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嫌がらせ
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「改めてですが、ありがとうございます伊織。お陰で助かりました」
「いえ、月夜さまのお役に立てたのなら幸いです。ですが、本当に汚れてはいませんか?」
「ええ、本当に。伊織の方こそ、どこも汚れてはいませんか?」
「……それなら、良いのですが……ええ、僕も大丈夫です」
「……ええ、そのようですね。それなら良かったです」
それから、一週間ほど経た昼中。
渡殿――二つの建物を繋ぐ屋根付きの廊下にて、柔らかに微笑み感謝を告げてくださる月夜さま。そして、問題ないと示すようにご自身の衣装を見やすいようこちらに向け……うん、良かった。本当に、どこも汚れてはいないようで。
さて、何のお話かというと――つい先ほど、前を歩く月夜さまへと……まあ、言葉にするのも大いに躊躇われるけれど……その、彼女へと不意に飛ばされた汚物に関するお話で。
「それにしても、先ほどの見事な身の熟し……何か、武道でもなさっていたのですか?」
「あっ、いえ武道などと立派なことは……ですが、ありがとうございます月夜さま。そうですね……強いて申し上げるなら、普段から健康には気を遣っている、ということくらいでしょうか」
「ふふっ、なんですかそれ」
その後、そんな会話を交わしつつ歩みを進める。彼女か仰っているのは、先ほどの僕の動き――汚物を飛ばされた月夜さまを咄嗟に抱え身を引きどうにか難を免れたことで。……いや、ほんと危なかった……と言うか、現実にあるんだ、こんなこと。てっきり、フィクションの中だけかと。
ところで……今更ながら、こちらも汚れなくて良かった。僕はともかく、月夜さまが選び与えてくださったこの衣装が汚れるのは頗る申し訳なく――
「……ところで、伊織。改めてですが、本当に嬉しかったですよ。先ほど、私を護ってくださって」
「あっ、いえそんな! 僕は貴女に仕える身であるからして、お護りするのは当ぜ……へっ」
すると、僕の返事が不意に止まる。と言うのも――卒然、彼女がぎゅっと僕を抱き締めていたから。
「……あ、あの、月夜さま……」
そう、茫然と呟く僕。……えっと、どゆこと? いったい、なぜ急にこんな――
「……やはり、男性ですね」
「……へっ?」
「……思いの外、と言っては失礼かもしれませんが、この逞しいお身体……ふふっ、やはり男性なのですね」
そんな困惑の最中、僕の胸で呟くようにお話しする月夜さま。何とも楽しそうな……そして、何処か安堵を感じる声音で。そんな彼女の様子に、遅ばせながらその心中を察する。
……やっぱり、辛いんだ。……でも、それも当然。恐らくは、毎日のように晒されてきた妬み嫉みの視線。そして、毎日のように受けてきたであろう先ほどのような――いや、もしかするとあれ以上に酷い嫌がらせ……そんなの、平静を保てという方が相当に無理な話で。それを思えば、今まで本当に良く頑張って……うん、こんな僕でも、ほんの少しでも彼女の心に寄り添うことが出来るなら――
「……えっと、こんなところで何を……?」
「うわ!?」
その華奢な背中に手を回そうとした刹那、不意に届いた声にハッと驚きパッと離れる。すると、何とも不服そうに僕を見つめる月夜さま。……その、ごめんなさい。
「……それで、いったいどのようなご用でしょう? そのまま通り過ぎれば良いものを、あのような状況でわざわざ声をお掛けになるくらいですし、たいそう重大なご用件なのですよね? 梨壺さま」
その後、ほどなく尋ねる月夜さま。正面にて、たいそう困惑のご様子たる黄色の髪の少女へと。……いや、あの、月夜さま。そう、八つ当たりなさらずとも……言わずもがな、彼女は何も悪くないのですし。
「いえ、月夜さまのお役に立てたのなら幸いです。ですが、本当に汚れてはいませんか?」
「ええ、本当に。伊織の方こそ、どこも汚れてはいませんか?」
「……それなら、良いのですが……ええ、僕も大丈夫です」
「……ええ、そのようですね。それなら良かったです」
それから、一週間ほど経た昼中。
渡殿――二つの建物を繋ぐ屋根付きの廊下にて、柔らかに微笑み感謝を告げてくださる月夜さま。そして、問題ないと示すようにご自身の衣装を見やすいようこちらに向け……うん、良かった。本当に、どこも汚れてはいないようで。
さて、何のお話かというと――つい先ほど、前を歩く月夜さまへと……まあ、言葉にするのも大いに躊躇われるけれど……その、彼女へと不意に飛ばされた汚物に関するお話で。
「それにしても、先ほどの見事な身の熟し……何か、武道でもなさっていたのですか?」
「あっ、いえ武道などと立派なことは……ですが、ありがとうございます月夜さま。そうですね……強いて申し上げるなら、普段から健康には気を遣っている、ということくらいでしょうか」
「ふふっ、なんですかそれ」
その後、そんな会話を交わしつつ歩みを進める。彼女か仰っているのは、先ほどの僕の動き――汚物を飛ばされた月夜さまを咄嗟に抱え身を引きどうにか難を免れたことで。……いや、ほんと危なかった……と言うか、現実にあるんだ、こんなこと。てっきり、フィクションの中だけかと。
ところで……今更ながら、こちらも汚れなくて良かった。僕はともかく、月夜さまが選び与えてくださったこの衣装が汚れるのは頗る申し訳なく――
「……ところで、伊織。改めてですが、本当に嬉しかったですよ。先ほど、私を護ってくださって」
「あっ、いえそんな! 僕は貴女に仕える身であるからして、お護りするのは当ぜ……へっ」
すると、僕の返事が不意に止まる。と言うのも――卒然、彼女がぎゅっと僕を抱き締めていたから。
「……あ、あの、月夜さま……」
そう、茫然と呟く僕。……えっと、どゆこと? いったい、なぜ急にこんな――
「……やはり、男性ですね」
「……へっ?」
「……思いの外、と言っては失礼かもしれませんが、この逞しいお身体……ふふっ、やはり男性なのですね」
そんな困惑の最中、僕の胸で呟くようにお話しする月夜さま。何とも楽しそうな……そして、何処か安堵を感じる声音で。そんな彼女の様子に、遅ばせながらその心中を察する。
……やっぱり、辛いんだ。……でも、それも当然。恐らくは、毎日のように晒されてきた妬み嫉みの視線。そして、毎日のように受けてきたであろう先ほどのような――いや、もしかするとあれ以上に酷い嫌がらせ……そんなの、平静を保てという方が相当に無理な話で。それを思えば、今まで本当に良く頑張って……うん、こんな僕でも、ほんの少しでも彼女の心に寄り添うことが出来るなら――
「……えっと、こんなところで何を……?」
「うわ!?」
その華奢な背中に手を回そうとした刹那、不意に届いた声にハッと驚きパッと離れる。すると、何とも不服そうに僕を見つめる月夜さま。……その、ごめんなさい。
「……それで、いったいどのようなご用でしょう? そのまま通り過ぎれば良いものを、あのような状況でわざわざ声をお掛けになるくらいですし、たいそう重大なご用件なのですよね? 梨壺さま」
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