22 / 32
玲瓏たる月の下、命懸けの恋を貴方と
しおりを挟む
(……さて、こっからだけど……それじゃ、お願いしていいんだよね? 深影さん)
(……はい、もちろんです鈴珠さん)
ともあれ、塀の前にて声を潜めつつそんなやり取りを交わす私達。お願いしていい、とは遊郭から抜け出す方法――逞しい深影さんがひ弱な私を抱え、この高い塀を越えていくという至極単純な方法で……うん、ほんとに申し訳ない。でも、恐らくはそれしか方法がなくて。
そして、なるべく息を潜めつつ私を抱え塀を登っていく深影さん。同世代の子と比べても軽いであろう私ではあるけれど、それでも人ひとりを抱え悠々と上がっていく彼の姿をただただ感嘆の念で見つめる。部分的にとはいえ、身体が密着していることも相俟り鼓動が高鳴って仕方がない。……まあ、流石に鼓動で追っ手にバレるとかはないだろうけど。
ともあれ、ひとまずバレる気配もなく塀の最上部へと登っていく深影さん。そして――
「――――っ!!」
刹那、呼吸が止まり――そして、胸が震える。……別に、変わった景色じゃない。華やかな景色でもない。そもそも、そんな景色はいらない。
……だって、欲しかったのはこの景色――あの日から五年以上、ずっと再びこの目にする日を待ち焦がれていた、この郭外の景色なのだから。
「……ところでさ、深影さん。本当に今更だし、私から巻き込んでおいてだけど……そっちこそ、本当に良かったの?」
その後、慎重を期しつつ郭外の地へとそっと降り立った私達。本来ならこの地の感触を沁み沁みと噛み締めたいところではあるのだけども、生憎そういう場合でもなく。と言うのも、私もだけど彼も……と言うより、私にとっては彼側の方が大いに問題で。
前述の通り、妻がいても遊女と関係を持つことは禁止されていない。尤も、それによる夫婦間の諍いは生じるかもしれないけれど、法律の上で禁止されているわけではない。……だけど、禁止されていないのは、あくまで妓楼にてお客さまとして遊女と関係を持つこと。
そして、言わずもがな今の状況はまるで違う。妻のいる男性と元遊女が、郭外の世界でにて常に二人で――これは、誰がどう見てもいわゆる不倫に当たるだろう。そして、江戸時代における不倫に対する罰は――死刑。つまりは――
「……ええ、僕のことは心配しないでください。これからも宜しくお願い致します、鈴珠さん」
「……深影さん……うん、ありがと!」
すると、柔らかな声音でそう口にする深影さん。僅かながら……それでも、その柔らかな唇に確かな微笑みを湛えながら。そして、どちらからともなくそっと手を取り結びゆっくりと歩を進めていく。
――玲瓏たる月の下、命懸けの恋が幕を開けた。
(……はい、もちろんです鈴珠さん)
ともあれ、塀の前にて声を潜めつつそんなやり取りを交わす私達。お願いしていい、とは遊郭から抜け出す方法――逞しい深影さんがひ弱な私を抱え、この高い塀を越えていくという至極単純な方法で……うん、ほんとに申し訳ない。でも、恐らくはそれしか方法がなくて。
そして、なるべく息を潜めつつ私を抱え塀を登っていく深影さん。同世代の子と比べても軽いであろう私ではあるけれど、それでも人ひとりを抱え悠々と上がっていく彼の姿をただただ感嘆の念で見つめる。部分的にとはいえ、身体が密着していることも相俟り鼓動が高鳴って仕方がない。……まあ、流石に鼓動で追っ手にバレるとかはないだろうけど。
ともあれ、ひとまずバレる気配もなく塀の最上部へと登っていく深影さん。そして――
「――――っ!!」
刹那、呼吸が止まり――そして、胸が震える。……別に、変わった景色じゃない。華やかな景色でもない。そもそも、そんな景色はいらない。
……だって、欲しかったのはこの景色――あの日から五年以上、ずっと再びこの目にする日を待ち焦がれていた、この郭外の景色なのだから。
「……ところでさ、深影さん。本当に今更だし、私から巻き込んでおいてだけど……そっちこそ、本当に良かったの?」
その後、慎重を期しつつ郭外の地へとそっと降り立った私達。本来ならこの地の感触を沁み沁みと噛み締めたいところではあるのだけども、生憎そういう場合でもなく。と言うのも、私もだけど彼も……と言うより、私にとっては彼側の方が大いに問題で。
前述の通り、妻がいても遊女と関係を持つことは禁止されていない。尤も、それによる夫婦間の諍いは生じるかもしれないけれど、法律の上で禁止されているわけではない。……だけど、禁止されていないのは、あくまで妓楼にてお客さまとして遊女と関係を持つこと。
そして、言わずもがな今の状況はまるで違う。妻のいる男性と元遊女が、郭外の世界でにて常に二人で――これは、誰がどう見てもいわゆる不倫に当たるだろう。そして、江戸時代における不倫に対する罰は――死刑。つまりは――
「……ええ、僕のことは心配しないでください。これからも宜しくお願い致します、鈴珠さん」
「……深影さん……うん、ありがと!」
すると、柔らかな声音でそう口にする深影さん。僅かながら……それでも、その柔らかな唇に確かな微笑みを湛えながら。そして、どちらからともなくそっと手を取り結びゆっくりと歩を進めていく。
――玲瓏たる月の下、命懸けの恋が幕を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる