夏の終わりの夜でした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる