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風奈さんはご心配?
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「いやー流石に疲れたあ。でも、心地好い疲れっていうか、楽しかったなぁ」
「はい、そのお気持ち分かります風奈さん」
「ふふっ、ありがと。ところで、陶夜先輩ってすごいんだなって。教え方も上手いし、ミスしてもすぐフォローしてくれるし。だから、ありがとね陶夜先輩っ」
「……い、いえそんな……ですが、ありがとうございます風奈さん」
それから、数時間後。
帰り道、ほのぼのとそんな応酬を交わす僕ら。僕なんかがちゃんと教えられるか不安だったけど、彼女の様子からホッと安堵を……うん、ほんと良かった。
「……ところで、風奈さんこそ本当にすごいです。初日なのに、もうほとんど覚えてテキパキとお仕事を……それに、ミスといっても風奈さんのは本当にちょっとしたもので。最初の頃の僕なんて、甚だ大きなミスでお店の人にもお客さんにもご迷惑を掛けてしまい……」
「……そっか。うん、ありがと陶夜先輩っ」
そう伝えると、満面の笑顔で謝意を告げてくれる風奈さん。ちなみに、お世辞などではなく全部本心で。風奈さんは本当に覚えが早く、一度教わったことはほぼ聞き直すことなくスムーズに出来ていたし、彼女の言うミスだって本当にちょっとしたもの。それこそ、当時の僕に比べれば……うん、本当に申し訳ないです。
……ただ、それはそれとして――
「……あの、風奈さん。ずっと言おうと思ってはいたのですが……その、出来ればその呼び方は控えていただけると」
「あははっ。いやーなんか一回呼んでみたら楽しくなっちゃって。でも、間違ってはないでしょ?」
「……まあ、職場ではそうかもですけど」
「あと、ある意味高校でも君の方が先輩だよ? だって、明城には一ヶ月くらい前に来たばっかりだし、私」
「……いや、その理屈はどうかと」
すると、何とも楽しそうにそんなことを言う風奈さん。いや、職場はともかく学校はどうかと……まあ、僕としては職場でもどこでもその呼び方は控えていただきたいのだけど。
ともあれ、10分ほどの説得の後、どうにか以前の呼び方に戻してもらうことに成功……ふぅ、ほんと良かった。
……さて、それはそれとして――
「……ところで、風奈さん。これもずっと聞こうと思っていたのですが、どうして突然こちらに……あっ、いえもちろん駄目というわけではないのですが!」
「ふふっ、分かってるよ陶夜くん」
自分で言いながら一人慌てる僕に、可笑しそうな微笑で答える風奈さん。……ふぅ、良かった。あと、呼び方が戻ったことも良かった。やっぱり、先輩なんて僕には似合わな……そもそも似合う似合わないもないか。
まあ、それはともあれ……実際、どうして突然アルバイトを? それに、月乃音というカフェで働いていることは彼女に伝えていたので、仕事先にこちらを選んだのも全くの偶然ではないと思……あっ、もちろん駄目だというわけではなくむしろものすごく嬉しくて! ……ただ、単純に疑問に思っただけで――
「…………だって、心配だったし」
「…………へっ?」
すると、呟くように告げる風奈さん。……えっと、心配? でも、いったい何に……あっ、ひょっとしてコミュ障の僕が接客業という高度なトークスキルを要する専門職においてきちんと声を出せてるかどうか心配してくれて――
「……その、陶夜くんがいやらしいお店で働いてると思ってて」
「なにゆえ!?」
一人しんみり感動を覚えていた最中、全く以て思い掛けない言葉にハッと我に返る僕。いやなにゆえ!? カフェって言いましたよね、僕!? どこにそんな突飛な解釈をする要素が――
「……それで、もしかしたら陶夜くん、騙されてるのかなって思って……それで、私も職場に忍び込んで陶夜くんを助けようと。……でも、うん、私の勘違いだったみたいで……だから、ごめんね?」
「……風奈さん」
すると、少し目を逸らしつつ話す風奈さん。少し恥ずかしそうに、ほんのり頬を染めて。……正直、やっぱり分からない。いったい、どうしてそんな不思議な勘違いをしたのか……だけど――
「……いえ、謝らないでください。先輩のお気持ち、すごく嬉しいです。だから、ありがとうございます風奈さん」
「……陶夜くん」
