玲瓏たる月の下、命懸けの恋を貴方と

暦海

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……うん、よそう。

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「――ねえ、どうだったさっきのお客」
「ああ、それがぶら提灯でね~。まあ、何とか勃たせたけどちょっと大変だったわ」
「ああ、それは大変よね。でも、お客が悪いわけでもないから責めることも出来ないのよね~」
「そうなのよね~。あのお客も気にしてたし、ちょっと可哀想な気もしちゃったわ」


 それから、ほどなくして。
 宴会場へと向かう廊下にて、そんなやり取りを交わすのは20代前半の先輩遊女達。『ぶら提灯』とはここ遊郭にて使用される隠語の一つで、端的に言うと勃起しない陰茎のことで。
 ちなみに、私のお客さまの中にもそういう人は数人いたし、これでも遊女プロ――あの手この手を使って何とか勃たせようとするんだけど、なかなか上手くいかないこともしばしばで。……まあ、彼女達の言うように、お客さまが悪いわけでもないし仕方がないんだけども。



「――あら、おかえり鈴珠すず。貴女のお客はあっちよ」
「はい、ありがとうございます文代ふみよさま」


 それから、ほどなくして。
 徐に宴会場の扉を開くと、私を見るなりそんな指示を出す鋭い目つきの遣手やりての女性、文代さま。『遣手』とは私達遊女の監督や教育、そしてお客さまと遊女の仲介などを担う役職で、遊女を引退した30代以上の女性が務めることが多いとのこと。そして、遣手の技量一つでお店の利益にも大いに影響があるらしいので大変重要な役職と言うよう。

 ……ただ、そうは言っても……うん、怖い。とにかく怖い。遊女側に何か問題があろうものなら、重箱をつつくようにあれこれ叱られ……うん、それならまだマシな方。暴力を振るわれることも珍しくないし、更にはもっと酷いことさえも……うん、よそう。これ以上は言ってて鬱になってくるし。ともあれ、皆さん直接は言わないけど彼女のことを良くは思っていなくて……まあ、流石に本人も気づいてるだろうけど。

 まあ、それはさて措き文代さんの示した方向へと歩を進めていく。すると、こちらに向かい陽気に手を振るのは既に酔いが回っているとおぼしき武士たる男性の姿。そんな彼の前に座り、ニコッと笑顔を浮かべ告げる。


「――今日も来てくれてありがと、旦那さま! 今日もよろしくね?」





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