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それぞれの想い
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「……もう、大丈夫です。ご迷惑を……いえ、ありがとうございます、琴水さん」
「いえ、優星さん。少しでも、お役に立てたのであればよかったです」
それから、ほどなくして。
そう、少し目を逸らしつつ感謝の意を告げてくださる優星さん。きっと、人前で涙を見せてしまったのが恥ずかしかったのでしょう。ですが、恥ずかしがる必要などありません。そもそも、泣くことは人間にとって自然な感情の発露なのですから。
「……ですが、やはり斎月さんに対しても本当に申し訳なくて。これまで、ずっと協力してくださったのに」
「……優星さん」
すると、お言葉の通り甚く申し訳なさそうにそう口にする優星さん。……まあ、そう思ってしまうのも無理からぬこと。ですが、斎月さんも必ずや優星さんの気持ちを理解し――
「ああ、僕のことは気にしなくていいよ優星くん。そもそも、萱草なんて入ってなかったし」
「「…………へっ?」」
すると、ふと頭上から降りてきた声。もちろん、誰の声かは明白です。ですが――
「……あの、斎月さん。それは、いったい……」
「……うん、言葉の通りだよ琴水ちゃん。今まで彼に提供していたコーヒーだけど、萱草を入れたことなんて一度もない」
「……へっ? ですが、少しずつではありますが、優星さんは痛みが和らいでいると――」
「うん、萱草は入れていない。その代わり、エキナセアのエキスはいつも入れていたからね」
すると、柔和に微笑みそう口にする斎月さん。エキナセアとは、北アメリカを原産とする多年草の植物――そして、様々な苦痛を癒す万能薬として古くから重宝されてきたようです。……そして、だとすると――
「うん、優星くんは亡き恋人への想いを忘れたわけじゃない。ただ、痛みが少しずつ和らいでいただけだよ」
「……そう、だったのですね」
すると、私――いえ、恐らくは私達二人の心を読んだかのように告げる斎月さん。そして、そんな彼に呟くようにお答えになる優星さん。そのご表情からは驚き……そして、明瞭に安堵の思いが見て取れて……ええ、本当によかったです。
ですが、ややあってお表情を曇らせる優星さん。……そして、その理由は大方察せられて。
そもそも、玲香さん――彼にとってこの上もなく大切な恋人の方を、それでもどうにかして忘れようとしたのはきっと――
「…………優星」
すると、ふと鼓膜を揺らす微かな声。徐に視線を移した先には、まさしく今頭に浮かべていた華やかな雰囲気の若い女性――優星さんのご友人で婚約者たる双葉さんが、開いた扉の近くで彼をじっと見つめ佇んでいて。
「…………双葉」
そう、ポツリと口にする優星さん。双葉さんのご表情から察するに、どこからかは分かりませんが恐らくは先ほどのお話を聞いていたのでしょう。
そう、優星さんがあれほどまでに玲香さんを忘れようとしていたのは、きっと双葉さんを想ってのこと。誠実な彼のお人柄から考えても、もう亡くなっているとはいえ他の人への恋心が残っている状態で結婚の申し出をするとは思えない。なので、優星さんご自身の意思でないのは明白ですが……それでも、夫となると決まった以上は何としても妻――双葉さんのことを一心に愛さなければならないと決意したのでしょう。……それで、さながら魔法のような効果で無理やり忘れさせるという、お世辞にも正しいとは言えないであろう方法さえも受け入れて――
「……ごめん、双葉。僕は――」
「……よかった」
その後、優星さんが言葉を紡ぐも遮る形でポツリと呟く双葉さん。そして――
「……ねえ、優星。私達、幼い頃からずっと一緒にいるんだよ。だから、知らないわけないじゃん。優星が、どれだけ玲香さんのことを想ってたのかくらい。……だから、無理やり忘れるなんて絶対ダメ。すぐにじゃなくていい、いつになってもいい。いつか、玲香さんへの想いを自然に忘れちゃうくらい、私のことを好きになってくれたらいいから……だから、今まで通りでこれからも一緒にいてほしい。私の好きな、ありのままの貴方で」
「……双葉」
そう、優星さんを真っ直ぐに見つめお伝えになる双葉さん。傍からでも胸を打つほどに伝わる、真っ直ぐで暖かな想いを乗せて。そして――
「……うん、本当に……本当にありがとう、双葉」
そう、目に涙を浮かべ応える優星さん。ちらと視線を移すと、そこにはカウンター越しに温かな微笑を浮かべる美男子の姿が。すると、ほどなく視線に気づいたようで私へと……うん、急に笑いかけないでくださいよ、そんな優しい笑顔で。ほんとにドキッとしますから。
……まあ、それはともあれ……そんな罪な男たる斎月さんの胸中が、今は手に取るように分かります。何故なら……きっと、私と同じでしょうから。優星さん、双葉さん……どうか、末永くお幸せに。
「いえ、優星さん。少しでも、お役に立てたのであればよかったです」
それから、ほどなくして。
そう、少し目を逸らしつつ感謝の意を告げてくださる優星さん。きっと、人前で涙を見せてしまったのが恥ずかしかったのでしょう。ですが、恥ずかしがる必要などありません。そもそも、泣くことは人間にとって自然な感情の発露なのですから。
「……ですが、やはり斎月さんに対しても本当に申し訳なくて。これまで、ずっと協力してくださったのに」
「……優星さん」
すると、お言葉の通り甚く申し訳なさそうにそう口にする優星さん。……まあ、そう思ってしまうのも無理からぬこと。ですが、斎月さんも必ずや優星さんの気持ちを理解し――
「ああ、僕のことは気にしなくていいよ優星くん。そもそも、萱草なんて入ってなかったし」
「「…………へっ?」」
すると、ふと頭上から降りてきた声。もちろん、誰の声かは明白です。ですが――
「……あの、斎月さん。それは、いったい……」
「……うん、言葉の通りだよ琴水ちゃん。今まで彼に提供していたコーヒーだけど、萱草を入れたことなんて一度もない」
「……へっ? ですが、少しずつではありますが、優星さんは痛みが和らいでいると――」
「うん、萱草は入れていない。その代わり、エキナセアのエキスはいつも入れていたからね」
すると、柔和に微笑みそう口にする斎月さん。エキナセアとは、北アメリカを原産とする多年草の植物――そして、様々な苦痛を癒す万能薬として古くから重宝されてきたようです。……そして、だとすると――
「うん、優星くんは亡き恋人への想いを忘れたわけじゃない。ただ、痛みが少しずつ和らいでいただけだよ」
「……そう、だったのですね」
すると、私――いえ、恐らくは私達二人の心を読んだかのように告げる斎月さん。そして、そんな彼に呟くようにお答えになる優星さん。そのご表情からは驚き……そして、明瞭に安堵の思いが見て取れて……ええ、本当によかったです。
ですが、ややあってお表情を曇らせる優星さん。……そして、その理由は大方察せられて。
そもそも、玲香さん――彼にとってこの上もなく大切な恋人の方を、それでもどうにかして忘れようとしたのはきっと――
「…………優星」
すると、ふと鼓膜を揺らす微かな声。徐に視線を移した先には、まさしく今頭に浮かべていた華やかな雰囲気の若い女性――優星さんのご友人で婚約者たる双葉さんが、開いた扉の近くで彼をじっと見つめ佇んでいて。
「…………双葉」
そう、ポツリと口にする優星さん。双葉さんのご表情から察するに、どこからかは分かりませんが恐らくは先ほどのお話を聞いていたのでしょう。
そう、優星さんがあれほどまでに玲香さんを忘れようとしていたのは、きっと双葉さんを想ってのこと。誠実な彼のお人柄から考えても、もう亡くなっているとはいえ他の人への恋心が残っている状態で結婚の申し出をするとは思えない。なので、優星さんご自身の意思でないのは明白ですが……それでも、夫となると決まった以上は何としても妻――双葉さんのことを一心に愛さなければならないと決意したのでしょう。……それで、さながら魔法のような効果で無理やり忘れさせるという、お世辞にも正しいとは言えないであろう方法さえも受け入れて――
「……ごめん、双葉。僕は――」
「……よかった」
その後、優星さんが言葉を紡ぐも遮る形でポツリと呟く双葉さん。そして――
「……ねえ、優星。私達、幼い頃からずっと一緒にいるんだよ。だから、知らないわけないじゃん。優星が、どれだけ玲香さんのことを想ってたのかくらい。……だから、無理やり忘れるなんて絶対ダメ。すぐにじゃなくていい、いつになってもいい。いつか、玲香さんへの想いを自然に忘れちゃうくらい、私のことを好きになってくれたらいいから……だから、今まで通りでこれからも一緒にいてほしい。私の好きな、ありのままの貴方で」
「……双葉」
そう、優星さんを真っ直ぐに見つめお伝えになる双葉さん。傍からでも胸を打つほどに伝わる、真っ直ぐで暖かな想いを乗せて。そして――
「……うん、本当に……本当にありがとう、双葉」
そう、目に涙を浮かべ応える優星さん。ちらと視線を移すと、そこにはカウンター越しに温かな微笑を浮かべる美男子の姿が。すると、ほどなく視線に気づいたようで私へと……うん、急に笑いかけないでくださいよ、そんな優しい笑顔で。ほんとにドキッとしますから。
……まあ、それはともあれ……そんな罪な男たる斎月さんの胸中が、今は手に取るように分かります。何故なら……きっと、私と同じでしょうから。優星さん、双葉さん……どうか、末永くお幸せに。
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