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少しずつ、一歩ずつ――
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「…………はい」
ふと立ち止まり、じっと私を見つめ尋ねる先輩。そんな彼を、同じくじっと見つめ答える私。……まあ、どこかでくるかなとは思っていましたが。もうじき、その期日ですし。
鼓動が、強く脈を打つ。彼は、私を大切に想ってくれている――思い上がりでなく、そこは確信を抱いています。……ですが、だからこそ……もしかすると、彼は私のために――
「……正直、悩みました。僕には、その資格があるのかと。結局、あの夜ですら僕は貴女を深く傷つけてしまったのでは、と……」
「……先輩」
そう、じっと私の瞳を見つめたまま告げる先輩。言わずもがな、あの夜のことを言っているのでしょう。初めて身体を重ねたあの夜――まだ、彼の中に些かの嫌悪や恐怖といった負の感情が残っていたあの夜のことを言っているのでしょう。
……ですが、それは致し方のないこと。あの人が彼に与えた後遺症はそう容易くは拭えないでしょうし。だから――
「……ですが、それでも僕は貴女といたい。貴女の全てを受け入れ、愛したい。だから……こんな不束な僕ではありますが……どうか、もう一度だけ機会を頂けませんか? 八雲さん」
そう、真っ直ぐに告げる外崎先輩。この上もないほどに、真っ直ぐ真摯な瞳で。そんな彼に、私は――
「……すみません、少し……」
そう断り、さっと背を向ける。……やばい、止まらない。こんなぐしゃぐしゃな顔、見られたくないのに……どうしても、涙が止まらない。だけど、なにか……なにか、言わなきゃ――
「……ふふっ、不束だなんて……まるで、結婚のご挨拶のようですね」
「……そう、ですね。僕としては、将来的にそうなりたいと……やはり、重いですよね?」
「……っ!! ……い、いえ、そんなこと……」
どうにか言葉を絞り出すも、思いっ切りカウンターを食らい再び詰まる。……いや、別に勝負などしていませんが……でも、それはあまりにもずるい。そんなことを言われたら、もう――
……いや、もういいか。もう、どんな顔でもいい。いつもの顔は、いつでも見てもらえるわけですし。……これからはずっと、いつでも。なので、
「……本当に、いいのですか? もう、離してあげませんよ? ――もう、二度と」
そう、悪戯っぽい口調で告げる。すると、彼は少し可笑しそうに微笑み頷いた。
「……それにしても、未だに驚きですよね。あの外崎先輩と、こうして登校を共にしているなんて」
歩みを進めつつ、沁み沁みとそう口にする。そろそろ校舎も見えてきて、周囲にも同じ制服の生徒達がちらほら見受けられるのですが……未だに、その表情は怪訝といったものが大半で。あと、言わずもがな嫉妬の視線も刺さる刺さる。まあ、それすらも心地好かったりするのですが。
……ただ、それはそれとして。
「…………先輩?」
そう、首を傾げ尋ねる。と言うのも……何やら、先輩が何かを言いたそうな様子でもじもじしていて。……うん、可愛い。たいへん可愛いのですが……ですが、今の他愛もない言葉に、改まって返すようなことなど――
「……そう、ですね。あの頃の自分を思えば、未だに僕もたいへん驚いています……り、李星さん」
そう、呟くように言う先輩。雪のように白いそのの頬が、ほんのり朱色に染めながら。そして、そんな彼に対し――
「……っ!! ……えっと、その……」
「……嫌ですか、玲里先輩?」
「……いえ、滅相もありません」
そう、顔を上げ尋ねる。華奢ながら引き締まったその右腕を、ぎゅっと自身の両腕に抱きながら。すると、最初は驚いていたものの、ほどなく穏やかに微笑む玲里先輩。……李星、李星……ふふっ。
その後、ひとまず彼の腕を解放し再び歩みを進めていく。尤も、私としてはあのままで一向に良かったのですけど……まあ、流石に恥ずかしいでしょうし。
……ええ、分かっています。きっと、まだ時間は掛かるのでしょう。今だって、抱き締めた彼の腕は、まだ少し――
……でも、それでもいい。少しずつ、一歩ずつでいいから……二人のペースで、ゆっくり距離を縮めていけばいい。……そして、きっといつかは――
「あ、ところで玲里先輩」
「はい、どうなさいましたか……り、李星さん」
「ふふっ、緊張しすぎですよ玲里先輩?」
校門に迫った辺りで、ふと呼び掛ける。そして、未だ緊張しっぱなしの可愛い先輩を微笑ましく見ながら言葉を紡ぐ。壊れないよう、そっと――それでも、ぎゅっとその手を繋いだままで。
「噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?」
ふと立ち止まり、じっと私を見つめ尋ねる先輩。そんな彼を、同じくじっと見つめ答える私。……まあ、どこかでくるかなとは思っていましたが。もうじき、その期日ですし。
鼓動が、強く脈を打つ。彼は、私を大切に想ってくれている――思い上がりでなく、そこは確信を抱いています。……ですが、だからこそ……もしかすると、彼は私のために――
「……正直、悩みました。僕には、その資格があるのかと。結局、あの夜ですら僕は貴女を深く傷つけてしまったのでは、と……」
「……先輩」
そう、じっと私の瞳を見つめたまま告げる先輩。言わずもがな、あの夜のことを言っているのでしょう。初めて身体を重ねたあの夜――まだ、彼の中に些かの嫌悪や恐怖といった負の感情が残っていたあの夜のことを言っているのでしょう。
……ですが、それは致し方のないこと。あの人が彼に与えた後遺症はそう容易くは拭えないでしょうし。だから――
「……ですが、それでも僕は貴女といたい。貴女の全てを受け入れ、愛したい。だから……こんな不束な僕ではありますが……どうか、もう一度だけ機会を頂けませんか? 八雲さん」
そう、真っ直ぐに告げる外崎先輩。この上もないほどに、真っ直ぐ真摯な瞳で。そんな彼に、私は――
「……すみません、少し……」
そう断り、さっと背を向ける。……やばい、止まらない。こんなぐしゃぐしゃな顔、見られたくないのに……どうしても、涙が止まらない。だけど、なにか……なにか、言わなきゃ――
「……ふふっ、不束だなんて……まるで、結婚のご挨拶のようですね」
「……そう、ですね。僕としては、将来的にそうなりたいと……やはり、重いですよね?」
「……っ!! ……い、いえ、そんなこと……」
どうにか言葉を絞り出すも、思いっ切りカウンターを食らい再び詰まる。……いや、別に勝負などしていませんが……でも、それはあまりにもずるい。そんなことを言われたら、もう――
……いや、もういいか。もう、どんな顔でもいい。いつもの顔は、いつでも見てもらえるわけですし。……これからはずっと、いつでも。なので、
「……本当に、いいのですか? もう、離してあげませんよ? ――もう、二度と」
そう、悪戯っぽい口調で告げる。すると、彼は少し可笑しそうに微笑み頷いた。
「……それにしても、未だに驚きですよね。あの外崎先輩と、こうして登校を共にしているなんて」
歩みを進めつつ、沁み沁みとそう口にする。そろそろ校舎も見えてきて、周囲にも同じ制服の生徒達がちらほら見受けられるのですが……未だに、その表情は怪訝といったものが大半で。あと、言わずもがな嫉妬の視線も刺さる刺さる。まあ、それすらも心地好かったりするのですが。
……ただ、それはそれとして。
「…………先輩?」
そう、首を傾げ尋ねる。と言うのも……何やら、先輩が何かを言いたそうな様子でもじもじしていて。……うん、可愛い。たいへん可愛いのですが……ですが、今の他愛もない言葉に、改まって返すようなことなど――
「……そう、ですね。あの頃の自分を思えば、未だに僕もたいへん驚いています……り、李星さん」
そう、呟くように言う先輩。雪のように白いそのの頬が、ほんのり朱色に染めながら。そして、そんな彼に対し――
「……っ!! ……えっと、その……」
「……嫌ですか、玲里先輩?」
「……いえ、滅相もありません」
そう、顔を上げ尋ねる。華奢ながら引き締まったその右腕を、ぎゅっと自身の両腕に抱きながら。すると、最初は驚いていたものの、ほどなく穏やかに微笑む玲里先輩。……李星、李星……ふふっ。
その後、ひとまず彼の腕を解放し再び歩みを進めていく。尤も、私としてはあのままで一向に良かったのですけど……まあ、流石に恥ずかしいでしょうし。
……ええ、分かっています。きっと、まだ時間は掛かるのでしょう。今だって、抱き締めた彼の腕は、まだ少し――
……でも、それでもいい。少しずつ、一歩ずつでいいから……二人のペースで、ゆっくり距離を縮めていけばいい。……そして、きっといつかは――
「あ、ところで玲里先輩」
「はい、どうなさいましたか……り、李星さん」
「ふふっ、緊張しすぎですよ玲里先輩?」
校門に迫った辺りで、ふと呼び掛ける。そして、未だ緊張しっぱなしの可愛い先輩を微笑ましく見ながら言葉を紡ぐ。壊れないよう、そっと――それでも、ぎゅっとその手を繋いだままで。
「噂によると、女性がお嫌いとのことですが――それって、私も含まれていますか?」
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