四季折々の喫茶店

暦海

文字の大きさ
10 / 18

これで、もう――

しおりを挟む
「――いらっしゃいませ、優星ゆうせいさん。今日もありがとうございます!」
「おはようございます、琴水ことみさん。こちらこそ、いつも素敵な笑顔で迎えてくださりありがとうございます」


 それから、二ヶ月ほど経て。
 数多のヒマワリが彩る山の中――その中腹に佇む和の雰囲気漂う喫茶店にて、柔らかな雰囲気の若い男性を迎え入れる。もうすっかり常連と申して差し支えないであろう大学生、優星さんで。

 その後、店内を進みお席へと腰掛ける優星さん。もうほとんど定位置となっている、カウンター席の端の方へと。そして、私もいつもの通りご注文を――


「……あの、優星さん。とうとう、本日で叶うかもしれません。お亡くなりになった恋人の方を忘れるという、かねてからの優星さんのお願いが」

「…………へっ?」

 お伺いする前にそう伝えると、ポカンとしたご表情で声を洩らす優星さん。……まあ、そうなりますよね。それまではさほど効果が出ていなかったのに、突如こんなことを言われてしまえば。ですが――

「……実は昨日、普段とは違う特殊な萱草が手に入ったようでして」
「……特殊な、萱草……」
「はい。斎月いつきさんのお話によると、普段よりも圧倒的に効果が強い萱草ものとのことで……なので、今日を以て恋人の方への思いを完全に忘れられることができるかもしれない、とのことです」
「……そう、なのですね」

 そう、控えめに伝える。すると、呆然としたまま呟くように答える優星さん。……そう、これで彼の願いが叶う。これで、もう――


「……琴水さん」


 すると、ポツリと鼓膜を揺らす声。そして――


「……本当に、申し訳ありません……ですが、やっぱり僕は、玲香れいかのことを……」
「……優星さん」

 そう、ゆっくりと口にする優星さん。その声はひどく震えていて、俯く彼の頬にはすうっと綺麗な雫が伝いポツリポツリと落ちていく。そんな彼の姿に、ぎゅっと胸が締めつけられる。そして――


「……大丈夫ですよ、優星さん。それで……それで、いいんです」

 そう、そっと抱きしめ告げる。……嫌がられてないかな? それに、双葉ふたばさんにも申し訳ないけど……それでも、悲しみに震える彼の苦痛を少しでも和らげてあげられたらと。



 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌

双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。 最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~ その後

菱沼あゆ
キャラ文芸
咲子と行正、その後のお話です(⌒▽⌒)

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...