そう、笑って答える。うん、理由なんて分からなくていい。彼女が、本当に僕を心配し助けようとまでしてくれた――それだけで、僕はこんなにも嬉しいんだから。
「はい、そのお気持ち分かります風奈さん」
「ふふっ、ありがと。ところで、陶夜先輩ってすごいんだなって。教え方も上手いし、ミスしてもすぐフォローしてくれるし。だから、ありがとね陶夜先輩っ」
「……い、いえそんな……ですが、ありがとうございます風奈さん」
それから、数時間後。
帰り道、ほのぼのとそんな応酬を交わす僕ら。僕なんかがちゃんと教えられるか不安だったけど、彼女の様子からホッと安堵を……うん、ほんと良かった。
「……ところで、風奈さんこそ本当にすごいです。初日なのに、もうほとんど覚えてテキパキとお仕事を……それに、ミスといっても風奈さんのは本当にちょっとしたもので。最初の頃の僕なんて、甚だ大きなミスでお店の人にもお客さんにもご迷惑を掛けてしまい……」
「……そっか。うん、ありがと陶夜先輩っ」
そう伝えると、満面の笑顔で謝意を告げてくれる風奈さん。ちなみに、お世辞などではなく全部本心で。風奈さんは本当に覚えが早く、一度教わったことはほぼ聞き直すことなくスムーズに出来ていたし、彼女の言うミスだって本当にちょっとしたもの。それこそ、当時の僕に比べれば……うん、本当に申し訳ないです。
……ただ、それはそれとして――
「……あの、風奈さん。ずっと言おうと思ってはいたのですが……その、出来ればその呼び方は控えていただけると」
「あははっ。いやーなんか一回呼んでみたら楽しくなっちゃって。でも、間違ってはないでしょ?」
「……まあ、職場ではそうかもですけど」
「あと、ある意味高校でも君の方が先輩だよ? だって、明城には一ヶ月くらい前に来たばっかりだし、私」
「……いや、その理屈はどうかと」
すると、何とも楽しそうにそんなことを言う風奈さん。いや、職場はともかく学校はどうかと……まあ、僕としては職場でもどこでもその呼び方は控えていただきたいのだけど。
ともあれ、10分ほどの説得の後、どうにか以前の呼び方に戻してもらうことに成功……ふぅ、ほんと良かった。
……さて、それはそれとして――
「……ところで、風奈さん。これもずっと聞こうと思っていたのですが、どうして突然こちらに……あっ、いえもちろん駄目というわけではないのですが!」
「ふふっ、分かってるよ陶夜くん」
自分で言いながら一人慌てる僕に、可笑しそうな微笑で答える風奈さん。……ふぅ、良かった。あと、呼び方が戻ったことも良かった。やっぱり、先輩なんて僕には似合わな……そもそも似合う似合わないもないか。
まあ、それはともあれ……実際、どうして突然アルバイトを? それに、月乃音というカフェで働いていることは彼女に伝えていたので、仕事先にこちらを選んだのも全くの偶然ではないと思……あっ、もちろん駄目だというわけではなくむしろものすごく嬉しくて! ……ただ、単純に疑問に思っただけで――
「…………だって、心配だったし」
「…………へっ?」
すると、呟くように告げる風奈さん。……えっと、心配? でも、いったい何に……あっ、ひょっとしてコミュ障の僕が接客業という高度なトークスキルを要する専門職においてきちんと声を出せてるかどうか心配してくれて――
「……その、陶夜くんがいやらしいお店で働いてると思ってて」
「なにゆえ!?」
一人しんみり感動を覚えていた最中、全く以て思い掛けない言葉にハッと我に返る僕。いやなにゆえ!? カフェって言いましたよね、僕!? どこにそんな突飛な解釈をする要素が――
「……それで、もしかしたら陶夜くん、騙されてるのかなって思って……それで、私も職場に忍び込んで陶夜くんを助けようと。……でも、うん、私の勘違いだったみたいで……だから、ごめんね?」
「……風奈さん」
すると、少し目を逸らしつつ話す風奈さん。少し恥ずかしそうに、ほんのり頬を染めて。……正直、やっぱり分からない。いったい、どうしてそんな不思議な勘違いをしたのか……だけど――
「……いえ、謝らないでください。先輩のお気持ち、すごく嬉しいです。だから、ありがとうございます風奈さん」
「……陶夜くん」
そう、笑って答える。うん、理由なんて分からなくていい。彼女が、本当に僕を心配し助けようとまでしてくれた――それだけで、僕はこんなにも嬉しいんだから。
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